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star & flower

∞eighter∞

侯くんが早めに帰ってきた夜、ご飯も終わり。
実は侯くんと2人。
充くんはまだ帰ってこないんだよね。
こないだの朝を思い出すとソワソワする。
侯くんはソファでまったりしながらゲームを始めようとしてる。



インターホンが鳴る。
覗くと、私と違ってスタイルの良い、キレイな女の人。
今上がるね、とモニターからいなくなる。
「侯くん…」
「………」
「私、出掛けようか?」
「おったらええよ」
「でも…」
居たたまれず、いつでも出掛けられる準備をしてソファに座る。

ドアが開く音と同時に踵の高い靴の音。
「誰かお客さん?」
チラリと鋭くこっちを見て、ニコリと笑う。
その目が全く笑っていないのに気付く。
「あ、充くん待ってるんです」
その人の後ろで侯くんが一瞬、目を見開いて視線を逸らしたのが見えた。
「そう」
半分は信用したように言うと、すぐさま踵を返して侯くんに話しかける人。

「ちょっと、電話しても良いですか?」
正直、その空間にいるのに耐えられなくなってきた。
「あ、充くん?…」
ひとしきり話し終わると電話をしまって立ち上がる。
「外で待ち合わせるんで、お兄さんはゆっくりして下さい…お邪魔しました」
ぺこりと頭を下げると、急いで部屋を後にし、コーヒーショップへ逃げ出す。



平日の夜のコーヒーショップは人もまばらで、すんなりと座ることができた。
クッションの良いソファに身を預けて、あったかいカップで手をぬくめる。
「ふぅ…」
ふと、さっきの光景を思い出して溜息をついてしまう。
(ダメダメ、溜息つくと幸せが逃げる)
一口飲んでカップを置き、外を行き交う人並みをなんとなく眺める。

しばらくすると、諸々察したらしい充くんが来てくれた。
「大丈夫?」
「うん…」
「兄ちゃんは?」
「部屋かな?ご飯食べて、ゲームしようとしてたとこだったんだけど…」
充くんはそれを聞いてか聞かずの内にどこかへ電話してる。


「あ、もしもし?今どこ?あ、そうなん?俺帰ってもええの?アカン?え?出るトコなん?じゃあもうちょいしたら帰るし。今日は戻るん?明日、仕事は?分かった。ほなな」
(?)
「今の、侯くん?」
「部屋、帰ろうや」
「でも…」
「他に行けるとこないんちゃうん?」
ただ、頷く。
「ほな、帰ろうや」

私のカップを手早く片付けて、充くんが歩き出す。
私は、少し後ろをただついていく。
いつかはあるかもしれないと思ってたことでも、いざ目の前に突きつけられると、やっぱり辛かった。
帰り道が少し、滲んで見えにくい。
でも今は、充くんの優しさに頼るしかなかった。





今日は木曜日。
だから侯くんはずーっと仕事。
午前中から行かなきゃいけないのにまだ起きてこない…。
さっきから目覚まし時計とアラームがずっと鳴ってる。
大丈夫?
神経質な侯くんだから寝室には入らないことにしてるんだけど、充くんももう学校行っちゃったし、どうしよう。



コンコンコン
「侯くん?朝だよ?目覚まし鳴ってるよ?」
ドアの前で呼んでみるけど返事はなくて。
ガチャリ
うすくドアを開けて覗いてみる。
大音量で鳴り響くアラームの中、微動だにしない布団のカタマリ。
(急病!?)
はっとしてベッドサイドに駆け寄ると、スヤスヤと眠ってるだけの侯くん。
ホッとすると同時に、初めて間近で見るそのキレイな寝顔から目が離せなくなる。



(!?)
急に目の前の景色が回って、ぎゅっと目を瞑る。
と、同時に暖かいものに包まれる感覚。
とりあえず何が起こったのかよく分からない。
そっと目を開けてみる。
(肌?白い…)
首を少しずつ反らせてみる。
(鎖骨…キレイ)
(ノドボトケ…あるよね、そりゃ)
(ちょっとだけヒゲ伸びてる…)
にわかに心臓が飛び跳ねる。
(やわらかそうな、くちびる)
ようやく、両腕に抱きしめられていることに気付く。



(心臓の音、うるさいよ!)
慌てて抜け出そうとするけど離してくれないし、余計に腕の力が強まったみたい。
「ん、ちょっと侯くん」
侯くんがうっすらと目を開けた、と思ったらまた視界が回って暗くなる。
覆い被さる陰が静かに近付いて、やわらかいものが口に触れた。
(!?!?)



