※本記事に記載の数値は、株式会社トミタが2025年6月27日にEDINETへ提出した有価証券報告書(第78期)、並びに公開市場データ等の公開情報を参考にしていますが、正確性の担保及び保証をするものではありません。正確性の検証等はご自身で行ってください。数値は千円単位を億円・百万円等に換算する過程で四捨五入しており、原典数値とは若干異なる場合があります。本記事は情報提供のみを目的とし、特定の有価証券の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において一次情報を必ずご確認の上、行ってください。株式投資には価格変動等のリスクが伴います。

 

この記事のサマリー

トミタ(8147)——市場に忘れられた110年企業の「歪み」を読む

連結EPS(第78期実績)

121.48

前期 108.24円

連結BPS(第78期末)

2,312.48

前期 2,234.38円

グレアム数(連結ベース)

約2,515円

√(22.5×EPS×BPS)

自己資本比率(連結)

63.8%

前期 62.8%

長期借入金

ゼロ

実質無借金(2025年3月末)

配当(個別)

5期連続増配

第79期実績24円・第80期予想25円

 

ポイント

・ 【+】現金及び預金(61.2億円)+投資有価証券(23.1億円)の合計が時価総額(約76億円)を上回る。市場は本業・その他資産をマイナス評価している計算だ。

・ 【+】第78期営業利益は前期比26.9%増の7.71億円。受取利息・配当金も前期比約2.5倍の1.57億円に拡大。金利正常化の恩恵が経常利益を底上げしている。

・ 【+】有報が明記した成長布石:インド・チェンナイ営業所開設、半導体関連向け強化、HV・EV対応設備投資への対応継続。

・ 【-】棚卸資産(商品)が前期6.3億円→10.6億円へ急増し、営業CFは773百万円→354百万円へ半減。利益とCFの乖離は次期以降の在庫動向で評価が分かれる。

・ 【-】有報がリスクとして明記:米国関税政策・為替変動。利益率10.7%の稼ぎ頭TOMITA U.S.A.(売上約31.9億円)への直接影響が最大の懸念材料。

・ 【=】ROE 5.4%(連結)は「望ましい水準」とされる8〜10%に届かない。東証の低PBR問題提起に対し、自社株買いや追加増配で応答するかが中期の注目点。

 

【総括】財務の堅牢さ(無借金・自己資本比率63.8%・現金厚み)は業界トップクラスの水準にある。一方、資本効率の低さとCF減少が「安いだけで上がらない」を長年続けてきた根本原因だ。配当の増配継続と経営の変革意思が株価の非対称性を顕在化させるカタリストとなるかどうか——それが本記事の問いである。全データは有価証券報告書(第78期、2025年6月27日EDINET提出)の一次数値に基づく。

 

有価証券報告書 第78期(2025年6月27日提出)一次データ完全分析

【8147】 時価総額76億円の「沈黙の要塞」

——有報が静かに示す、構造的割安の真実

1911年創業。工作機械・工具の専門商社トミタを、EDINETに提出された有価証券報告書の一次数値のみで解剖する。感情を排し、数字だけを信じる。

「市場は退屈な銘柄を罰し続ける。——しかし、その罰の中にこそ安全域が宿る。」 有価証券報告書(第78期)が示すのは、営業利益が前期比26.9%増に跳ね上がりながら、時価総額が純資産の半分にすら届かないという歪みだ。数字に正直に向き合えば、この企業をめぐる問いは単純だ。「なぜ、これほど安いのか」——そして「それはいつ修正されるのか」。

 

Section 01

110年企業の素顔——有報が語る実像

1911年5月、冨田荘次郎が東京・銀座で輸入工具の小売を始めたのが起源だ。1943年に現在の前身企業を設立、1985年に証券登録、2004年にJASDAQ上場、2022年に東証スタンダードへ移行した。登記上の本社は東京都中央区銀座八丁目——これは単なる住所ではなく、後述する「資産」の所在地でもある。

 

