蘇れ!カセットテープ ~MSX実機派の貴方へ~ | MSX研究所日記

蘇れ!カセットテープ ~MSX実機派の貴方へ~

今は昔、カセットテープにプログラムを記録していた時代がありました。
1980年代末くらいまで、パソコン本体にはカセットテープ用のインターフェースが標準装備されていたのです。
我らがMSXはROMカートリッジが使えること大きな特長でしたが、より安価に作ることのできるカセットテープで販売されたソフトも多数(数百種)存在します。
オールドPC界隈、特にカートリッジが広く普及したMSXでは「カセット」ではどっちを指すのか分からないので、「カートリッジ」「テープ」と言い分けるのが暗黙の了解です。
うっかり「カセットのゲーム」などと口走ろうモノなら「コイツ、分かってないな」と冷たい目で見られることは必定なので、気をつけましょう(ややウソ)。

問題は、カセットテープでしか販売されなかったソフトも多くある、ということです。

今日では復刻されてエミュレータで手軽に遊べるようになったテープゲームもありますが、その数は決して多くありません。また、エミュレータではなく実物のMSXで遊びたい!という「実機派」と呼ばれる方も多くいらっしゃいます。かく言う私もバリバリの実機派です。しかし、「テープの再生が遅い」といった元々の事情以外にも、「再生する度にテープ自体が劣化する」「パソコン用データレコーダの経年故障」といった問題があり、年月を経るごとに気軽に遊ぶことが困難になっています。

しかし!テクノロジーの進歩はカセットテープのゲームを愛する少数の人々(私含む)の元に光をもたらしてくれました。
それがこれ。リニアPCMレコーダです。

サンヨー「ICR-PS004M」。これが僕らを救ってくれる!

見た感じは、昔からよくあるICレコーダです。会議とかインタビューの音声を録音するのに使うやつですね。
かくいう私も、これを会社の会議用に買っていたのです。
普通のICレコーダはMP3で録音してしまうため、音質が変化してしまいます。声の記録という点ではそれでも問題ないのですが、パソコン用のデータレコーダは「ピー」とか「ガー」とかいう音で記録するため、不可逆圧縮されるとパソコンで読み出せなくなってしまいます。
しかしこれは「リニアPCM」レコーダ。なんとCD音質無圧縮(44.1Khz)でも記録できるのです(MP3も使えます)。

ですから、パソコンのカセットテープ端子に繋げて使えるんですね!

リニアPCMレコーダ自体はもっと以前からありましたが、多くは音楽用として作られたために大きくて高価なものでした。
ようやく最近になってこうした小さくて安価なものが出回りつつあります。写真のICR-PS004Mはなんと6545円(2010/11/9現在、Amazon価格)。電池込みで重量は51gと取り回しも非常に楽になりました。

さて、能書きはともかく実際にやってみましょう。

株式会社ピクセル「ゼータ2000」。テープのゲームとしては今も人気の一本です。

カセットテープ!1985年製ですから、もう四半世紀前ですね…。

まず、テープのゲームをICレコーダにダビングします。当然ながらテープを再生できる機器が必要ですので、最近手に入る機材でやってみました。

ソニー「TCM-400」。今でもヨドバシカメラなどで新品が手に入ります。

用意したのはソニーの「TCM-400」です。先頃製造が終了したテープ版のウォークマンではなく、会議の録音用のモデルです。Amazonで3720円。
TCM-400とICR-PS004Mを接続します。ちなみに接続ケーブルはICR-PS004Mを買えば付属しています。ステキ!

実はこのケーブルは付属品ではありません。(付属しているのを忘れてました)

カセットレコーダのイヤホン端子と、ICレコーダのマイク端子を直結します。
また、ICR-PS004Mの裏面にある「入力」スイッチは「ライン」側にしておきます。
最初に一度ICレコーダ側の「録音」ボタンを押して待機状態とし、テープを再生します。
「録音スタンバイ」状態で入力レベルを見ます。テープ側の音量ダイヤルを調整して、できるだけレベルは高めに、かつ最大値を超えないようにします。ICR-PS004Mは最大レベルを超えると「PEAK」の文字が出るので分かりやすいですよ。

ダビング前のレベル調整。MSXロゴがチラリと見えますな。

レベル調整が終わったら、最初からテープを再生してレコーダで録音します。ちなみにICR-PS004M付属の2GBのSDカードで3時間録音できるので、ゲームは何十本も入ります。
録音が終わったら実機での確認…なんですが、手元にテープが読める機械が1チップMSXしかないので、そちらでのやり方を解説します。
(MSX2の実機を用意したのですが、部品不足でキーボード故障が直せませんでした)

