・・・前回の続きです。
沈丁花について語るとき、どうしても外せないものがあります。
それは、この花の持っている香りのことです。
沈丁花(ジンチョウゲ)という植物名は、日本でついた名称です。香木の沈香(ジンコウ)とスパイスの丁字(チョウジ)に似た香りがするところからきているそうです。
遠くまで香るという意味から七里香や千里香とも呼ばれます。上品で甘く、しっかりとした強香です。
日本では強く美しい香りを持つ花を咲かせる樹木として沈丁花、クチナシ、キンモクセイを3大香木といますが、
その中でも最も強い香りを持つのが沈丁花なのです。
...話が変わりますが、香りは湿度・温度・そしてお天気と密接な関係があります。
湿度も温度も高いほうが、地上では香りが強く感じられます。そして晴れているときよりも曇っているほうが香りの成分は地上に長くとどまってくれます。
梅雨に咲くクチナシ、秋雨前線の頃に咲くキンモクセイと比べて、冬と春が交互にやってくる早春に咲く沈丁花は、圧倒的に不利な環境です。
だからこそ、一番強く香らなければなりません。
春の強風、暖かくなったかと思うと真冬に逆戻りするような目まぐるしいお天気のなかで香るために
誰よりも強い香りを持って、沈丁花はこの世に生まれてきました。
ベランダで鉢植えの沈丁花が今、満開なのですが、
わざわざ見に行かなくても咲いているかどうかわかります。なぜかといえば、咲いていれば窓を少し開けただけで甘い香りが部屋に入って来るからです。
今日のように暖かい日はいいのですが、3月の初めはまだまだ真冬のような気温の日もあります。そんなときは寒い中、よっぽどの用事がない限りわざわざベランダに出ていく気になりません。
ですが寒かろうが暖かかろうがおかまいなく、沈丁花は香りで強烈にアピールしてきます。「ここにいます。咲いています」と言っているのです。
甘い香りに誘われて出ていくと、寒さなんか関係ないという顔で愛らしく迎えてくれる沈丁花。一枝持って帰って部屋に飾ろうとしても、しなやかで屈強な枝はそう簡単に手折ることはできません。曲げることはできても、折れてくれないのです。
部屋に持ってくるためには枝ばさみが必要です。沈丁花の枝は、人間よりも強いのです。
厚くしっかりとした花と葉、強風に耐えるしなやかな枝、そして離れたところまで届く強香。
時代が変わろうとしているとき、しばしばこのような強者(ツワモノ)が出現します。
今の時代に生まれるべくして生まれてきた沈丁花は、
春の嵐のなかでびくともしない心の奥底で、
「本格的な春になるまで、香っていよう」
と思っているかもしれません。
