富士の青木ヶ原。
その樹海に一歩踏み入れるとなかなか抜け出せないと言われますが、富士箱根伊豆国立公園の一部であり案内板等がある遊歩道から離れてしまうと方向を見失う危険性があるとのことです。
映画『追憶の森』の冒頭で映し出される広大な森はまさしく樹海と呼ぶにふさわしい光景です。
主人公のアーサー・ブレナン(マシュー・マコノヒー)は死に場所を求めて青木ヶ原に足を踏み入れ立ち入り禁止区域に入っていきます。
程なく傷を負いふらふらと彷徨う男タクミ・ナカムラ(渡辺謙)に遭遇します。
倒れこんだタクミに睡眠薬を飲むために用意していたペットボトルの水を与えるアーサーは、妻や子供のために生きて青木ヶ原を抜け出したいというタクミに協力するはめになります。
最初は簡単に抜け出せると思っていたアーサーでしたが、自らもタクミと同様に迷い始め、岩場で足を踏み外し腹部を負傷します。
樹海の中で偶然出会ったふたりは助け合いながら生還を目指します。
タイトルにある「追憶」は、樹海を彷徨う途中でアーサーが妻との出来事を回想する様を表しています。
アーサーが回想する妻ジョーン(ナオミ・ワッツ)との生活はとても冷え切っていて、そんな生活のうっ憤を紛らわすためかジョーンはアル中気味です。ただ仕事はしっかりしているようです。大学で講師を務めるアーサーですが、収入は少なく、そのことも含めてジョーンは夫のやることなすことが気に入らない様子。
ある日のこといつものようにアーサーと口論したジョーンは自分の体の異変に気付きます。
アーサーとともに病院に行くと脳に腫瘍があることが判明します。
このことが切っ掛けでふたりに以前の様に互いを思いやる気持ちが蘇えるのですが・・・・・。
樹海の中でタクミがアーサーに自分の妻と子供の名前を告げるシーンがあります。
妻の名前は「キイロ」。
子供の名前は「フユ」。
「キイロ」と「フユ」。これがラスト近くでの感動をより深いものにするキーワードになります。
人と人とが理解し合うことの切っ掛けはほんの些細なことなんだなと思えたりもします。
土の無いところに咲く花。
これも伏線でした。
タクミがふたりが今いる状況が「煉獄」であるとアーサーに告げるセリフも印象的です。
ダンテの長編叙事詩「神曲」の「煉獄」。「地獄」と「天国」の間にある世界はアーサーにとってどのようなものなのか。絶望の先にある世界はどのような形でアーサーに訪れようとしているのか。
それにしてもハリウッドの俳優とごく自然にスクリーンの中で存在感を放つ渡辺謙という俳優は、日本映画界にとって貴重な存在ですね。
追憶の森 (2015年 アメリカ)
監督 ガス・ヴァン・サント
脚本 クリス・スパーリング
出演 マシュー・マコノヒー 渡辺謙 ナオミ・ワッツ