有価証券報告書(第78期)によれば、グループは株式会社トミタと関係会社14社(連結子会社12社、非連結子会社2社)で構成される。セグメントは「日本」「北米」「アジア」「その他(英国)」の4区分。北米にはTOMITA U.S.A.(オハイオ州)・TOMITA CANADA・TOMITA MEXICO、アジアにはタイ・中国・インドネシア・ベトナム・インドの各拠点を置く。

 

Section 02

第78期(2025年3月期)実績——有報一次数値

以下は全て有価証券報告書(第78期)に記載された連結数値だ。

 

売上高(連結)

216.8億円

前期比 +1.7%

営業利益(連結)

7.71億円

前期比 +26.9%

経常利益(連結)

9.72億円

前期比 +9.7%

当期純利益(連結)

6.30億円

前期比 +12.2%

連結EPS

121.48

前期 108.24円

連結BPS

2,312.48

前期 2,234.38円

 

※EPS・BPSはいずれも連結数値(有報「主要な経営指標等の推移」記載値)。

 個別(提出会社)ではEPS 148.57円、BPS 1,827.05円と異なる。本記事では連結数値を基準とする。

 

収益構造として特筆すべき点がある。営業利益7.71億円に対し経常利益が9.72億円と2億円以上の上乗せがある。内訳は受取利息及び配当金1.57億円(前期6,112万円から約2.5倍増)、受取賃貸料9,198万円(銀座ビル等の不動産収入)。本業以外の「資産の稼ぎ」が着実に積み上がる二重エンジン構造だ。

 

一方、営業CF(キャッシュ・フロー)は354百万円と、前期の773百万円から大幅に減少した。棚卸資産(商品)が前期の6.3億円から10.6億円へ約4.2億円増加したことが主因で、利益とCFの乖離をもたらしている。在庫投資が翌期以降の売上拡大に繋がるかどうかが、キャッシュの「質」を判断する上でのポイントとなる。

 

Section 03

バランスシートの解剖——「時価総額76億円」の内側

2025年3月末時点の連結貸借対照表から、主要項目を抜き出す(有報数値)。

 

BS項目(連結、2025年3月末)

有報記載値(千円)

コメント

現金及び預金

6,116,288

流動資産の最大項目

売掛金

3,679,382

前期3,489,422から増加

電子記録債権

1,760,102

前期1,815,303から微減

受取手形

216,913

前期609,055から大幅減(電債移行)

商品(棚卸資産)

1,057,352

前期634,853から約4.2億増——CF圧迫の主因

投資有価証券

2,307,805

前期2,722,686から減少

土地(有形固定資産)

699,768

帳簿価額。銀座等に所在

投資土地

787,862

帳簿価額

無形固定資産合計

68,883

前期33,827から増加。のれんゼロ

短期借入金

165,080

前期203,629から減少

長期借入金

0(ゼロ)

前期25,080から完済——実質無借金

繰延税金負債

606,411

投資有価証券含み益に係る税負担

純資産合計

12,208,056

自己資本比率63.8%

総資産合計

18,643,735

時価総額(約76億)は総資産の約41%

 

「現金及び預金(6,116百万円)+投資有価証券(2,308百万円)=8,424百万円」。この合計が時価総額(約7,600百万円)を上回っている。市場は現時点で「本業及びその他の資産の価値=マイナス約824百万円」と評価しているに等しい計算だ。

 

【注意点】投資有価証券の含み益には繰延税金負債606百万円が対応しており、単純な現金価値とは異なる。実態把握には税後ベースでの修正が必要だ。

 

【グレアム数】√(22.5 × 121.48 × 2,312.48)=√6,323,900 ≒ 2,515円。連結EPS・連結BPS(有報記載値)に基づく計算値。

 

Section 04

5期連続推移——有報「主要な経営指標等の推移」より

有報に記載された過去5期(第74〜78期)の連結数値を一覧にする。数値は全て有報原文のまま。

 

期(決算年月)

売上高 (百万円)

経常利益 (百万円)

純利益 (百万円)

EPS(円)

BPS(円)

自己資本 比率

営業CF (百万円)

