前回の続きです。
神業のような水路・拾ケ堰の開発には、困難がたくさん伴った。
もっとも手ごわいのが、梓川の横断だ。
地形の都合上、奈良井川で取水したすぐそばを流れる梓川と交差することが避けられない。
川幅の広い梓川を横切る水路を、どう作るか?
江戸時代の人たちはいろいろ試行錯誤し、土俵と牛枠と呼ばれる方法でなんとかしていた。
・・・でもそれは、増水すると簡単に決壊してしまうようなものであった。
梓川と交差する箇所は、江戸時代から明治にかけて
何度も決壊と補修工事を行うことで水路を維持していた。
大正時代に大改修工事が行われて、梓川の地下に埋めたコンクリートの管を通すことで、現在は改善されている。
新しい仕組みには、サイフォンの原理が使われているという。
サイフォンとは、隙間のない管を利用して、液体をある地点から目的地まで流す途中に
出発地点より高い地点を通って導く装置である。
水を高いところから低いところに流す途中に、高い壁などがあった場合、
両地点を壁を超える管でつなぎ、管内が水で満たされていれば、
管の途中に出発地点より高い地点があっても、ポンプでくみ上げることなく流れ続けるのである。
古代ギリシャの数学者・ヘロンが発見したというこのサイフォンの原理は、
生活の中で水と真正面から向き合うときに役だつ、実用的な知識の一つである。
難しいことではなく、専門知識も必要なく、誰でも理解できる法則だ。
地域によって全く事情が異なる「治水」は、その地域の住民の手で行うことが望ましい。
そのためにできるだけ多くの人が、水の法則・性質・原理・向き合い方を覚えておくことが、役に立つ。
皆が、それぞれ持っている力と知識・感覚能力と直観をあわせて、
「暴れ川」を手中に収めるのだ。
サイフォンの原理は、治水などの技術的な面だけでなく、
世界の変遷・生き物の進化・集団の法則や人の生き方など、
さまざまな場面のヒントにもつながる、
水が私たち人間に、恵みとして与えてくれた知識の一つである。

