「初音ミクの消失」を

歌えるようになる。


(無謀)


しとしとしと。
空が泣いている
俺はそう思った。
泣きたいのは俺の方なのに。
















通い慣れた道、
やわらかい匂い、
愛おしい時間。
ただそこに在るだけでよかった。
進むことしか知らない俺の時計をいつも少しだけ戻してくれて、まるで、変わらないものもあるよと教えてくれていたかのようで。



「―――っげ、泥跳ねちった…」

一度に傘を何回転させられるか必死だった俺は、右足が足元にできた水溜まりへダイブしようとしていることに気付かなかった。
3回転半に成功した瞬間、びしゃんだかばしゃんだかの水の音。
俺の右足を中心にそれはそれはきれいな波紋が広がっていた。
靴下という名の布を越えてじわじわと押し寄せる冷たさ、と汚れたスニーカー。
それをじっと見る。こうなることは頭の片隅のそのまた奥でわかっていたような気がするから。
何もこんな日に、こんなに雨が降る日に歩いて行かなくても、と誰かの(大体検討はついているが)声が聞こえた気がして少し笑えた。

5月も半ば、夏の前に梅雨という季節があったことを思い出させるような雨。
湿度のせいか雨のせいか、長袖のカッターシャツが肌に張り付いてる気がして気持ち悪かった。

「今日はメロンソーダにしよっかなぁ。あ、でもアイスココアも捨てがたいよなぁー。こーゆー時、平次が居てくれたら2杯飲めンのに…」

奢ってもらえっから、そう言いかけて、静かな違和感に気付く。


あっれ…?傘立てが、ない。


いつも入口の横にあって、俺の置き傘(正確には忘れて帰るビニル傘)が2、3本あって、急な雨のときに大活躍する予定の傘たちとそれを支える傘立てが、ない。
おそるおそる顔を上げるとカーテンが閉まったままのドア。
目線の高さに一枚の張り紙。



お客様各位


このたび○月×日を持ちまして

閉店させて頂くこととなりました

長い間ご愛顧頂きました皆々様に

心から厚く御礼申し上げます

誠にありがとうございました



「―――嘘だろおい………」

嘘であってほしい、そんな願いを込めてドアノブに手をかけるも届かない願いだった。














だれか、だれかだれかだれか。

とにかく誰かに連絡したくて、
とにかくみんなに連絡したくて、
メールを一斉に送信する。
居ても立ってもいられなくなって、店に背を向けた俺は自然と歩き出していた。鳴らない携帯を胸の前でぎゅうと握り直す。
いちばんに返信をくれたのは平次だった。



From  :ぺー
Subject:Re:
============================
なくなってもうたんかぁ…
知らんかったわー
ところでお前、今1人なんか?
    -----END-----



読み終わるタイミングでまたバイブが鳴る。



From  :白馬
Subject:残念ですね。
============================
まさか閉店されてるとは。
黒羽君まだそこにいらっしゃるんですか?
    -----END-----



すう、と息を吸って返信ボタンを押そうとした瞬間、今度は着信音が鳴った。
思わず落としそうになる携帯を中腰で支えると、せっかく吸った息も吐いてしまう。


『……もしもし?』

「あ、ハイハイ。もしもし」

『ハイハイ、じゃねーよ。今何処にいンだよ』

「え、と。ポアロの先の路地を曲がって、そしたらちょうど雨をしのげ…」

『じゃあまだ近くにいンだな』

「(そんな遮らなくても)……ん、いる」

『あー…、何つうか、その、寂しいな』

「……え?」

『オメーが大事に思ってたってことは、他の奴らも同じように思ってたと思うぜ?』

「……うん」

『ま、とりあえずウチに来いよ。そっから行き方わかンだろ?』

「……うん」


1分にも満たない会話。
でも全部お見通しのようだ。
さすが名探偵。

細い路地を抜けて、汚れた右足から一歩踏み出す。
着いたらまず風呂場に直行しよう。このままじゃ絶対怒られる。
そんなことを考えながらふと目に入った、大きな黒い傘と小さな赤い傘。すれ違いざまに聞こえた会話に足を止めた。

「この雨じゃ、明日の遊園地は中止だな」

「えーっ!楽しみにしてたのにぃお空のばかっ!」
















…おいおいひどい言われ様だな、だから泣いてンのか?この空は

じゃあ俺のこのビニル傘で受け止めてやるよ

俺にも俺の思いを受け止めてくれる奴らがいるからさ―――








大きな大きな玄関が開いたと思ったら、案の定怒られた。

「ついでに入ってこい」と言われた風呂から上がると白馬がいて。

紅茶に飽きてきたころ、関西弁の黒いお兄さんが宅配ピザを届けてくれた。

明日は土曜日。
天気予報は 晴れ だった。


ちゃ ちゃ ちゃ ちゃ

かぼちゃのスープ

ママが作ったじまんのスープ

シンデレラの馬車

かぼちゃ かぼちゃ

シンデレラの馬車

かぼちゃ かぼちゃ

たんぽぽ色した

シンデレラのスープ

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かぼちゃのスープを作ってたら、横からこんな歌が聞こえてきた。

ザ・お遊戯会メロディー。

娘が生まれたら教えてあげてね。