イケメン戦国 伊達 政宗

本編 ご褒美ストーリー③

【一線を越えて】


ぎゅっと閉じていた瞼を開ける。

()

目の前に、血に濡れた肩が見えた。

政宗:……


:……政、宗……

黒装束の男:………ぐ、っ……

政宗が投げつけたのか、刀が、黒装束の男の身体を貫いている。

黒装束の男2:貴様、伊達政宗か……っ!

(あっ!)

看護者達を襲っていたもう一人の男が、刀を抜き駆け込んでくる。

政宗:遅い

二本目の刀を抜き、鮮やかに敵の刀をさばくと、政宗はその男の首筋に切っ先を突きつけた。

黒装束の男2:……っ、俺達二人を殺しても、まだ安堵はできんぞ

政宗:残念だが、お前で最後だ。この辺りをうろちょろしてたお前の仲間は、今頃俺の部下が全員始末してる頃だ

政宗の無慈悲な刀が、その男も切り伏せる。

敵の頭巾をはぐと、ざんばら髪があらわになった。

政宗:元坊主。ってことは、顕如の横やりか。胸糞悪いことしやがって

そう吐き捨てると、政宗はふらつく足取りで森の奥へと分け入っていく。

そこでようやく、私は我にかえった。

:っ、政宗……!どこに行くのっ?待って

政宗:……

人目のないところまで移動すると、突然、政宗かその場にくずおれた。

:政宗……

とっさに駆け寄って、政宗の身体を抱きとめる。

政宗の右肩から流れる血が、雨と混じり私の着物にじわりと滲んだ。

(血がこんなに…)

政宗:あー、くそ銃弾が貫通してるのが幸いだな

政宗は木に身体をもたれさせ、苦しげに呼吸を繰り返している。

:は、早く手当、しなきゃ……っ、まってて!

救護用の天幕に駆け込んで、急いで消毒用の酒と綺麗な布を持ってくる。

:まずは、血、止めないと……

政宗:……、舞、落ち着け


混乱したまま、傷口を押さえる私を、政宗かいつもよらずっと穏やかな声でなだめてくる。

(…っ、どうして)

向けられた笑顔が苦しくて、視界がかすかに歪む。


(政宗:はっきり言っておくが俺は伊達家当主として、家臣団の将として、それが必要とあれば、たとえお前だとしても殺す)


涙を堪えながら、見ているだけで痛々しい傷口に、止血の布を巻く。

:どうして、かばったりしたの、まだ、戦も終わってないのに。怪我してまで私をかばう必要なんてなかったでしょ……

政宗:そうだな。本来ならそのつもりだったんだけどな。お前が死ぬと思ったら、身体が勝手に動いてた

(身体が、勝手にって)


(政宗:もしお前が死んだら、俺がお前の死を誇ってやる)


(……っ、嘘つき…)

(私が死んだ時の話、平然としてたじゃない)

注がれる眼差しがやけにあたたかくて、堪えられず視界がぼやけていく。

:ここでもし死んじゃったら、政宗の使命はどうなるの立派な国、つくるんじゃないの……っ? 

政宗:何怒ってんだよ、命の恩人に。この程度で俺が死ぬかよ

そう言って、政宗が優しく私の頬を撫でる。

政宗:泣くな

その手が、言葉と裏腹に恐ろしく冷たくて、ますます涙があふれてきた。

:……っ、ごめん。ごめん、なさい……

頬に触れる手に自分の手を重ねてぎゅっと握りしめる。

(……私のせいだ)

:何も、出来なかった

政宗:初陣なんて、そんなもんだろ。鉄砲かついで戦おうとしただけ、上出来だ

(…違う。戦おうとなんてしてない)

(あの時、私は心の中で、殺したくないって願った)

(敵であっても、殺せないって…)

止血の布をぎゅっと縛って離れると、政宗の懐にあった何かが、指先に引っかかって、ぱさりと落ちた。

(あ、これ私が描いた、絵だ)

政宗:悪い、血で汚れたな


:ううん、いい、いいの……

政宗との思い出が詰まった絵が、赤い血で濡れていた。

その不釣り合いな光景が、私の考えの甘さを突きつけているように見えた。

(さっき私が敵を撃てていたら政宗が私を守る必要もなかった)

(…こんなことにはならなかったんだ)

政宗:馬鹿、もう泣くな

政宗が片手でそっと私の頭を引き寄せる。

政宗:助けたお前に泣かれてちゃ、格好つかないだろうが


:……、っ……

なだめるように囁かれたあと、目元に唇が寄せられる。

柔らかい感触が涙の跡をぬぐい、さらに胸の奥がぎゅっと軋んだ。

(…唇、冷たい)

その場で膝を立たせ、そっと政宗の頭を、自分の胸に引き寄せる。

少しでも暖められるようにと、私は抱きすくめるように腕に力を込めた。

政宗:泣くなって言ってんのに、お前は


:泣いて、ない

呆れ笑いをこぼす政宗に、涙声をかえす。

冷えていく体温と、地面に広がる真っ赤な血に、政宗を失う恐怖が膨らんで、ぎゅっと、抱きしめる腕に力を込めた。

(死なないで)

胸が張り裂けそうなくらい、私の心が、そう叫んでいた。

政宗:……っ、う……

ふいに政宗が、怪我した右腕を持ち上げて、私の身体を抱き返した。

:だめだよ、動いたら

政宗:うるせ。じっとしてろ


私の首筋に顔をうずめて、政宗が静かに呟く。

政宗:……お前の心臓の音、落ち着く

(……)

あたたかい吐息が肌に触れて、政宗が生きていることを、教えてくれる。

(政宗の、心臓の音も、ちゃんと聞こえる…)

しばらくそうして寄り添っていると、突然、政宗がしっかりとした口調で命じた。

政宗:舞、この傷のこと、絶対に黙ってろよ

:………っ、どうして?

政宗:夜の間は互いに一時休戦の状態だが、いつまた交戦状態になるかわからない。大将がぐらつくのが、一番士気が下がる

:でも、さすがに、こんな怪我じゃ戦えないでしょ?戦場に出なかったら、秘密にしても気づかれるんじゃ……

政宗:何言ってんだ。この程度の怪我で弱ってたら、伊達の名折れだ

(…このまま、戦場に出るってこと?)

光を失ってない政宗の眼に、焦りから背筋がぞくりと冷えた。

:あ、危ないよ!この肩で刀が振るえるの?!

政宗:右腕が使えないなら、左腕で戦うだけだ

:そんなことしたら本当に死

政宗:死なない

:

強い語気で否定されて、はっと息を飲む。

政宗:腕がちぎれようが、足が折れようが、戦わない理由にはならない。ここで退いたら、もっと大事なものまで失う

:……

(肩は重症だし、血も足りないはずなのに…)

それでも、政宗の眼に宿る熱い炎は消えていなかった。

その眼差しの美しさに、一瞬、全ての感覚が奪われた。

:……わかった。周りには、言わない

政宗:素直で結構


:……、ん

ぐ、と荒っぽく身体を引き寄せられて、口端に政宗の唇が触れた。

政宗:約束だからな


政宗はそう言って、しっかりとした足取りで立ち上がった。

それとほぼ同時に、森の向こうから大勢の馬の足音が聞こえて来る。

政宗:あいつらの声だな。舞、戻るぞ

:っ、うん

政宗の横顔を見つめながら、私は心がある一線を越えたのを感じた。

(この人を守るためなら、今度こそ)

(私は、引き金を引ける)