5月24日に、「ぱたぱた家」というラーメン店が他の飲食店から、商標権を侵害しているというクレームを受けて屋号を変える決断をした話を書いた。先日、7月某日に看板も替えて晴れて「らーめんぱったぱた」として再スタートした。

 

 看板を替えたついでにカウンターにも手を加えたくなったそうで、現在、8月8日まで施工しているので休業中だそうである。屋号が変わっても引き続き美味い横浜家系ラーメンが食べられるので落ち着いたら足を伸ばしたい。

 

 さて、商標権で気をつけなければいけないのは店名だけではなくて、むしろ、こちらの方が係争になりそうな気がするが商品(メニュー)名もである。担々麺と言えば練り胡麻と辣油が特徴の中国の麺料理である。つぎの写真のような丼顔をしている。

 

 ところが日本にはカタカナで書いたタンタンメンなる麺料理もある。何が担々麺と違うかというとスープが辛い麺料理という点を除くと、共通点がほとんどなくて、別のものと考えるべきだと思われる。

 

 どちらかと言うとローカルなご当地グルメで、中国料理の担々麺を食べられる店があまりないけれど、そういう辛い中華の麺料理があることは聞きかじって知っている人が少しはいるような所で、誰かが発案したものではなかろうか。

 

 そうした中で東京に、その名が轟くのが神奈川県川崎市の「ニュータンタンメン」と千葉県勝浦市の「勝浦タンタンメン」である。本稿では勝浦タンタンメンを取り上げるが、つぎのような丼顔をしている。

 

 少々賑やかしいが、通常の担々麵とは違って胡麻や芝麻醤を使わず、醤油ベースのスープにラー油で辛味をつけ、玉葱と挽肉が具にのっている。漁師さんや海女さんが冬仕事で冷えた体を暖めるために長年愛してきた勝浦市のソウルフードらしい。

 

 実はこの写真は勝浦まで出かけて撮ったものではない。立川市内の井の庄というラーメン・つけ麺の店で提供しているものである。以前は、勝浦担々麵と銘打っていたし、これが勝浦タンタンメンに近いものだと思っている。

 

 ただし、現在は勝浦ではなく「立川担々麺」とメニューの名称が変わっている。実は「勝浦タンタンメン」はONE勝浦企業組合という勝浦市の団体が商標登録しており、勝浦市外の店舗で紛らわしい名称を使用することを原則許可していない。

 

 特許庁のホームページから「商標登録第5703819号」を検索すると、勝浦タンタンメン(かつうらたんたんめん)として、「商品・サービスの特徴」の項につぎのような説明が記載されている。

勝浦のタンタンメンは、当地の海女さん・漁師さんが寒い海仕事の後に、冷えた体を温めるメニューとして定着してきました。メニューの特徴は、通常のゴマ系と違い、醤油ベースのラー油が多く使われたラー油系タンタンメン。具材はミジン切りの玉ネギと挽肉が入ることが一般的で、お店によってニンニク、ニラ、ネギが入ったり、スープも味噌ベースのお店もあったりと各店が特色を生かしたメニューを提供しております。

 なるほど、井の庄のタンタンメンはこの説明に合致する。そして、井の庄がメニューの名称を変更したのも背景には商標権の存在があるのだろうと推測できる。勝浦タンタンメンは地域での半世紀以上の歴史と特色があり権利化されるのも納得できる。

 

 しかし、商標そのものは、そこまで歴史や特色がなくても登録できる場合が多い。大きな企業の法務部門では常識だが、新しい商品やサービスあるいは子会社の名称が権利を侵害するおそれがないかどうか事前に確認する作業が必要なのである。