徒然草を少しづつ読み進めています。今日は110段。ここでは負けない方法について記してありますが、今の日本人の気持ちにも通じるものを感じました。
 
(原文)
 双六(すごろく)の上手といひし人に、その手立を問ひ侍りしかば、「勝たんと打つべからず。負けじと打つべきなり。いづれの手かとく負けぬべきと案じて、その手を使はずして、一目なりともおそく負くべき手につくべし」と言ふ。
 道を知れる教へ、身を治め、国を保たん道も、またしかなり。
 
(口語訳)
 すごろく(現在の絵すごろくとは違う)の名人といわれた人に、その必ず勝つ方法をたずねましたところ、その名人は「勝とうと思って打ってはならない、負けまいと思って打つべきである。どの指し手がかならず早く負けるを考えて、その手を使わないで、一目でも遅く負けるような手をとるのがよい」という。
 この教えは専門の道を知っている人のもので、自己の人格を磨き、国を治める道も、また同じである。
 
(感想)
 みなさんは子供が運動会で走っているときどのように応援いたしますか。以下の中から選んでみてください。
      ①がんばれ、がんばれ
      ②負けるな、負けるな
      ③勝て、勝て

 おそらく日本人なら、「がんばれ、がんばれ」と応援する人が多いと思います。中には「負けるな、負けるな」と応援する人もいるかもしれません。美空ひばりが歌った「柔」では、
 
      勝つと思うな 思えば負けよ
      負けてもともと この胸が
      奥に生きてる 柔の夢が
      一生一度を 一生一度を
      待っている
 
 「勝つと思うな」ですから「勝て」ではありません。日本人は「勝て」とはあまり応援しないようです。
 
 一方、韓国では「勝て、勝て。(ハギョレ、ハギョレ)」と応援するのだそうです。面白いですね。このちがいは、両国の歴史、環境などからくるのでしょうか。呉善花(オ ソンファ)さんは次のように言っています。
 
 「がんばれ」とか「まけるな」という言葉から感じられるのは、しぶとさ、我慢強さ、へこたれない強さを求める気持ちである。あえて「勝て」といわないのは、結果的な勝利へのこだわりを避けたいためであろうか。
 一方、「勝て」とはストレートに「優劣を競って勝者になれ」以外の意味はない。そこにあるのは、優勝劣敗の価値観であり、強者が栄え敗者が滅びる競争を戦い抜けという気持ちである。