命の恩人、Mさん。

私が入院して何もかもわからなくなったときに、
Mさんは私を憐れんでかわいそうだ、かわいそうだと思ったらしい。

私の点滴も毎晩替えてくれたらしい。

私は記憶がない。

そして、メガネがなく名前プレートを読めない私は
おっちゃん、おっちゃんと呼んでいた。

そしてあるとき、「俺んとここないか?」言われた。

なんだ、どうしてだ。

何を言ってるんだ。

暫く、おっちゃんの言葉に耳を傾けることにした。

娘がいるらしい。一人娘で、息子が欲しいらしい。

丁度、息子がいれば私と年齢は変わらない。

そう、養子にこないか?の誘いである。

看護師さん、単価が良くて金困っていない。
私の実家、金に困ってる。

頭の中を色々駆け巡ったが、今までの出会いの軌跡は
何事にも代えられない。

断りもせず、ただただ、おっちゃんの話を聞いていた。

後からでも、特別やでと待遇をかまわった。

何が、気に入られたのだろう。

中国の孔子が好きだ。日本の道徳の時間に使われた。

そういう、礼儀作法を重視する私を好きになったのではないかな?

押しの強い人であったが、人は悪くない。
自分を控えめにして相手してきた。

昼の菓子パンもお任せにすると、わしのお勧めと買ってくれた。

最後の日、「俺、今日定年退職の日だ」と告げれたとき、
Mさんの肩を抱いて泣いた。

何も泣くことでもないやないかと言われたが、喪失感があった。