直後、ゴロンと横になり寝息を立てる侯くん。
頭の中はパニック!!だ!け!ど!
(でもちょっと待って!侯くん仕事だよね!?)
「ね!侯くん起きて!仕事でしょ!?遅刻しちゃマズイよ!」
今度は強めに揺さぶるとようやく目覚めたみたいで。



気付くとアラームはもう止まってた。
「ん?あれ?なんでここおんの?今何時?」
状況をなんとなく把握したらしくぼんやり訊ねる侯くん。
ぼんやりしてる間に素早く抜け出して平静を装う私。
「もう!仕事行かないと遅れるから早く起きて!」
またぼんやりした表情で頭を掻きながら、のそのそ起き出す。
「コーヒーだけ、用意しとくね」
言い残して部屋を出る。



侯くんは急いでシャワーをしたり着替えをしたり。
いつもは気にしないようにしてる濡れた髪が、侯くんを余計に色っぽく見せるから、また目を奪われてしまう。
(私服もかっこいいな…あ、コーヒーいれないと)
逃げるようにキッチンへ行き、深呼吸してコーヒーをいれる。

コトリ
テーブルに出すと、他所行き直前の侯くんがアリガトウをくれる。
なんでもない朝のワイドショーを見ながら私のいれたコーヒーを侯くんが飲んでいる朝。
非現実感をおぼえて怖くなる。

「ごちそうさん」
侯くんは上着をはおって玄関へ。
「行ってらっしゃい」
言うと侯くんは「おん」と応えてドアから出て行った。



侯くんの姿が見えなくなって、ホッとする。
カップを洗わなきゃ、とキッチンへ向かった瞬間、玄関からバタバタという足音。
「ケータイ忘れた!」
くすりと笑ってまた送り出し、今度こそとカップをキッチンへ運ぶ。
洗おうとするとまたせわしない足音。
「どうしたん?」
「車の鍵忘れた!」
慌てふためく様子に、しょうがないなと思いながら。
「財布はあるの?」
「!!」
急いで掴んで慌ただしく出かけていく。

ようやく静けさを手に入れて、静かに私を待っていたカップを洗う。



掃除をしても、洗濯をしても、今朝のことを思い出しては手が止まる。
たいしたこともしてないのにいつも以上に時間がかかって、一息ついた頃には、時計は正午に迫っている。

点けっぱなしになっていたテレビからは聞き慣れたメロディ。
「あ、侯くん…」
独りごちた私の耳に黄色い声が聞こえる。
画面を見つめながら、ついさっきまで同じ空間にいたその人を想う。
「早く帰ってこないかな」
(でも、顔が合わせられないかも)
よく考えたら今日は木曜日で。
(あそっか、夜中にならないと帰ってこないんだった)




ちょっとホッとしたような、残念なような、いつもなら穏やかに過ぎる午後の時間。
動き始めた、木曜日。






侯くんと充くんの住むマンションに居候することになりました。
他に行くところもないし、仕事もないので、とりあえずは充くんに教わりながら家の中のことをやってます。



侯くんという人は、意外と神経質(?)なところがあって、心を許した人以外がいると熟睡できないみたい。
私が来てすぐの頃は侯くんもかなり気になってたみたい。
でも最近は少しずつ慣れてきたみたいで、リラックスしつつあるんだけど。


充くんは侯くんの弟。
普段は学校に行ってるので基本的に昼間はいないんだけど、侯くんは不規則な仕事。
昼間、侯くんと2人きりになる時はちょっと緊張?する。
侯くんの方は…そうでもないみたい。



まだ会ったことはないんだけど、侯くんには彼女がいるらしい。
モデルさん?て言ってたと思う。
2人が並んだら、きっとお似合いなんだろうな…って思いながら胸が苦しくなる自分もいて。
このままここにいても良いのかな?ってずっと考えてる。
侯くんはそんな私に気付いているのか、いないのか。
充くんは必要なこと以外何も言わないけど、なんとなく今の状況を受容しながらも私の気持ちには気付いてるみたい。