●国政の場で指摘されていた
福島第一原発への「不安」
 
東洋経済オンライン
 
 [3/28 11:01]
 
 東日本大震災による被災で、
国内最悪の原発事故を引き起こした東京電力・福島第一原子力発電所。
 
 震災そのものが未曾有の規模であったのが最大の要因だが、
被災直後の初動に問題があるなどの指摘も出ている。
 
 今後は東京電力や政府が事故のリスクをどれだけ予見できていたかがひとつの焦点となるが、
福島第一原発についてはその安全性に対する懸念が
国政の場で繰り返し指摘されていたことが、国会議事録でわかった。
 
 福島第一原発は地震発生直後に稼働そのものは自動停止したが、
続く冷却作業が遅れたことから被害が拡大したとされる。
 
 1号機の場合、政府の原子力災害対策本部は11日午後3時42分に電源を喪失したこと、
午後4時36分に非常時の炉心冷却装置による
注水が不能な状態になったことを確認している。
 
 地震と津波の影響で電源と冷却機能が失われる可能性は、
2006年3月1日の衆議院予算委員会で吉井英勝議員(日本共産党)が指摘していた。
 
 吉井議員は、福島第一原発は地震の際に津波の引き波で冷却水が取水できなくなる危険性を挙げた後
大規模地震によってバックアップ電源の送電系統が破壊されるということがあり、
循環させるポンプ機能そのものが失われるということも考えなきゃいけない。
 その場合には、炉心溶融という心配もでてくることを
きちんと頭に置いた対策をどう組み立てるのか」と指摘している。
 
 原子核工学を専攻した吉井議員はこれ以外にも、
震災時の原発事故の危険性について複数回質問している。
 
 10年5月26日の経済産業委員会では、
福島第一についてではないものの、
「巨大地震に直面したとき、自家発(電)の電源も切断されて原発停止となった場合には、
最悪どういう事態が起こるとお考えか」と質問。
 
 これに対し経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長は
「停止した後、崩壊熱(原子炉停止後も放射性物質の崩壊で生じる熱)を冷却していくことが大切」、
 
「非常用の電源装置を複数用意すること、あるいはそれ以外の要素で、冷却機能が継続的に動くことが大切」と答えている。
 
 まさに今回の事故の危険性とその防止措置が議論されていたのだ。
 
 また今回の事故では、冷却機能の停止以降に
海水を注入して冷却するという代替手段が講じられたのは、
冷却装置が使えないと判明してから実に約28時間後の12日20時20分。
 
 この間に水素爆発が生じ、消火活動が必要になった。
 
 08年4月の参議院災害対策特別委員会では佐藤正久議員(自由民主党)が、
 
新潟県中越沖地震の際に柏崎刈羽原発で火災が発生したことを踏まえて
福島第一・第二原発について触れ、
「地元(福島県、佐藤議員は福島出身)からも安全確保についての緊急要望が寄せられている。
どのような措置を柏崎刈羽の教訓を受け、やっているか」と質問した。
 
 これに対し原子力安全・保安院の加藤重治審議官(当時)は、
「中越沖地震では原子炉が停止した状態では炉の安全には直接の影響はなかったが、
その消火に非常に手間取った、消火設備が地震で破損した、
あるいは自衛消防が機能しなかったという問題がある」と答え、
設備強化などの対応を進めると答えている。
 
 福島第一には化学消防車が配備されているほか、
自衛消防隊が組織されている。
 
 今回の事故後の消防隊の動きは詳細には伝えられていないが、
全国紙の報道などによると、
作業員が浴びる放射線の限度が定められていることから
十分に機能することが難しかったようだ。
 
 東京電力の情報開示姿勢を問題視する声もあった。
 
 07年3月、東京電力が福島第一の3号機で定期検査中に発生した臨界状態を隠蔽していたことが発覚。
 
 同年5月の参議院行政監視委員会では近藤正道議員(社民党)が、
「過去の原子炉規制法33条の処分例、
つまり運転停止1年、この処分例を見ても、
どうして今回のようなケースが停止にならないのか。
設置許可の取り消しがあってもおかしくない」と質問。
 
 これに対し、原子力安全・保安院の広瀬研吉院長(当時)は
「隠蔽に対するペナルティーの法的な制度の強化は考えていない」と回答するにとどまっている。
 
 このほかにも福島第一については、
設備の老朽化を不安視する質問などがあった。
 
 国会での質疑に限っても、
何度も示されていた福島第一への疑問。
 
 国内過去最悪の原発事故は、
天災だけが招いたものではないとみるのが自然だろう。
 
(杉本 りうこ=東洋経済オンライン)