第74期(2021年3月)

17,319

483

317

61.16

1,813.52

59.3%

614

第75期(2022年3月)

19,397

722

489

94.36

1,925.93

61.4%

467

第76期(2023年3月)

20,196

680

463

89.26

2,063.29

58.9%

932

第77期(2024年3月)

21,314

886

561

108.24

2,234.38

62.8%

773

第78期(2025年3月)

21,677

972

630

121.48

2,312.48

63.8%

354

 

売上・利益・BPSは5期を通じて概ね改善基調にある。一方、営業CFは第78期に354百万円と前期比で大幅に落ちている。この「増益・CF減」の乖離が示すのは在庫積み増しの影響だ。

 

Section 05

配当の実像——有報記載値と直近動向

有価証券報告書「提出会社の経営指標等」に記載された配当額(個別)は以下の通りだ。

 

1株配当(円)

個別EPS(円)

配当性向

区分

第74期(2021年3月)

11

51.82

21.2%

実績

第75期(2022年3月)

17

74.57

22.8%

実績

第76期(2023年3月)

18

87.95

20.5%

実績

第77期(2024年3月)

20

132.65

15.1%

実績

第78期(2025年3月)

22

148.57

14.8%

実績

第79期(2026年3月)

24

実績確定

第80期(2027年3月)

25

会社予想

 

【増配継続】第79期(2026年3月)配当は実績24円で確定。第80期は25円の会社予想。5期連続増配の流れが続いている。

 

【配当性向の低さと余地】個別EPS(第78期148.57円)に対し配当22円と、配当性向は14.8%にとどまる。利益成長が続く中で還元率は依然低水準だが、増配余地は大きい。

 

Section 06

有報「対処すべき課題」が語る経営の方向性

有価証券報告書「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に明記された事項を、投資視点で読み解く。

 

有報記載事項

投資視点での読み解き

グローバル経営の深化:インドにチェンナイ営業所を開設

製造業投資が急増するインド市場への先行布石。Gurugram拠点に続く南インド展開

HV・EV・自動運転技術への設備投資が増加すると明記

電動化は工具・機械の置き換え需要を生む。商社にとって追い風

半導体関連業界へのアプローチ強化を明記

自動車依存から高成長セクターへのシフト。高付加価値商流への布石

顧客の自動化・省人化需要への対応強化

国内外の人手不足を追い風に産業用ロボット等の提案力強化を目指す

DXの推進(社内業務効率化+顧客工場DX提案)

方向性は正しいが、業績への反映は中長期のテーマ

米国の関税政策・インフレ・急激な為替変動をリスクとして明記

北米セグメントへの直接リスク。2026年以降の最重要変数

 

Section 07

TOMITA U.S.A. の実力——有報「関係会社の状況」より

有価証券報告書「関係会社の状況」では、売上高が連結の10%超を占める重要子会社について損益情報が開示されている。

 

TOMITA U.S.A., INC.(オハイオ州、第78期)

金額(千円)

売上高

3,191,786

経常利益

342,104

当期純利益

280,152

純資産額

1,238,947

総資産額

1,761,840

 

TOMITA U.S.A.単体の売上高は約31.9億円(連結売上比約14.7%)。北米3社(米国・カナダ・メキシコ)の合計ではさらに大きい。経常利益率10.7%は連結全体(4.5%)を大きく上回り、北米が高採算の稼ぎ頭であることを示している。米国関税政策の影響はこの稼ぎ頭に直撃するリスクがある。

 

Section 08

7つの投資哲学——有報を読んだ上での視点

資産価値重視型(バリュー投資の古典的視点)

「連結BPS 2,312円に対し現在株価は約半値。グレアム数(連結EPS・BPSベース)は約2,515円。現金+投資有価証券だけで84億円あり、時価総額76億円を超えている。安全域は理論上十分だ。ただしこの安さが長年続いてきた事実も直視する必要がある。」

 

キャッシュフロー重視型(CF分析の視点)

