9月の読書メーター
読んだ本の数:33
読んだページ数:3412
ナイス数:262

世界史探究 [世探 701]世界史探究 [世探 701]感想
高校の世界史教科の世界史Bが廃止されて世界史探求に変わったそうだ。東京書籍の教科書を読んでみたのだが、同社の世界史Bと比べて情報量が多い(文字が小さくなり、ページ数は約270が約400に増加)。歴史教育として、生徒が自発的に考えることを促す狙いがあるそうだが、事実を羅列するに留まらず背景がより詳しく説明されているので、社会人の学び直しにも使えると思う。
読了日:09月01日 著者:福井 憲彦
歴史研究 第722号歴史研究 第722号感想
特集は「怨霊」で日本史上有名な怨霊について概説されている。なんでも日本三大怨霊とは菅原道真、平将門、崇徳院を指すそうだが本特集では将門と崇徳院については扱っていない。だが、他に取り上げられた長屋王、早良親王(追諡されて崇道天皇)の怨霊が如何に恐れられたか感得できる内容である。それにしても菅原道真が亡くなってから、藤原時平が急死したのを皮切りに藤原一族が次々と病死するし、終いには朝議が行われていた清涼殿に落雷して多数の死者が出たのだから恐ろしい。怨霊が、なぜ願いを叶える御霊に転換したのだろうか。
読了日:09月02日 著者:
シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA) (ハヤカワ文庫 JA タ 11-4)シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 (ハヤカワ文庫JA) (ハヤカワ文庫 JA タ 11-4)感想
タイトルだけで、シャーロック・ホームズのパスティーシュであることがわかる本作は、舞台を21世紀のロンドン五輪当時に移し、ホームズもワトソンもレストレード警部もモリアーティ教授もすべて女性という設定にした作品。解説を読むとジェンダーを入れ替えたパスティーシュは過去にいろいろ書かれてきたそうだ。で、作品そのものは面白かった。ただし、ホームズのパスティーシュとしてはどうだろうか?出だしこそ、ミステリーっぽいが中盤から森博嗣さながらのSFになり、後半はサスペンス、アドベンチャーだ。むしろ、ジェミー・ボンドでは?
読了日:09月02日 著者:高殿 円
山寺清朝: 外山滋比古エッセイ集山寺清朝: 外山滋比古エッセイ集感想
思い出話を問わず語りしたようなエッセイ。長生きされた先生なので古い話も多いのだが、不思議と生き生きとした情景が思い浮かぶ。暮らしに根ざした何気ない話の中にユーモアやペーソスを折込つつ、そういう見方もあるのか、とはっとすることもある。自分のこととして捉えなおすならば、平凡な日々の中に感慨や発見を導くヒントになるかも知れない。
読了日:09月06日 著者:外山 滋比古
踏切時間 : 3 (アクションコミックス)踏切時間 : 3 (アクションコミックス)感想
踏切の待ち時間に浸る妄想や、短い会話という小話を量産しているシリーズの3作目。モデルになった踏切も紹介されているけれど、作者は踏切マニアなのだろうか?背の高い男子高校生に憧れる小柄な女子高生のアプローチの話と、ファザコン女子高生が離婚した父親に絡む様子を描いた話が、面白かった。
読了日:09月10日 著者:里好
ものの見方、考え方 発信型思考力を養う PHP文庫ものの見方、考え方 発信型思考力を養う PHP文庫感想
自分の頭を使って自前の見識を育てるための心構えのようなことを綴ったエッセイ集。もともとは様々な機会に発表された文章をまとめたものらしい。輸入学問が主流だった我が国では輸入した出来合いの酒をシャッフルしてカクテルをつくるようなことをしてきたが、自ら酒を醸造するには「経験」を熟成することが不可欠。反面、創造には日常からの脱出も必要で散歩の効用なども説かれている。かと言って、独創にこだわりエディターシップによる創造を軽視してはならないとも。人生、最後まで経験の熟成を期待しうるとも。深い知恵が熟成したエッセイ。
読了日:09月11日 著者:外山 滋比古
マンガ家が解く古代史ミステリー 邪馬台国は隠された(改)マンガ家が解く古代史ミステリー 邪馬台国は隠された(改)感想
マンガはおまけ程度、ほとんど文章で内容は真面目である。大陸や半島に近い北九州から文明が開け、やがて同地域で戦争が相次いだのが魏志倭人伝に記された倭国大乱だとする。邪馬台国だけでなく大和、出雲、吉備も含めた古代の倭の地方政権の関係にも触れており、東アジアの国際関係の中で九州に想定した邪馬台国の衰微と大和政権の成長、任那日本府の興亡までも論じている点が特徴である。魏志倭人伝と記紀の読み込みも深い。論拠の出典が不詳だが学術書ではないので仕方ない。もちろん仮説ではあるけれど個人的には共感できる点が多い。
