満水にせず原子炉過熱招く
 福島第一に人災の影(下)
 
3月30日 11:38
 
■電源長期喪失、想定せず
 
 外部電源が長時間復旧しなかった第一原発。
 
 地震直後、その事態を想定していなかったため、
原子炉を満水にすることをやめてしまい、
冷却のための十分な対応をとることができなかったことも明らかになった。
 
 東電関係者によると、ある原子炉は11日の地震の直後、
緊急停止して炉内への注水が始まったが、
水位が一定の高さに達したところで自動的に止められていた。
 
 通常の場合、炉内を水でいっぱいにすると、水がタービンのほうに流れ、
タービンに悪い影響を及ぼす恐れがあるため、
一定の水位で注水を自動停止するように設定されていたという。
 
 だが、今回の場合、その後に想定外の高さの津波が襲ってきた。
 
 津波で電源が失われ、注水ポンプが動かなくなり、
長時間にわたって冷却できない事態に陥った。
 
 東電の中堅幹部は、直ちに原子炉を満水にしておくべきだったのではないかと問われ、
「私も個人的にはそう思っています」と述べた。
 
 そうならなかったのは、
「数時間あれば、外部電源が復旧するだろうという前提になっていた」からだという。
 
 原発では「外部電源全喪失」を想定した手順が事前に定められ、
訓練もされている。
 
 東電関係者は「結果論だが、(タービンを守る機能が)かえって裏目に出てしまった」と話した。
 
 「(津波が来るまでの)数分間に、『じゃあ、満水まで持っていけ』と考えた人はいたかもしれないが、
そこまで踏み切れたか。
 
 ちょっとそこは分からない」。
 
中堅幹部は振り返った。
 
〈宮崎慶次・大阪大名誉
教授(原子炉工学)の話〉
 
 09年に国の審議会で大津波の可能性が指摘されていた。
 
 原発を高い場所に移すのは無理でも、重要設備の防水くらいはできた。
 
 地震直後に原子炉内を満水にしなかったのも見通しが甘い。
 
 いったんシステムが止まるとすぐに再稼働できない。
 
 満水にしておけば、燃料の損傷を避けられたかもしれない。
 
 さらに言えば、なぜ圧力容器や格納容器から圧力を逃がす弁をすぐに開かなかったのか。
 
 躊躇(ちゅう・ちょ)している間に弁を動かすバッテリーが切れたのではないか。
 
 オペレーターらの非常時対応の教育がどうだったのか、検証が必要だ。
 
 
〈技術評論家の桜井淳さんの話〉
 
 福島第一原発は1960年代の技術によって試行錯誤で造られており、
安全上、おかしな点が多々ある。
 
 ポンプ設備や非常用電源などの防水性も含め、
注意深い設計がなされていない。
 
 事故時の命綱である非常用ディーゼルが、
タービン建屋の地下1階にあるのも間違っている。
 
 タービン建屋は原子炉建屋よりも耐震性が低い。
 
 他の多くの原発では原子炉建屋の地下に設置している。
 
 今回は海水による冷却施設など補助的なシステムが不具合を起こしたことで、
全体の機能に影響を及ぼした。
 
 設計や機器の配置がちぐはぐだった結果だ。
 
■朝日新聞社