「増益なのに営業CFが前期比半減(773百万→354百万円)——この乖離の原因は棚卸資産の急増だ。在庫が来期以降の売上に転換できるなら問題ない。できなければ、利益の質に疑問符がつく。次期の棚卸資産動向が最大の観察点だ。」

 

金利環境を読むマクロ型の視点

「受取利息・配当金が前期の61百万円から157百万円へ約2.5倍増(有報P/L数値)。日本の金利正常化局面で、現預金61億円を積んだトミタは静かな恩恵を受け続ける。金利が上がるほど、この眠っていた資産が目覚める。」

 

カタリスト重視型の視点(イベント・ドリブン)

「PBR 0.50倍は東証が問題提起するライン(1倍)の半分だ。5期連続増配(11→17→18→20→22円→24円確定)という事実は、経営陣が資本効率を意識し始めたシグナルではないか。自社株買いが加われば、株価の再評価に直結する。」

 

テクノロジー変化を警戒するリアリストの視点

「有報が自ら認めた通り、自動車業界はHV・EV・自動運転へシフトしている。既存の内燃機関向け工作機械需要が縮小するリスクは現実だ。半導体向けへのシフトが利益に貢献し始めるまでの空白期間をどう乗り越えるかが問われる。」

 

地政学・分散型の視点

「米国関税の不透明感はTOMITA U.S.A.(経常利益率10.7%)に直撃するリスク。しかし有報が示す通りインドへの拠点拡大(Gurugram+チェンナイ)が進んでいる。地政学リスクの分散という意味で、このインド投資は正しい方向だ。」

 

インカム・長期保有型の視点

「第79期配当は実績24円で確定、第80期は25円の会社予想。5期連続の増配基調だ。配当性向14.8%は低く、増配余地は大きい。倒産リスクはほぼゼロの財務構造で、長期保有のベースとしては申し分ない。」

 

Section 09

5軸スコアカード——有報精読後の評価

財務健全性(無借金・自己資本比率)     █████████░  93

資産割安度(BPS対比・グレアム数)    █████████░  90

利益の成長性(5期トレンド)        ██████░░░░  62

CF品質(利益との整合性)         █████░░░░░  45

資本効率(ROE・配当性向)        ███░░░░░░░  30

 

※スコアは有報データに基づく定性・定量の複合判断(100点満点)。同業他社との相対比較ではなく単独評価。

 

結論——「静かなる非対称性」

有価証券報告書(第78期)の数字を精読して確認できたのは、この企業の「非対称性」だ。

 

ダウンサイドを考える。長期借入金ゼロ、現預金61.2億円、自己資本比率63.8%。景気後退局面でもこの財務構造が崩れるシナリオは考えにくい。最悪のケースでも「資産の山」がバッファとして機能する。

 

アップサイドを考える。グレアム数(連結EPS・BPS基準)は約2,515円。東証の低PBR問題提起に応答する形で自社株買いや増配に踏み込めば株価は大きく動く。インドへの拠点拡大、半導体向けシフト、受取利息の恩恵拡大——これらが順調に進めば、5〜10年視点でのリターンは現在の株価評価を大きく上回りうる。

 

ただし直近の懸念も直視する。棚卸資産の急増による営業CF減少は、単なる「仕込み」か「過剰在庫」かが未確定だ。米国関税リスクは最も利益率の高いTOMITA U.S.A.に直接影響する。

 

【結論】「下は堅く、上は意外と大きい。ただし待つ覚悟が必要」——これが有報精読後の率直な結論だ。

 

 

 

※本記事に記載の数値は、株式会社トミタが2025年6月27日にEDINETへ提出した有価証券報告書(第78期)、並びに公開市場データ等の公開情報を参考にしていますが、正確性の担保及び保証をするものではありません。正確性の検証等はご自身で行ってください。数値は千円単位を億円・百万円等に換算する過程で四捨五入しており、原典数値とは若干異なる場合があります。本記事は情報提供のみを目的とし、特定の有価証券の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において一次情報を必ずご確認の上、行ってください。株式投資には価格変動等のリスクが伴います。