読了日:09月13日 著者:あおきてつお
【日探701】日本史探究 東京書籍 文部科学省検定済教科書 高等学校 地理歴史科用 高校教科書 日本史探究【日探701】日本史探究 東京書籍 文部科学省検定済教科書 高等学校 地理歴史科用 高校教科書 日本史探究感想
「世界史探求」に続いて、東京書籍の「日本史探求」の教科書を通読してみた。世界史の方と同様に生徒に考えさせることを教育の目標にしているだけあって、歴史的事象の背景情報が詳しい。また、最新の研究成果も一部取り上げられている。私が高校生の時の教科書では、人名や事件が羅列されている感じで歴史は暗記科目だと感じていたが、かなり変わったと思う。社会人向けに山川出版から「もういちど読む」シリーズが刊行されており良書だと思うが、今の教科書を読んでしまえば不要ではなかろうか。
読了日:09月14日 著者:なし
こうやって、考える。 (PHP文庫)こうやって、考える。 (PHP文庫)感想
ロジカルシンキングやクリティカルシンキングのように思考法・発想法を述べた本ではない。「発想力を鍛えるヒント」、「知性を磨く生活」、「思考につながる読書」、「発想が豊かになる"おしゃべり"」といった章立てになっており、「思考の整理学」をはじめとする著者の数多の著作から、知的な創造に有益な提言を抜粋したアンソロジーである。そういう観点から、キモというかエッセンスだけを編集しているので味気ない気もするけれど、書かれていることは役に立つに違いない。
読了日:09月14日 著者:外山 滋比古
二銭銅貨二銭銅貨感想
海外ではいくつか先行作品があった暗号トリックの日本での先駆的な作品と言えそうである。怪盗が隠した金員の隠し場所を示す暗号文らしきものを見つけた友人の活躍に目を見張る主人公だったのだが…。乱歩得意のどんでん返し。
読了日:09月15日 著者:江戸川 乱歩
恐ろしき錯誤恐ろしき錯誤感想
愛妻を火災で失って呆然としていた主人公は、ある人が火事に際して目撃したという話から、旧友が奸計によって妻を死地に追いやったものと考え、相手を問い詰めるのだったが、思いもかけなかった結末を迎えるのだった。
読了日:09月15日 著者:江戸川 乱歩
双生児 ――ある死刑囚が教誨師にうちあけた話――双生児 ――ある死刑囚が教誨師にうちあけた話――感想
ある殺人事件を犯したことで極刑を待つ囚人が、もう一つの罪を教誨師に告白する物語。タイトルで、告白する罪の察しがついてしまいそうだ。ただ、困ったことに裁いた犯人が別人だったわけだから、本来、裁判をやり直さねばならない事案だろう。蛇足ではあるが…。
読了日:09月15日 著者:江戸川 乱歩
D坂の殺人事件D坂の殺人事件感想
「私」は明智小五郎と名乗る変わった若者とともに古本屋の細君が何者かに殺害された事件の発見者となる。近隣の住人らに尋ねても犯人が何処から侵入し、どこから逃走したのか目撃者がいない。ただ、二人の学生が屋内に居た男の姿を見たとは証言したものの一人は男の服が黒かったと言い、もう一人は白い服だったと言う。この不可能で不可解な事件に遭遇した「私」は実は明智は発見者を装った犯人だったのではないか、と思い至り明智を問い詰めるが…。明智小五郎が初出の作品にして、乱歩らしい心理トリックと変態趣味を盛り込んだ初期の代表作。
読了日:09月15日 著者:江戸川 乱歩
心理試験心理試験感想
本作で心理試験というのは、容疑者にいくつもの単語を提示して、その反応時間を測定比較するというもの。単語のほとんどは他愛もないものだが、事件に関係する単語を少しトラップのように混ぜている。理論的には事件に関係するような単語を提示されたらば無難な答え方をしようとして反応時間が遅くなるはずだという前提で、ポリグラフがない時代のお話。本作の犯人は卒なく心理試験をかいくぐるが、最後に明智小五郎が仕掛けたトラップに足をすくわれてしまった。こういう落ちは警部コロンボで観た記憶があるが乱歩の本作も倒叙もの。
読了日:09月16日 著者:江戸川 乱歩
黒手組黒手組感想
D坂の殺人事件で明智小五郎と友人になった「私」が、親戚の娘が失踪してしまった事件に明智の助力を要請した話。娘が居なくなると、世間を騒がせていた黒手組を名乗る犯罪グループから身代金を要求する脅迫状が届いた。親は身代金を届けたのだが娘は帰ってこない。明智は、失踪する前に娘に届いた手紙を手がかりに意外な真相を解明する。結末はハッピーエンドで殺人も起こらないのだが、暗号解読がミステリーの鍵になっている。それを解ける読者がいるとも思えないし、むしろ、面白さは2つの事件が交叉するプロットだろう。当時は先駆的だった?
