職場に左半身の不自由な人がいます。
働き盛りの年代の、男性です。
事故か病気かわかりませんが、数年前に突然入院し、
退院してリハビリの後、片足にギプスをつけて歩ける程度に回復し、
車椅子で職場に通えるようになって、半年くらいたちました。
いつもほとんど黙っているその方と、話す機会がなかったのですが、
一昨日、機会があって声をかけたときに、倒れたときの様子を話してくれました。
「気が付いたら何にもなくなっていた。しばらくすると病院のベッドの中だということがわかった。」
のだそうです。
「お金も家も車も家具も、洋服も眼鏡も髪の毛も・・・」
・・・延々と、なくなってしまったものについての話が出てくるのです。
「何しろ何にもない、何にもないんだよ」・・・
・・・聞いているうちに「自分もなくなっていた」というようなことを言いたいんだということが、わかってきました。
そのあまりにも非日常的な経験を、表現する言葉が見つからない感じです。
臨死体験に近いのかなと思います。
何もない体験をした後、病院のベッドで過ごしているあいだは、
現実の世界とそれ以外の世界が同時に流れ込んでくる感じだったそうです。
「左側からは、病院の人があれこれ言ってくるガチャガチャした世界が、
右側からはそれとは別の、とても美しい世界が流れ込んでくる。
左と右の世界は、全然一致していなかった」
と、ここまで話したところで、自分の仕事に戻る時間がきてしまいました。
命にかかわる経験は、人生の流れを大きく変えてしまいます。
彼の人生について、他人である私があれこれ思うことは、単なる推測でしかありませんが、
「何にもない」ところから生還してきた彼が、今とても円熟味のあるいい表情をしていることからすると、
人としての器を大きく成長させる巨大な体験だったということだけは、間違いないと思います。
窓の外は、燃えるようなドウダンつつじで一杯でした。
