一年を振り返られて「無事」の軸色々ありしも納まりて無事

名工の釜に沸き立つ湯で点てし「ゆずりは昔」の薄茶いただく

火を焚いて一日ゆるりと餅をつく歯科医師夫妻の年中行事

柔らかにエンレイソウの花開く雪解け間もなき山のなだりに

花曇り花冷えならぬ花雪に満開の桜枝垂れて咲く

淡雪をかぶりて枝垂る桜花雪解の滴花より滲む

蜘蛛の巣に桜の花びら五六片風に舞い散る形とどめて

雨上がり草引く我の手元に仄かに香れり百合の花咲く

草取りに励む手先の先々で遊べというか蛙飛び立つ

十日余り入院をして身罷れりあまりの速さに心追いつかず

白寿に成りたる母はユニクロの赤き服にもためらいなど「無」

臙脂色に水玉模様のフリースを白寿の母と揃いで購う

雪解けを待ちて蒔きたるキヌサヤの緑の新芽土に眩しき

利休梅ライラックに梅この春は待望の蕾連なりて出づ

小人まで出てきそうな気配あり白雪芥子の花開くとき

春の庭埋めつくしてカモミール生うるがままに咲かせたり

大木となりて咲くらん木蓮の樹形を空に大きく描く

区切りなき一日の営みこなしつつ不意に訪れし睡魔抗わず

水底が葦の根元に透けて見ゆそこより起こる水音を聞く

田舎の花火は良いね寝ころびて見上げる夜空に大輪の花

「松下汲清泉」の大き文字幽かな水音席中に満つ

日常は酒など飲まぬ主婦なれど晴れやかに一献朝茶事の席

「これほどに豪華な遊びないわよね」ご亭主呟く一献二献

淡々とアキノノゲシの咲く野辺をモンシロチョウの如く散歩す

野良猫が一晩眠りし炬燵脇獣の匂い微かに残る

近づけば逃げて遠くでいた野良が子育て中なりニャアと餌を欲る
   
   
年賀状の短歌を何にするかと一年を振り返って 拾い出しました。今年もいろいろとありましたが 何とか 何とか 何とか来ました。短歌で振り返ってみると 一つ一つが鮮明です。何に気なしに始めた短歌ですが この年になると たっぷり溜まり宝物の一つです。

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