読了日:09月17日 著者:江戸川 乱歩
算盤が恋を語る話算盤が恋を語る話感想
暗号ものだがユーモアミステリーと言えるだろう。ある会社で経理の仕事をしている内気な男がいた。部下の女性への思いを言葉で伝えることができなくて、経理部門で使われている数字と五十音の対応を利用して、算盤で気持ちを伝えようとした。彼女は当初は暗号と気がつかなかったのだが、意味がわかると顔を赤らめて男を見る目つきも変わったように思えた。ある日、彼女が算盤を机の上に出しっぱなしにして帰った時、男はその数字を読むと逢引きに応じるという返事だった。男は喜び勇んで予め伝えた場所に行くがすっぽかされた。偶然のいたずらw
読了日:09月18日 著者:江戸川 乱歩
幽霊幽霊感想
辣腕経営者の平田は、彼に恨みを残して亡くなった辻堂老人が、死後に恨みをはらすと記した手紙を受けとる。初めは一笑に付した平田だったが、最近撮った写真に辻堂の影が移っていたり、街で辻堂に似た男を見かけたり、辻堂らしき男から電話を受ける内に次第に不安になった。念の為に役所から郵便で戸籍謄本を取り寄せても辻堂は死亡したことになっている。気晴らしのために遠地に静養に出かけた平田は不思議な青年に問われるままに、この不思議な経験を語ると、10日ほどして青年は、もう幽霊は出ませんよ、と言う。青年の名は明智小五郎といった。
読了日:09月18日 著者:江戸川 乱歩
盗難盗難感想
宗教団体の経理をしていた男の懐旧談。ある日、金を貰いに行くと泥棒から犯行予告を受けたので、知り合いの警官に事務所に詰めてもらった。ところが、その警官こそが泥棒であった。慌てて追いかけると別の警官に遭ったので事態を説明して善処を頼んだが、その後朗報がない。その内、その二人の警官に似た男たちが一緒にいるところを見かけたので、一人を尾行した。捕まえると泥棒は君の上司は食わせ物でアレは偽札だったと言って残りの札を男に渡す。男は混乱するが、妻はその札を知らずに使って着物を買った。何が真相か結論がない実験的小編。
読了日:09月18日 著者:江戸川 乱歩
白昼夢白昼夢感想
ミステリーというよりも、乱歩の変態趣味の短編。主人公の独白そのものが夢か現か判然としない文章である。主人公は街なかを歩いていたのだが、辻説法ならぬ、独演会を行っている男を見た。その内容というのが、妻を愛しているあまり浮気が心配で、その手にかけて屍蝋に加工して飾って愛玩しているというのだった。男が大真面目に語る恐ろしい話を警官を含めた群衆は大笑いして聞くのだった。主人公はふと男が示す方を見ると、それは男が営んでいる店のショーウインドウで、女性のマネキンが展示されていたのだが、それにはうぶ毛まであるのだった。
読了日:09月19日 著者:江戸川 乱歩
夢遊病者の死夢遊病者の死感想
彦太郎は持病の夢遊病がたたって、住み込みの奉公先をクビになり、父親のもとに帰った。親子二人暮らしだったが、彦太郎が正直にクビになった理由を説明しないので、父親とはしょっちゅう喧嘩をしていた。その夜も父親とは喧嘩をしたのだが朝、目覚めると父親が死んでいた。彼は慌てて警察を呼んだのだが、しだいに父親を手に掛けたのは夢遊病にかかった自分自身ではないか、と恐ろしい思いに駆られて逃げ出してしまった。現場には足跡だけが残り、父を撲殺した凶器は見つからなかった。意外な真相が後に判明したのだが…。
読了日:09月19日 著者:江戸川 乱歩
指輪指輪感想
電車の中で、二人の紳士が「またお会いしましたね」と挨拶を交わす。ところが、この二人は実は曲者で、一人は車中の金持ちの女から指輪をくすねた掏摸で、もう一人はそれを知って横取りすることを企んだ。掏摸は持参していた蜜柑を車窓から投げたが、その中に盗んだ指輪を仕込んだものと、もう一人の男は考えて掏摸よりも先に蜜柑を拾いに行ったのだが指輪は見つからなかった。その前に掏摸は身体検査を受けたが、既に指輪を持っていなかったのだ。果たして指輪は何処に…真相は落語のような話だった。
