「記憶の肖像」(中井久夫著・みすず書房発行)を読んだ。
10年ほど前に友人が数編のコピーを送ってくれていましたが、中井先生の訃報に接し、今回全部を読んでみたいと思ったのです。
↑友人が送ってくれた、神戸の額縁、名谷に住む、住む場所の力、ある青年医師の力のコピーです。
中井先生は我が家から比較的近いところにお住まいで親近感を覚えたものです。
みすず書房のサイトで本書は次のように紹介されています。
どうも童話とエッセイは書けないようだ——それが私の長い間の固定観念であった。緊張の持続のはてに能力以上のものを無理強いにしぼり出してきた人間には、たしかにこの二つは書けないだろう。いつかエッセイ集をといわれていたが、実現するかどうか半信半疑であった。(「あとがき」より)
一精神科医として、日々患者の治療に携わってきた著者は、折りにふれて、みずからの思いを文章に書きつけてきた。自分の棲む街・神戸のこと、人との出会いと別れ、訪れた土地や自然、子ども時代の思い出、それに医療や教育、社会問題等々。
その一文一文には、昭和一ケタの最後の世代に生まれ、時代の絶望と希望を体現してきた著者のやさしさと強さがある。精神科治療の現場の緊張感の持続とそこからの解放感が、非凡な文学的才能とみごとに融けあっている。中井久夫が紡いだ初のエッセイ集を、ここにおくる。
神戸市立図書館には2冊所蔵していることがわかり、急いで予約をしました。
中井先生は最初から医者を目指していたとばかり思っていましたが、本書を読むと、京都大学
文章を読んでいくと、すばらしい知性を持った教養人であることが、うかがえます。神戸に住む人々の気質や神戸についての鋭い考察には納得させられます。税金が安いわけでもない、子育てに恵まれた環境でもないのに神戸市民が行政を批判しない理由がわかった気になります。
本書を通じて医療問題、教育、社会問題に言及します。そして、医者も病むことが多々あることを述べておられ、これは意外と言うより、たいへんな仕事であることがよく理解できます。
いままで知らなかった精神科医の神谷美恵子さんのことも書かれています。すばらしい生き方をした女性がいたことを知りました。
私が下手な説明をするよりアマゾンでレヴューを読むことができますので参考にして下さい。