7月の読書メーター
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歴史研究 第720号歴史研究 第720号感想
特集は「蒙古襲来」で、松浦市・福岡市・壱岐市・対馬市と襲来をうけた自治体からの寄稿が目を引く。その中で、九州大学名誉教授の服部英雄氏の論考が概論を説明したイントロダクションとなっている。そもそも、なぜ、蒙古が日本を攻めて来たのかと言えば、日本が宋と友好的な関係を続けて来た上に、火薬の原料となる硫黄を供給していたからであるとのこと。日本史を理解する時に国際関係が往々にして盲点になるが、元寇についても同様である、と思った。
読了日:07月01日 著者:
大家さんと僕 これから大家さんと僕 これから感想
第一作が「手塚治虫文化賞 短編賞」を受賞して好評を博したのだが、その続編となる作品。表紙に伊勢丹百貨店の商標が掲載されているが、この大家さん、タクシーで伊勢丹に出かけて一つ2千円のタラコを買って帰ってくるようなやんごとなき生活を送っていらっしゃった。矢部氏もお供して何度も伊勢丹で食事をご馳走になった様子が描かれている。4コマ漫画である点は第一作と同じだが、少し長いストーリーを4コマをつなぎながら描いている。大家さんの長い人生と矢部氏の現役の芸人としての苦労とが交錯する時に生まれるホッコリがいい。
読了日:07月02日 著者:矢部 太郎
大家さんと僕大家さんと僕感想
市内に、まんが専門の公立図書館があって特集を組むように矢部氏のコミック作品が展示されていたので読んだ。戦中派で人生の大先輩だが、どこか天然なところがあって育ち良さげな大家さんが1階に、矢部氏が独りで2階に間借りして住む生活を、ほのぼのと4コマまんがにした作品。たぶん実話がベースになっているのだろうが、ほのぼのとした絵とストーリーである。矢部氏は昔テレビでいじられていた記憶しかなかったのだが、実はお父さんは絵本作家・紙芝居作家なので、その血を引き継いでいるのだろう。
読了日:07月02日 著者:矢部 太郎
中島敦殺人事件中島敦殺人事件感想
著者には申し訳ないがミステリーだと勘違いして図書館から借りてきた。2009年は太宰治、大岡昇平、松本清張と中島敦の生誕100年だったそうで、出版業界は賑わったそうだ。その中で中島敦って夭折したからか熱狂的なファンが多いけど寡作だし、海外作品の剽窃みたいだし、そんなに大した作家なのか?という思いから書いた小説だそうだ(論文にはならないのでw)。その主旨よりも作者の分身たる人物とヒロインの甘いロマンスや中島敦ブームを1980年代のニューアカブームに重ねた皮肉が面白かった。けれど、文学者って仙人みたいだな。
読了日:07月02日 著者:小谷野 敦
現代民俗学入門: 身近な風習の秘密を解き明かす (創元ビジュアル教養+α)現代民俗学入門: 身近な風習の秘密を解き明かす (創元ビジュアル教養+α)感想
島村恭則教授が編者になっているが20人以上の民俗学者の共著である。農村が都市化し、世の中がデジタル化した現代にも民俗は存在し、例えばInstagramやYouTubeの投稿もミームとして研究の対象になりうる。合理的な個人でも非合理な側面も持ち、社会の中に生活する以上、民俗の尽きることはないのだ。ただ、それらを収集して分類整理するだけでは何だかな〜で、人間性の深いところに迫る視座を民俗学は持っているのかな?イラストが多くて解りやすい入門書である。
読了日:07月03日 著者:
名探偵じゃなくても (『このミス』大賞シリーズ)名探偵じゃなくても (『このミス』大賞シリーズ)感想
人物の造形や、文章、プロットの運び方は上手い。反面、違和感がある。ユーモアもあって雰囲気は「日常の謎」を解き明かすミステリーで「安楽椅子探偵」の類型になる。が、人が殺されるし、ヒロインまで凶悪な殺人鬼に狙われるし、警察内の陰謀まであるし、探偵が認知症を患っているのが謎だし、その推理たるや論理を飛躍していきなり正解にたどり着くし…。「名探偵のままでいて」を読んでいないからかも知れないが違和感を禁じ得ない。恋の鞘当てもあるし、「ビブリア」をハードボイルドにした印象。ミステリーだが、推理よりもストーリー重視。
読了日:07月04日 著者:小西 マサテル
信長の正体 (文春文庫 ほ 25-2)信長の正体 (文春文庫 ほ 25-2)感想
著者は東大の史学者で信長を過小評価する向きに対して時代の課題に挑んだ歴史的人間として客観的に評価することを狙う啓発書。①宗教…統一による平和を志向し一向宗の平等主義に対峙、②土地…荘園公領制の職の体系に対峙して一職支配を志向、③軍事…兵農分離を推進し、兵種別編成を志向。経済力を重視した。④国家…古代律令国家を含めて信長が初めて一つの日本国を志向した(この点は疑問が残るなぁ)⑤社会…農民=庶民も武装して、かなり暴力的な面もあったが、信長は社会の平和を志向した(網野史観への批判も含む)。②がわかりやすかった。
読了日:07月05日 著者:本郷 和人
ヘーゲル 自由と普遍性の哲学 (河出文庫 に 6-3)ヘーゲル 自由と普遍性の哲学 (河出文庫 に 6-3)感想
NHKブックス「ヘーゲル・大人のなり方」を加筆・改題したもの。卑近に例えれば、大人になるとは厨二病的に肥大化した自意識を卒業して他人を理解し、世間と折り合いをつけて自分の居場所をつくること。そうした意識の成長を「精神現象学」を辿ることで、世間についてルソーを振り返りながら「法の哲学」を読み解くことで、ヘーゲルを糧とするための書。ルソーもヘーゲルも古代アテネを理想またはモデルとして国家社会と個人のあるべき関係とその条件を考えた。自由と普遍性を両立させることがその眼目である。ヘーゲルの入門書として優れている。