読了日:09月19日 著者:江戸川 乱歩
百面相役者百面相役者感想
意味がわかると怖い話…。新聞社に勤める先輩に連れられて見世物小屋で百面相役者の芸を見る。老若男女に見事に変装する役者に感心した主人公だが、先輩は役者が人を殺めて、その人面を剥いで変装に使っている疑いがあるという。彼は役者の犯罪の尻尾をつかんでやると主人公に真剣な決意を語って別れた。しばらくしてから、主人公は先輩に会ったのだが、役者の件はどうなりましたか?と問うと、先輩はニコニコしながら、あれは冗談で言ったんだよと答えた。
読了日:09月20日 著者:江戸川 乱歩
屋根裏の散歩者屋根裏の散歩者感想
猟奇的な趣味が横溢した乱歩の有名な作品の一つ。D坂の殺人事件も同様だが、乱歩の作品には伝統的な日本家屋の特殊な構造を利用した作品があり、現代的に翻案するのが難しいかも知れない。それはともかく、新奇な刺激を求めながら、味わい尽くした末の退廃した大正デカダンスの雰囲気が濃厚である。屋根裏を徘徊して階下の住人を窃視したり、いたずらのように殺人に手を染めた主人公の歪んだ心理も細密に描かれている。世の中が弛緩した雰囲気になると乱歩がよく読まれるともいわれ、何度かブームになった作家である。
読了日:09月20日 著者:江戸川 乱歩
一人二役一人二役感想
貞淑で美しい妻がありながら浮気性の男がいた。彼は自分の行いが、やましかったために、妻にも浮気をさせようと、とんでもないことを目論んだ。ただし、男は妻を愛していたので自分が変装して別人になりすまして妻を誘惑するのである。その企みは成功したのだが、男は悩んだ。相手が自分自身だとはいえ、妻の心は浮気相手の方に移ってしまったのではないか…。要約すると馬鹿らしいし、現代女性が読んだら呆れるに違いない。戦前には姦通罪があったことも勘案すると、乱歩の猟奇趣味も行き過ぎだが心理描写は巧い。
読了日:09月20日 著者:江戸川 乱歩
黒蜥蜴黒蜥蜴感想
昭和9年に発表された作品。後に三島由紀夫が戯曲化し、ヒロインの黒蜥蜴に丸山(美輪)明宏が扮して、舞台と映画で演じられた。初期の乱歩は海外の推理小説を消化しながら日本を舞台とした新しい推理小説を書くことを試行錯誤していたが、本作は明智小五郎と彼に挑戦する女盗賊の大冒険活劇である。当時、乱歩は本格推理に行き詰まり、出版社の求めに応じて本作を発表すると大反響を呼んだという。大正デカダンスの残り香も感じられるが、昭和9年とは昭和恐慌の後、五一五事件と二・二六事件の狭間の剣呑な時代であった。原作を初めて通読。
読了日:09月21日 著者:江戸川 乱歩
疑惑疑惑感想
祖父の遺産を食い潰すだけが取り柄の横暴な父親に、主人公と家族(母、兄、妹)は皆、苦しめられてきた。そんなある朝、その父親が庭で無惨に頭を割られた姿で発見された。怨恨を抱いていた容疑者たちにはアリバイがあり、警察の嫌疑は家族に向けられたが、母、兄、妹各々の挙動に不審な点があり主人公は懊悩する。当時、新しかったフロイドの無意識理論を援用したプロットにミステリーとしての新味を見ることが出来る。
読了日:09月21日 著者:江戸川乱歩
人間椅子人間椅子感想
数ある乱歩の変態趣味作品の中でも、読後感の薄気味悪さでは指折りの短編。「黒蜥蜴」の作中でもふれられている。
読了日:09月22日 著者:江戸川 乱歩
闇に蠢く 江戸川乱歩集 (古典名作文庫)闇に蠢く 江戸川乱歩集 (古典名作文庫)感想
ある小説家が誰かの忘れ物の原稿を拾得する。それは野崎なる遊民が愛人のお蝶にねだられ連れて行った信州の温泉地での奇妙な経験を描いた作品であった。そこで、野崎はお蝶を喪うとともに、悪人の奸計によって友人とともに世にも恐ろしい思いをするのである。描かれたのは、猟奇趣味の極致であり不道徳極まりない内容であるがゆえに乱歩は作中作という回りくどい表現によって、虚構性を強調したのだろうと思われる。この作中作の著者は御納戸色という筆名だが、コナン・ドイルをもじったか?乱歩がエドガー・アラン・ポーをもじったように…。
