先日観にいったのですが、一言で言って、とてもいい映画でした。さっそく映画好きのお友達にも薦めました。
一緒に観にいった人とは、その後夜までこの映画の話で持ちきりでした。
「あのとき、どうしてああだったのか?」と、二人で謎を解き合ったのです。そのくらい奥が深くて。伏線が張られてて。
そんな風に誰かと熱く語れる映画って、素晴らしい。
「ゆれる」の監督、西川美和が再びメガホンを取り、原作・脚本・監督を務めました。
原作、「きのうの神さま」
- きのうの神さま/西川 美和
- ¥1,470
- Amazon.co.jp
は直木賞候補にも選ばれました。
「人間」らしさを究極まで的確にとらえているのには、若い女性ならではの繊細な視点があるからなのだと思います。
はじめはすごくコミカルなんです。笑っちゃうんです。ほのぼのとした田舎の雰囲気がいいんです。
それが、後半はジェットコースターのごとく勢いを増して、思わず体を堅くしてしまうほど、シリアスになります。ぐいぐいと引き込まれます。
鶴平の演技を観たのは、多分これが初めてだったのですが、彼がこんなにも役者として演技ができることを知りませんでした。
コメディアンだと思っていたのに、見直してしまったんです。
演技ができることを知らなかったのが意外なぐらい、役者として素晴らしく、この映画のハマリ役でした。
役者はみんなよかった。
フレッシュで天然な感じが合う瑛太も。
芯の強さを感じさせる余貴美子も。
上品さを失わないおばあちゃん役がぴったりな八千草薫も。
めきめきと洗練された美しさを増している井川遥も。
「ゆれる」に引き続き連続参加となった香川照之も。
以下↓ネタバレあります。
映画観終わったら是非読んで一緒に考えて!!
~ナゾその1~
相馬啓介(瑛太)は何を探していたのか。
冒頭で、相馬は草をかきわけ何かを探しているシーンがあります。後半にも出てきますが。
彼は何を探していたのでしょうか。
伊野治(鶴平)が脱ぎ捨てた白衣? 彼が失くしたと父に電話したペンライト?
あんなに必死に探している相馬の姿は痛々しい。伊野を心から慕っていたことの表れ。
~ナゾその2~
ニセ医者だと最初から知っていたのは誰か。
この答えは看護士の大竹朱美(余貴美子)と斎門正芳(香川照之)のみだろうと思う。
大竹朱美は伊野に気胸の対処法、針を刺す位置をこっそり教える。
また、斎門は自身の胃カメラの撮影に協力したり、刑事に伊野の弁護をすることからも、ニセ医者だと知っていながら彼を慕っていたのだろう。
~ナゾその3~
かづ子(八千草薫)は伊野をどう思っていたのか。
伊野がある日かづ子の家を訪問する時、かづ子は口紅をつけていた。
伊野のことが好きだったのだろう。
にも関わらず刑事の「伊野はあなたになにかをしてくれましたか?」という彼への否定の思いを込めた質問に対し、「いいえ、なーんにも。」とあたかも冷たく返す。
でもそれは、「何にもしてくれなくて困ったニセ医者だ」という意味ではなく、本心は、「何もしてくれなくて助かった」という思いがあるのだろう。
彼女は、医者の娘に自分の病状を伝えられることを隠したかったのだけれど、伊野はそれを隠しておこうと頑張ってくれた。医者としてはありえない行為かもしれないけれど、かづ子にとってはそれがありがたかったのだ。
だから、医者として何もしてくれなくてよかった、と思っているのだろう。
伊野が白衣を脱ぎ捨てる(=医者の象徴である白衣を脱ぐ;ニセ医者を辞めるとき、最後に顔を見せるのはかづ子のところである。
彼にとってもまたかづ子が唯一ほっとできる相手だったのだろう。
そして、映画の最後でかづ子の入院する病院を訪れ、お茶を運ぶ彼に再会したときのかづ子の驚きと嬉しそうな顔を見れば、彼のことを心から慕っていたに違いない。
~ナゾその4~
伊野治の母親は、伊野がニセ医者として働いていることを知っていたのか。
伊野の母親は電話で警察から治について質問を受けるが、途中で切ってしまう。
伊野が逃亡してから電話をかけたとき、何事もなかったかのようにとても嬉しそうな声を出す母親。
彼がニセ医者として生計を立てていたことを知っていたのだろうか。
~ナゾその5~
伊野とすれ違いになる刑事。伊野を見つけたそぶりはないが、知っていて逃がしたのだろうか。それとも、偶然居合わせて気づかなかっただけなのか。
伊野のことを周辺の人々に聞いてまわったが、彼を訴えたいという人は誰もいなかった。
被害を受けた鳥飼りつ子(井川遥)でさえ、「彼だったらどんな風に母を死なせたのか」聞いてみたい、と訴える様子はない。
ニセ医者という行為は犯罪であっても、小さな農村で彼の存在は確かに神様のようだった。
それで刑事も、彼の居場所をつきとめながらも、追い回すのを止めたのかもしれない。
~ナゾその6~
タイトル、「ディア・ドクター」は誰がドクターに向けた言葉なのか。
鳥飼りつ子の、「彼だったらどんな風に母を死なせたのか聞いてみたい」という言葉。
りつ子から伊野に対するメッセージなのかもしれない。
~見事な伏線~
冒頭、伊野(鶴平)が相馬(瑛太)に、「おれ(車の)免許持ってないねん」というシーンがある。
このシーン、伊野の笑顔とアップにされたカットが妙に印象的だったが、後から考えれば「医師免許を持っていない」こととひっかけているようだ。
素晴らしい伏線。
~よく出来た演出~
落語が好きなかづ子。
ある日の晩流れていたのは「なんにも知らなくて悪いことしたなぁ」と言ったようなセリフ。
ニセ医者に対するメッセージか。
彼は、ニセ医者だった。
でも村の人々の中でその存在は、確かに医者として受け入れられ、頼りにされていた。
彼のしたことを裁ける人間がいるだろうか。
その判断は、この映画を観るものに委ねられている。