6月の読書メーター
読んだ本の数:14
読んだページ数:3710
ナイス数:161

内戦の日本古代史 邪馬台国から武士の誕生まで (講談社現代新書)内戦の日本古代史 邪馬台国から武士の誕生まで (講談社現代新書)感想
2018年に刊行された図書。儒教精神に基づいて内戦でも敵に対して寛容だった古代日本が中世に移行するにつれて、残虐になってしまったことを著者は嘆いている。それはさておき、戦争がしばしば時代を画すことは日本古代の内戦も同様である。昔学校で勉強した定説、今まで読書で得た俗説とは異なる著者の説には目から鱗が落ちる思いだ(ただし論拠不明の点もある)。壬申の乱、恵美押勝の乱、天慶の乱が勃発した背景とその後の歴史の流れは勉強になった。なお、著者は大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を担当しているが本望だろう。
読了日:06月03日 著者:倉本 一宏
いけないIIいけないII感想
「いけない」の続編だが、こちらはプロットがリンクするように予め練られていて更に完成度が高くなっている。①行方不明になった姉が見つかるように明神の滝に祈る少女、②同級生を驚かせるイタズラを思いついた少年が伯父と友だちを巻き込んで準備をするが、その同級生が現れず、③息子を殺めてしまったと老人が自首したが…と3つの物語が④の終章で絡み合う。写真の意味を読み取るのは難しく考察サイトのお世話になった。少なくとも、それぞれの物語は一気に読むべき。ディテールにヒントがあるので日を置くと忘れてしまうから。
読了日:06月05日 著者:道尾 秀介
フォロワーさんの本当にあった怖い話(2)フォロワーさんの本当にあった怖い話(2)感想
作者はインスタグラムに作品を発表しているが、愛読者が自分の経験談を寄せてくれるらしい。それを、コミック化してまとめたものを電子書籍で発売している。ホラーないし怪談なのだが、ほのぼのとした絵で読ませるので、なんとも言えない味が出てくる。
読了日:06月09日 著者:しろやぎ 秋吾
崩れる (角川ホラー文庫 1-12)崩れる (角川ホラー文庫 1-12)感想
ミステリーのベストセラー作家が書いたホラー小説。ただし、怨霊も祟りも出てこない。正体が知れない若くて美しい女がトリックスターになって、周囲の人間たちの醜い欲望に火を点ける。言うなれば、「ヒトコワ」(怖いのは人間)ものだが、存分に怖い。
読了日:06月09日 著者:赤川 次郎
―ユングと共に生きる―「人生の午後」―ユングと共に生きる―「人生の午後」感想
心理学者が書いた本ではなく、エンジニアとしてメーカー企業に永年勤め、役員まで栄達した後にリタイアした著者がユングを手がかりに残された人生などについて思うところを述べた本。ユングの理論についての解説もされているが、あくまで専門家ではない一般人がユングをどう読んで、自分の人生に活かしていくかを考えた一つの事例である。個人の心の問題に留まらず、国民もしくは民族の集合的無意識の問題にまで言及されている。著者の見解の一つ一つをとらえて是々非々を考えるよりも、そうした事例として参考にさせてもらえばよろしいかと思う。
読了日:06月12日 著者:松浦 要蔵
裏道を行け ディストピア世界をHACKする (講談社現代新書 2644)裏道を行け ディストピア世界をHACKする (講談社現代新書 2644)感想
グローバル化と知識社会化により厳しい格差が生まれ、さらにITとSNSの発達によって、生きづらい世の中になっているという認識の下で、1960年代のヒッピー文化から説き起こして、主に米国を中心に人々がどのように愛、富、承認欲求などを満たそうと試行錯誤してきたか事例を筆致豊かに描いている。ディストピアを生き抜くために専門的な知識や技能を身につけたフリーランスがネットを利用して緩やかに結びついて経済活動を行い、ほどほどの生活で満足する社会の到来に光明を見出しているようだ。そりゃユートピアだろと突っ込んでおく。
読了日:06月15日 著者:橘 玲
世界インフレの謎 (講談社現代新書)世界インフレの謎 (講談社現代新書)感想
フィリップス曲線が使えなくなったという驚くべき話から始まったが、パンデミックによりグローバルな供給網の見直しが始まり、労働者の市場からの退出が起きたことで供給要因のインフレが起きたことは理解できる。ただ、経済のサービス化のトレンド反転についてはよくわからない。いずれにせよ、今後、物価上昇を賃金に転嫁できるか否かが日本経済が停滞するかどうかの分水嶺であることはわかる。今思えば、1970年代はコンピューターの利用が端緒についたばかりで労働生産性に伸びしろがあり物価に合わせて賃金も上がったのだが…。
読了日:06月16日 著者:渡辺 努
創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 (光文社新書)創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 (光文社新書)感想
