早期子宮頸癌に対する妊孕性温存手術として、広汎子宮頸部摘出術が行われています。

先週腹腔鏡時補助下広汎子宮頸部摘出術の症例を経験しました。

エッセンスについてまとめてみました。

 

広汎子宮頸部摘出術とは

下のシェーマのように、癌のある子宮頸部とその周辺の組織のみを切除し、子宮・両側の卵巣卵管を温存し妊孕性を温存する術式です。赤い部分を摘出後に膣と残存頸管を縫合します。骨盤のリンパ節郭清も行います。

 

 

手術適応

広汎子宮頸部摘出術の適応は一般的に、

  1. 妊孕性の温存を強く希望している
  2. IA2, IB1期
  3. 明らかなリンパ節転移がない
  4. 予後不良な組織型でない

が挙げれらます。

 

術式

膣式・腹式・腹腔鏡下があるが当院では腹腔鏡補助下を採用しています。

  1. 臍に12mmトロッカー、左下腹部、下腹部正中、左肋骨弓下に5mmのトロッカー、右下腹部には12mmのトロッカーを挿入。
  2. 子宮後面に0バイクリルを縫合しマニピュレート。
  3. 左右の直腸側腔〜直腸後腔を展開。膀胱子宮窩腹膜を切開し膀胱を剥離。膀胱側腔も展開。
  4. 左右の骨盤リンパ節郭清を行う。
  5. 子宮動脈を同定しテーピング。温存しながら尿管トンネルをあけ、尿管枝を処理。尿管を外側へ転がし転がし膀胱子宮靱帯前層を処理。
  6. 基靱帯リンパ節を郭清し深子宮静脈を切断し挙上。
  7. ダグラス窩腹膜を切開し直腸を背側へ剥離。仙骨子宮靱帯及び直腸膣靱帯を切断。
  8. 傍膣組織を結紮し切断。
  9. 下腹部横切開で開腹。膣に腸管クリップをかけ膣管を切開。子宮動脈下行枝を挟鉗・切断。エコーで内子宮口の位置を確認し、残存子宮頸部の頸管長が 1 cm 以上、病変と切除断端との距離は少なくとも 5 mm 以上を目標とし、頸部を切開。摘出標本の内膜側を迅速病理へ提出し陰性を確認。ヘガールで拡張しneo cervixを形成し膣と縫合。
 

手術成績

広汎子宮全摘と比較した前方視的研究はありませんが、後方視的解析では腫瘍径が同等であれば広汎子宮頸部摘出術と広汎子宮全摘術では治療成績が変わらないとする報告が多いです。

システマティックレビューでは、広汎子宮頸部摘出術後の再発率は2.3-3.3%, 死亡率は0.7-1.6%と報告されています。

 

術後合併症

術後合併症として特徴的なものとしては、頚管狭窄、子宮性無月経などがあります。

 

周産期予後

術後妊娠率は21-24%と報告されています。

分娩様式は帝王切開です。

37週未満の早産率は76-86%

28週未満の早産率も12-60%と高いです。

関東地方の広汎子宮頸部摘出術後の周産期予後をまとめた論文(nt J Gynaecol Obstet. 2024 Jan;164(1):108-114.)によると、

135例の妊娠のうち、32例が流産(妊娠週数12週未満:n=22;妊娠週数12週以上:n=10)であり、103例が妊娠週数22週以降の分娩であった。妊娠週数28週以前および34週以前の早産の発生率はそれぞれ8.7%および30.1%でした。

 

 

参考文献:

  • 子宮頸がん治療ガイドライン2022年版 CQ12
  • nt J Gynaecol Obstet. 2024 Jan;164(1):108-114.
  • 早産の全て
  • Obstet Gynecol. 2020 Sep;136(3):533-542.