ICレコーダのイヤホン端子は音量が小さく、そのままではMSXで読めません。
パソコン用スピーカの入力端子にICレコーダを接続し、スピーカのイヤホン端子を1チップMSXに接続します。
スピーカはパイオニアの「MPC-PS30H-LR」、3W+3Wのタイプです。音量はいっぱいまで上げています。
この音量の決め方はスピーカによって異なると思います。今はまだ、「少しずつ大きくして読めるところを探す」という感じです。

ICレコーダのイヤホン端子からスピーカ経由で1チップMSXの赤端子に接続。

1チップMSX裏面のDIPスイッチの3番をOFFにすることで、テープの読み書きが可能となります。ケーブルはここでは自作ですが、モノラルミニジャック~RCAジャックの市販品が使えます。あと5番をOFFにして、1チップMSXのSDカードを無効にしておきましょう(ディスクドライブがあると動かないテープソフトが多いため)。
あとはゲームの説明書にある通りに読み込みます。

「Found」表示!読めたよママン!

ちなみにこの「ゼータ2000」は、プログラム3本からなります。ファイル名は全部「p」ですが、最初の二つが同じローダ、最後のものがゲームのメインです。
そのためか、最初から読むとうまく動きません。2本目のローダから実行しましょう。
ローダが読み終わるとタイトルが出ます。この時、実際にはテープが止まります。ICレコーダの「停止」ボタンを押して再生を止めましょう。

タイトル画面。スタッフロールがせり上がってきます。

スタッフロールの動きが止まったら、メインのデータを読み始めます。そこでおもむろに「再生」ボタンを押して、止めた場所から再生しましょう。
実機だとリレーの「カチッ」という音でテープの停止/再生のタイミングが分かるのですが、1チップMSXにはそれがないのである程度カンに頼っています。

「……そして”ゼータ2000”は動き出した」。今日から僕もNEO戦士だ!

これでバッチリです。実機でも同じ要領で再生できます。
ちなみにセーブについては、1チップMSXであれば赤端子のプラグをICレコーダのマイク端子に突っ込めば録音でき、つなぎ直せばロードも可能です。
実機だとセーブの音量が小さいようで、まだうまくいっていません。

さて、いかがだったでしょうか。まだ研究がイマイチな部分もありますが、8割くらいのテープゲームは再生に成功しています。
(読めないテープのゲームは、テープ自体が劣化しているのか、その他の要素があるのか調査しきれていません)

エミュレータだとテープ用イメージに変換するにあたってバイナリエディットなど専門知識が必要ですが、こちらは「ただダビングするだけ」でOKです。
容量もかなり大きくなりますが、今時のストレージの容量からは全く問題ないでしょう。
32KBのメモリに納まるゲームがwavファイルで60MBくらいになることに、何というか、とてつもない無駄遣いをしているような罪悪感がありますが…なーに、気にしなければいいだけです。
ファイルはパソコンにでもバックアップしておけば、テープの劣化を気にすることなく何度でも遊べます。

ちなみに、当然ですがロード時間は長いままです。ま、32KBならせいぜい5分なので、贅沢な時間だと思いましょう。
ヒマだと言うならDSででも遊んでいればいいのです!

当方では「ゼータ2000」の他、「白と黒の伝説・百鬼編」「ハイドライド(MSX1版)」「レイドック(タイトル画面)」「堀ちえみ・ストロベリーパズル」「黄金の墓」「続・黄金の墓」「オファリング」「ジャンピング・ラビット」「デゼニランド」「サラダの国のトマト姫」「ポートピア連続殺人事件」「オホーツクに消ゆ」などのサルベージに成功しました。
「信長の野望(MSX1版)」「日曜日に宇宙人が…?」など、うまくいかなかったものもあります。が、20年以上前のソフトでもかなり高い確率で動いています。


また、当然MSXだけでなく他のあらゆるテープを使うPCに応用が効きます。
PC-8001(1979年)など、相当に古いハードにも数GBのストレージが繋がる!というのはなかなかワケのわからない状態ですが、応用範囲は広いと思います。
テープに悩める方、ぜひ一緒に研究しましょう!なんせテープのゲームはロードが長いので、時間がどんどん過ぎていくんですよね(本音)。


ところで、サンプルとして立ち上げたゼータ2000なんですが最初の敵も倒せません。恐ろしく難しいです!
本名荒井さんのWebサイト内「おこのみ実験場」で徹底的に攻略されていますが、近代の感覚からするとマトモな方法ではエンディングはおろか最初のアイテムも入手できません…。
このゲーム、最近でも(MSXのテープソフトとしては)高値で取り引きされているんですが、マトモに遊べた人はいるのでしょうか。
ま、そんなスパルタンな体験も実物が遊べてこそ。この世から無くなってしまっては何もかも遅いのです。
みんなでテープゲームの灯を守ろうではありませんか!(強引なまとめ)