読了日:07月07日 著者:西 研
眠れなくなるほど面白い 図解 神道: 起源から日本の神様、開運神社まで楽しくわかる!眠れなくなるほど面白い 図解 神道: 起源から日本の神様、開運神社まで楽しくわかる!感想
教義がない信仰(これを宗教と呼ぶべきかどうか迷う)である神道の入門書。他の宗教との比較、祭られている神様や神話、神社についての基礎知識など。神道は、あまりに古すぎて鳥居だって、いつごろから全国で建てられるようになったのかわからないそうだ。ただ、鳥居は俗界と御神域をつなぐものなので、これをくぐったら神様の領分ということ。だから、くぐるときに一礼するのだなとわかった。大神神社のように御神体が山なので本殿がない神社もあれば、伊勢神宮のように本殿だけで拝殿がない神社もある。たしかに面白かった。
読了日:07月07日 著者:渋谷 申博
新しい封建制がやってくる: グローバル中流階級への警告新しい封建制がやってくる: グローバル中流階級への警告感想
ICTの発達と脱工業化・知識社会化は中産階級を没落させプロレタリア化すると同時に富の偏在を促進し、インテリは新たな貴族を正当化する聖職者になるという観察。杞憂ではなく、あり得る近未来像だと思う。とは言え富者が基盤とする市場経済は民主主義と法の支配の下で成長して来たもので封建制と両立しないのだが、反面、今のように民主的な社会は第二次大戦後に到来した浅い歴史しかないことも事実である。社会の分断と閉塞化を防ぐにはどうしたらよいか。あるいは下層の庶民は新しい江戸時代の町人として貧しいが文化的に生きるべきなのか…。
読了日:07月09日 著者:ジョエル・コトキン
可燃物可燃物感想
久しぶりに米澤穂信を読んだが面白くて一気に読了。群馬県警の葛警部の活躍を描く5つの短篇集。葛は「どこまでもスタンダードに情報を集めながら、最後の一歩を一人で飛び越える。その手法はおそらく、学んで学び取れるものじゃない」と上司から評される独特の捜査手法と閃きで事件の真相に迫っていく。プロットがいささか強引だと感じられるきらいもあるが、真相の意外さ、リアリティある捜査の描写、ストイックな葛の渋いキャラクターによる面白さが上回る。これ亡くなった渡瀬恒彦さんにピッタリの役じゃないかな。
読了日:07月10日 著者:米澤 穂信
WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼすWOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす感想
意識高い系スローガンを掲げるグローバル企業は言葉とは裏腹に経営者が極端に高い所得を貪り、施しのように社会に還元することによって民主主義を歪めているという主張。本書の主張には真実が含まれているし、豊富に集められた事例は貴重だ。しかし、著者は大学に所属する経営学者なのにジャーナリスティックな本であり、理論的ではない。企業は常に株主利益と社会のステークホルダーの双方を見るものだが、経済の新自由主義やグローバリズムが意識高い系のマーケティングに結びつくことを理論的に整理しておらず、間違えると陰謀論に陥りかねない。
読了日:07月14日 著者:カール・ローズ
日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 (PHP文庫)感想
面白い本だった。歴史を地勢や天候など自然的な要因から眺めることも重要だと思う。ただし、著者自身も仮説だと断っているとおり(著者の努力は大したものだが)頭の体操くらいのつもりで読んだ方が無難。ピラミッドが建設された理由と、日本の衛生的な上水道が整備される鍵となった人物の推理は白眉だと思う。反面、日本は災害が多く資源が無かったので植民地化されなかったというのは裁定取引による金の流出を見落としているし、信長論に霊長類学説を援用したのはコジツケである。家康の利根川東遷も素直に民生と耕地拡大のためと考えて支障ない。
読了日:07月16日 著者:竹村 公太郎
中途半端な密室 (光文社文庫 ひ 12-6)中途半端な密室 (光文社文庫 ひ 12-6)感想
著者はTVドラマ化された「謎解きはディナーの後で」の原作者でもある。ユーモアがあって気軽に面白く読める短編ミステリー集だが、トリックの解明(ハウダニット)に焦点をあてた本格寄りの作風が持ち味である。本格推理はリアリティが必要な社会派や警察ものとは違って、もともと思考実験的な性格があるので著者のような軽妙な作風もあってよいと思う。
読了日:07月18日 著者:東川 篤哉
日本人のくらしと文化 炉辺夜話 (河出文庫)日本人のくらしと文化 炉辺夜話 (河出文庫)感想
柳田國男は農政学者として、来たるべき未来の自立した農民による農村自治の可能性を探るために、手がかりを求めて民俗学の研究に進んだという趣旨を読んだことがある。宮本常一は直球で、フィールドワークで得た知見を活かして、山村・離島などの地域の振興のための知恵を出すような講話を行っていた。本書の副題が「炉辺夜話」とされる所以である。宮本の視線は民草の物質的な生活と精神的な生活の両面に及び、村落や街場の垣根を超えて、地域の広がりを捉えている。宮本のような視座を現代の都市化・情報化された社会にどうすれば適用できるか。
読了日:07月19日 著者:宮本常一

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