先日(6/7)、社内副業を紹介した日経新聞の記事に触発されて、経産省の問題意識やら、副業のリスクやらについて書いた。その時、副業解禁の効果については大企業にプールされた人材の新規事業立ち上げへの活用が本筋だろうと考えた。

 

 今でも、考えは変わっていないけれど経産省が主宰した研究会による提言の趣旨はそうではなかったようである。読み飛ばしてしまっていたのだが、むしろ、副業によってオープンイノベーションや起業が促進されることが期待されていたようだ。 

(参考)兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言

 

 上の提言によるとGEMという、世界各国が参加している起業家精神に関する調査の結果、日本人は起業家精神の高い国民で、ある指標については英国についで2番めとのことである。茶化すわけではないが、そう言えば累計イグノーベル賞受賞者数も3位と高い。

 

 日本人は創造性豊かで起業家精神が旺盛なのに「開業率<廃業率」の状況が続いたのは経済情勢および何かしら制度的な要因もあるのかも知れない。その一つが勤め先企業による社員の囲い込みだと考えることは、まあ、おかしなことではなかろう。

 

 だが、経産省の研究会が考えたのは、社員が副業を行うことで、新たな知見を得てイノベーションを起こすことと、更に副業として新規事業を創出して起業することのようである。提言書にはつぎのような一文がある。

総務省統計局「平成 24 年度就業構造基本調査」5 (以下、「就業構造基本調査」)に よると、全就業者のうち副業をしている就業者は約 234 万人(3.6%)、副業を希望する就業 者は約 368 万人(5.7%)である。あくまで試算ではあるが、仮に、副業希望就業者の 10 人に1 人(約 37 万人)が新たなビジネスを始めたと仮定した場合、開業率を約 14%押し上げ ることとなり、それによる創業促進効果は非常に大きい。

 獲らぬ狸のなんとやら、とは言うが随分と虫のよい皮算用だと思う。副業希望者の10人に1人が新たなビジネスを始めるだろうなんて、どこからそんなに楽観的な見通しが出てくるのだろう。更に統計によると新規事業で3年後に生き残っているものは約半数とのことである(10年後は約1/4)

 

 

 それに新規事業とは言うけれど、おそらく一般的にもっとも思いつきやすいビジネスは飲食業ではなかろうか?もちろん調理の腕や、仕入先の確保、良い立地の店舗、余裕のある運転資金など、簡単そうに見えて、いろいろ条件があり難しい。全国のラーメン店の数を推計した人がいるが、緊急事態宣言直前で26,500軒という結果だそうだ。よく見かけるのに意外に少ないものだと私は感じた(人口1万人あたり2軒ほど)

 

 

 新規事業と簡単に言うけれど、そのネタはごろごろ転がっているわけではないのである。しかも、廃業に追い込まれるリスクも高い。だから、副業解禁ですぐに開業率が向上するとは思えないものの、正業をもって安定した収入を確保した上で新規事業にチャレンジできる副業にはメリットがあるとは言えるだろう。

 

 で、あれば、ついでに副業の果実をより大きくするために企業が検討してもよいのではないか、と思うことが2つある。一つは社内ベンチャー制度であり、もう一つは「闇研」である。

 

 私が勤めていた会社(電機メーカー)でも、たしかインターネットが勃興した頃だと思うが、社内ベンチャー制度を立ち上げた。だが、たいした成果もみえないまま、経営者の交替とともに、いつの間にか制度がなくなっていた。

 

 日本企業ぜんたいでもGAFAのようにインターネットを利用したプラットフォーム・ビジネスを先んじて創出することは出来なかったのだが、タコツボ化した日本の大企業の中では視野が狭くなり、独創的なアイディアが出なかったのだろう。

 

 反対に日本企業で社内ベンチャーを最も巧く行っているのは、総合商社のようである。というか、もともと総合商社というのは鵜の目鷹の目で全世界を見渡して、儲けの機会を見つけて機動的に新規事業を立ち上げる組織である。電機メーカー等が総合商社を見習うのは難しいが、社内外の副業が一つの突破口になる可能性はある。

 

 「闇研」とは、業務として正式には認められていない「非公式の事業企画や研究開発」を「業務時間外」に行う活動のことで、「Gショック」「ASIMO」なども闇研を通じて生まれた製品だという。私が勤めていた会社でも、いくつかの成功例があるほど、昔から行われていたことである。

 

 業務時間外に自主的に行うことなので、社内副業とは言えないかも知れないし、制度化することも難しいが(だから研)、裁量労働制の中で会社の機材や資材を利用できるフレキシビリティがほしいところである。

 

 この頃はリスク管理やコンプライアンス、ガバナンスや内部統制の重要性が強調されているが、反面、イノベーションには「ゆらぎ」や「裁量」も重要である。流行りのダイバーシティも企業経営の上ではコンプライアンスよりも先にイノベーションの文脈で提唱されたはずだ。

 

 適正を確保する取り組みと、イノベーションを促進する取り組みは、相反する面もあるが両方とも必要であり、そのバランスを取るのは経営者の重要な役割の一つだろう。