2010年著者が36歳の時に出版された力作。レコード会社が専属歌手を抱え職業音楽家が創作する体制の下で戦後、演歌が日本の心の歌という概念でマーケティングされた経緯を丁寧に跡づけている。GS、アイドル、ニューミュージック、J-POPと大衆音楽が変遷する中で演歌の地位や意義も変わって来たのだが、進歩史観の立場からは批判され、階級闘争史観の立場からは持ち上げられ、日本が経済大国化した頃には帝国主義批判から演歌の韓国起源論が出てきたり、まあ知識人たちのアホさには感心する。フォークソングが本書の対象外なのは残念。
読了日:06月20日 著者:輪島 裕介
なぜアーティストは壊れやすいのか?音楽業界から学ぶカウンセリング入門なぜアーティストは壊れやすいのか?音楽業界から学ぶカウンセリング入門感想
ジャズ・ヴォーカリストの女性から、同業者にはメンタルが弱くなっている人がけっこういる、と聞いたことがあり、どういうことなのだろう?と思って読んでみた。だが、メンタルヘルスとカウンセリングについて入門的に紹介しただけの本でタイトルは釣りである。内容的に悪い本ではないけれどタイトルに惹かれた方にはお勧めできない。
読了日:06月21日 著者:手島 将彦
今昔コトバ散歩 (PHP電子)今昔コトバ散歩 (PHP電子)感想
小著だが、もともとは2010年〜2011年にかけてPHPに連載されていたコラムだったらしい。例えば「ないないてい」やら「なう」やら、当時、著者が気になった言葉を取り上げてユーモア、エスプリ、アイロニーをきかせた寸評を書いたのをまとめたものである。一つ一つの内容は軽妙で全くのところ深くはない。取り立てて評価するのも野暮というものである。ただ、干支が一回り以上した今、読み返すと一種の民俗的事象を収集した読み物になっていないこともない。いや、やっぱり真面目に考えるのはよそう(笑)。
読了日:06月21日 著者:赤瀬川 原平
きみと暮らせば 〈新装版〉 (徳間文庫)きみと暮らせば 〈新装版〉 (徳間文庫)感想
「森崎書店の日々」の作者による擬似的家族のほのぼのとしたストーリー。兄は再婚した母の連れ子で、妹は同じく父の連れ子で血はつながっていない。兄が大学生、妹が小学生の時に両親が事故で亡くなり、以後、兄妹は二人で暮らしている。ともすれば社会で孤立しがちな環境の二人だが、周囲の人々や拾った猫とのふれあいの中で明るく前向きに生きる日々が描かれる。特に大きな出来事や主張があるわけではなく、ふつうにありそうな話が兄妹や周りの人たちの心の動きを丁寧におさえることによって瑞々しく感じられる。
読了日:06月22日 著者:八木沢里志
栞と紙魚子(1) 栞と紙魚子の生首事件 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)栞と紙魚子(1) 栞と紙魚子の生首事件 (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)感想
栞は本屋の、紙魚子(しみこ)は古書店の娘で二人は仲良しである。だからといって、本のうんちくを傾けるストーリーではまったくもってない。なにしろ諸星大二郎作品なのである。表題作は、栞が殺人事件の現場を通りかかった際に、被害者の切断された頭部を何故か気になって自宅に持ち帰って困ってしまった話。紙魚子が「生首の飼い方」を説明した本を見つけて栞に水槽で飼うことを勧めた顛末を描く。後半にはクトゥルーちゃん一家が登場する。なお、二人の住む街には胃の頭公園があり、二人は胃の頭高校の同級生でもある。
読了日:06月23日 著者:諸星大二郎
歴史研究 第719号歴史研究 第719号感想
特集は下剋上だが、どうもピンと来ない。家臣が主家を打倒したり、その権勢を乗取ったと言われる事例が該当するか否かを、江戸時代に形成された倫理観で検討しているような気がするからだ。家康と秀頼の戦(大阪の陣)まで挙げているが、それなら、秀吉が織田家を乗取ったのだって下剋上だろうが、それは挙げられていない。下剋上は荘園公領制から戦国大名による領国支配体制への過渡期に各地で起きた政治的対応だと思うが、室町幕府と守護大名による全国支配体制も揺るがして行った。そういう大きな流れの中で検討されていないのが残念。
読了日:06月26日 著者:
絶叫絶叫感想
親ガチャな母娘関係、バブルで投資に失敗して失踪した父親。平凡な女がふとしたことから転落して行き、犯罪に身を染める顛末が描かれたサスペンス。生命保険、生活保護、囲い屋など細密な情報をもとに、底辺のゴミ溜めのような世界で人が人を食い合う壮絶な物語を組み立てた著者の力量は大したもの。承認欲求を持ちながらも、作品中で棄民と呼ばれる底辺に堕ちた女は、この世に生まれ落ちたことも、死にゆくことも自然現象なのだと達観することによって新たな人生を手にした。女に共感も同情もできないが、この世の中の一面を無情に切り取った力作。
読了日:06月28日 著者:葉真中 顕

読書メーター