はじめに
先日子宮体癌の再発低リスク群と考え手術(子宮全摘、両側付属器摘出、骨盤リンパ節郭清術)を行ったところ、筋層浸潤1/2以上、骨盤リンパ節転移陽性で術後再発高リスク群と判明した症例を経験しました。
本症例では、追加で傍大動脈リンパ節郭清術を施行し、術後補助化学療法を行う方針としましたが、追加の傍大動脈リンパ節郭清術の治療的意義について疑問をもったため調べてみました。
子宮体癌の術後再発リスク分類
子宮体癌の主治療は手術治療ですが、術後は再発リスク分類によって追加治療が検討されます。
再発リスク分類は再発リスク因子によって評価されますが、そのリスク因子には組織型、筋層浸潤の程度、脈管侵襲、頸部間質浸潤、子宮外病変の有無、などがあります。これらのリスク因子から、再発低・中・高リスクに分類ます。
再発低リスク群におけるリンパ節郭清術
再発低リスク群においては、ASTEC試験、PTC-CBM-15試験、またCochrane Libraryのメタアナリシスの結果から、骨盤リンパ節郭清については治療的意義は確立していないため、子宮体癌ガイドライン2023でも省略が提案されています。
再発中・高リスク群におけるリンパ節郭清術
子宮体癌においてリンパ節転移は予後を左右する重要な因子であり、骨盤・傍大動脈リンパ節郭清は、正確に進行期を決定しそれにより追加治療を決定することにおいて重要です。
一方で再発中・高リスク症例では術後に薬物療法の追加が推奨されているため、薬物治療が必須の場合にリンパ節郭清を行うことの治療的意義についてはまだ議論の余地があります。
再発中・高リスク患者に対するリンパ節郭清術の治療的意義についてのランダム化比較試験のエビデンスはまだありません。
再発中・高リスク症例に対し、骨盤リンパ節郭清に傍大動脈リンパ節郭清を追加した効果について、メタアナリシスの結果によると、骨盤リンパ節郭清のみの群よりも骨盤及び傍大動脈リンパ節郭清まで施行した群の方が、全生存率・無増悪生存率ともに有意に良好であったと報告されています。Arch Gynecol Obstet. 2020 Jul;302(1):249-263.
このように、RCTはまだありませんが、後方視的研究の結果からも予後改善効果が示されており、骨盤リンパ節転移陽性例では約半数が傍大動脈リンパ節転移が陽性であることから、今回追加で傍大動脈リンパ節郭清術を行う方針としました。
現在進行中のRCT
現在進行中のRCTは以下の2つがあります。
・JCOG 1412試験:日本。第Ⅲ相試験。1B期〜ⅢC1期の一部の症例を対象に傍大動脈リンパ節郭清の治療的意義について検証
・ECLAT試験:ドイツ。Ⅰ/Ⅱ期の再発高リスク症例に対する骨盤・傍大動脈リンパ節郭清の治療的意義について検証。
参考文献
子宮体癌治療ガイドライン2023
ASTEC 試験 Lancet. 2009 Jan 10;373(9658):125-36.
PTC-CBM-15試験 Natl Cancer Inst. 2008 Dec 3;100(23):1707-16
Arch Gynecol Obstet. 2020 Jul;302(1):249-263.