読了日:09月22日 著者:江戸川乱歩
死後の恋 (立東舎 乙女の本棚)死後の恋 (立東舎 乙女の本棚)感想
日本には義経伝説があるが、ロシア革命で惨殺されたニコライ2世とその家族の中で皇女アナスタシアが実は生き延びていたという話がなぜか囁かれたことがあったらしい。本作も、皇女アナスタシアにまつわる創作だが、それと知らず皇女と関わりを持った元ロシア貴族の兵士の経験談をシベリアに出兵した日本軍の将校が聞くという形を取っている。それは如何にも日本人好みにアレンジされた残酷で美しい悲恋の話ではあるが、頭がおかしくなった老人の妄想のような辻褄が合わない話とも読める。この落ち着きの悪さが本作の特徴だろうか。
読了日:09月23日 著者:夢野 久作
パノラマ島綺譚パノラマ島綺譚感想
小説家崩れの夢想家である人見青年は、自分と双子のように瓜二つながら巨額の資産家である菰田が死亡したことを聞く。人見は土葬された菰田が息を吹き返した体を装って、菰田になりすました。その目的は菰田家の財産を蕩尽して、無人島にこの世の楽園のような理想郷を建設することであった。その野望は着々と実行に移されたのだが、人見の夢を頓挫させかねないのは、他ならぬ若く美しい菰田の夫人であった。菰田になりすました人見は夫人を伴って完成間近のパノラマ島の施設を案内する。恩田陸の「禁じられた楽園」は本作のオマージュである。
読了日:09月24日 著者:江戸川乱歩
陰獣 現世の夢シリーズ陰獣 現世の夢シリーズ感想
推理作家の寒川は、博物館で実業家小山田六郎の妻・静子と知り合う。彼女は自分がかつて捨てた男である、推理作家・大江春泥こと平田一郎に脅迫されていると寒川に相談する。春泥は「屋根裏の遊戯」など猟奇趣味の作品を得意とする作家だが正体が知られていない謎の作家であった。春泥は静子を殺害する前に夫の小山田氏を殺害すると予告し、やがて小山田氏の遺骸が発見されたのだった。女性の妖しさと怖さ?を描いた作品として度々映像化された作品である。大江春泥の本名が平田一郎とされているが、ちなみに乱歩の本名は、平井太郎である。
読了日:09月24日 著者:江戸川乱歩
路傍のフジイ (1) (ビッグコミックス)路傍のフジイ (1) (ビッグコミックス)感想
40代・独身・非正規社員のフジイは、寡黙で何を考えているのかわからない。出世には縁が無いが仕事はコツコツと。社交的ではないが来る者は拒まず、去る者は追わず、常に一期一会の気持ちでいる。主義信条を語らず、人を頼まず裁かない。実は多趣味だが、お金のかかることや、仲間が要ることはしない。上手になろうとも思わない。日々のささやかな行いや出来事に幸せを感じているらしい。周囲の人たちは普段はフジイのことを気にも留めないが、心に迷いが生じた時にフジイを見ると迷いがない姿が気になる。路傍のお地蔵様の如し。
読了日:09月24日 著者:鍋 倉夫
Shrink~精神科医ヨワイ~ 1 (ヤングジャンプコミックス)Shrink~精神科医ヨワイ~ 1 (ヤングジャンプコミックス)感想
Kindle Unlimitedで第一巻が無料だったので眺めてみた。Amazonプライムビデオでドラマ化された原作らしい。この巻で紹介されていたのは主にパニック障害と微笑み鬱だが、ありそうな話だと思った(昔、同じ事業所で3人の管理職が鬱病に追い込まれたのを身近に見聞したことがある)。職場等で強いストレスを受けることが多くなっているのに、自分で抱え込んでしまう人が多いのだろうと思う。心療内科と精神科の違いや、産業医の立場など医療側の事情にもふれられていて参考になった。
読了日:09月29日 著者:月子

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