ついに、ゆうちゃんとの同棲生活がスタートする。


この日をどれだけ待ち望んだことか…。


お互いにお仕事もあり、なかなか引越しの準備が出来なかったが、お休みが重なったこのタイミングで一気に引越しを進めた。



…までは良かったけど。



「え、ダブルじゃないんですか?」

「うん。シングル2つがいい」

「だって、どうせくっつけて寝るんでしょ?」

「うん」

「ならダブル買った方が早いし楽じゃないですか?」


そんなやりとりをかれこれ10分ほど。

普段から一緒に寝てるし、なんなら寝ながら私にくっついてくるゆうちゃん。

くっついて寝るくせになぜかシングルがいいと言う。



「だって、睡眠は大事だよ?ちゃんと寝たい時にダブルだったら寝れなくなるじゃん。それに、どっちかが帰り遅い時にダブルだと気遣うけど、シングルならそんなことないじゃん?」

「それは、まあ、たしかに」

「だからシングル2つ」

「本当にいいんですね?」

「うん」




結局、ゆうちゃんの強い希望によりシングルベッド。

そりゃあ、私の帰りが遅い時にゆうちゃんのこと起こしちゃったらやだなーとかは思うけど。




でも私にはわかる。

近いうちにシングルベッドは使わなくなる。

そんな根拠のない確信がある。






「ゆうちゃん、そろそろ寝ます?」

「んー。ねるー」 

「じゃあ、ベッドいきましょ?」


今にも瞼がくっつきそうなゆうちゃんの手を引き、ベッドへ。


「おやすみなさい」

「おやす、み…」


布団をかけてあげれば、一瞬で夢の中へ。

私も早々に目を瞑り、眠りについた。


………ん?


モゾモゾっと布団が動く。
そのモゾモゾはしばらく動いたあと、私の右腕に巻きついた。

「だから言ったのにー」

モゾモゾの犯人ことゆうちゃん。

「ゆうちゃん」

「ん…」

「枕、なくて平気?」

「んー」

「腕入れるから、一旦離して?」

「んん…」

「よいっ、しょ」


右腕をゆうちゃんの首の下へ入れ、そのまま抱き寄せてあげる。


「寒くない?」

「んー」


寝ぼけてるので、返事は"ん"だけ。

それでも、なんて言ってるのかわかっちゃうから不思議。


「明日からこっちで寝る?」

「ん」

「おやすみ」


オデコに1つ。キスを落として、愛しいゆうちゃんを抱きしめて私も眠りについた。
















寝る時にはなかった心地よい温かさを感じる。


まだ少し重い瞼を開ければ、そこには

「…なぁ?」

「あ、ゆうちゃん起きた?おはよ」

「おはよ…」


なんで、なぁちゃんこっちのベッドにいるんだろ?


「やっぱり、冬の朝は寒いですね…。ゆうちゃん抱き枕にして正解でした!」

「…ゆう抱き枕じゃない」

「抱き心地最高ですよ?」

「人間だもん」

「じゃあ、なぁ専用のゆうちゃん枕!」

「意味わかんない…」

「ふふ。朝ごはん用意してきますね?もうちょっとここいます?」

「ん、着替えたら行く」

「はーい」


大好きな温もりが離れてしまい、少し寂しい。


着替えたら行くとは言ったものの、まだちょっと眠い。

朝の光から逃げようとうつ伏せになった時


(…なぁちゃんの匂い)


枕からなぁちゃんの香りがした。



「…え!?」




「な、なぁちゃん!」

「ゆうちゃんそんな慌てて、どうしたの?」

「なんで、ゆう、なぁちゃんのベッドにいるの!?」

「えーっと。なんででしょうね?」


そう言って目線をゆうから外す。何か隠したい時のなぁの癖。


「ねえ、隠さないで!ちゃんと教えて!」

「…夜中にゆうちゃんが寝ぼけてこっち入ってきたんですよ」

「全然覚えてない…」

「だって寝ぼけてたもん」

「はぁ…」


最悪だ。


「ご、ごめんね?」

「なぁは悪くないでしょ。…ごめんね」

「いや、私は全然!ゆうちゃんと寝れて嬉しいし!なんなら、…あ、なんでもない」

「そこまで言って、スルーすると思う?」

「えっと、明日から一緒に寝る?って聞いたら、ゆうちゃん"うん"って言ってたから。今日から一緒に寝るかなーって…」

「うぅ…」

「ゆうちゃん、聞いてもいい?」

「なに…」

「なんで一緒に寝るのダメなの?」

「だから、それは」

「お店で聞いた理由以外、あるよね?」

「……」

「なぁには言えない?」 

「笑わない?」

「笑うと思う?」


私がなぁちゃんと一緒に寝るのを拒んだ理由。それは


「なぁに、ちゃんと寝てほしいから」

「へ?」

「ゆうと寝ると、なぁちゃんいつも腕枕してくれる。ぎゅってしてくれる。でも、それだとなぁちゃんと寝れないでしょ?寝れないと疲れも取れないし、身体も痛くなっちゃうから。だから別々がいいかなって」

「ゆうちゃん。よく聞いてください。
なぁが1番よく寝れる時はゆうちゃんと一緒に寝てる時だけです」

「嘘だ」

「本当。だって、昨日はゆうちゃんが布団に来てくれるまで全然眠れなかったもん。でもゆうちゃんがこっち来てくれて、ぎゅってしたら自分でもびっくりするくらいすぐ寝れたんだ」

「無理して、ない?」

「してないよ。むしろゆうちゃんと別々で寝る方が無理。寝れない。できれば今日から一緒に寝てほしい」

「ゆうも、なぁちゃんと一緒がいいです。…お邪魔してもいいですか」

「喜んで!!!一緒に寝ましょーね!」


そう言って、ぎゅーっと抱きしめてくれる


「ありがと、なぁちゃん」






余ったベッドの使い方は2人でじっくり考えればいいよね。