イケメン戦国 〜豊臣 秀吉〜
本編 両ルート恋度MAX特典
【Love Letters】①
(……まずい。非常にまずい)
仕事を終え帰宅した秀吉は、物入れのひとつを開き、硬直した。
あるべきはずのものが、なくなっている。
(ここに入れといたはずなのに、どこいった!?昨日見た時は、確かにあったはず……)
舞:あっ、秀吉さん、帰ってきてたの?
(っ……舞)
一緒に住んでいる最愛の恋人が部屋に顔を見せ、まばゆい笑顔でそばへ歩み寄ってくる。
舞:お帰り。お仕事お疲れ様
秀吉:……おう、ただいま。舞もお疲れ
いつもの習慣で、舞の頭をぽんっと撫でる。
舞は心地良さそうに微笑み、頬を赤く染めた。
(ああもう今日も可愛いな)
(っ………じゃなくて)
失くし物のことを思い出し、自然としかめっつらになる。
(弱った。こればっかりは舞に話せねえ…)
ウリ:キキ…!
三成:こら、待ちなさい、ニガウリ
(ん?)
ウリがパタパタと部屋へ飛び込み、そのあとを、三成が追いかけてきた。
(そういや、うちの書庫の文献を見せるついでに、三成にウリの世話を頼んでたんだった)
舞:ウリ、三成くんを困らせちゃ駄目だよ
わたわたしてばかりの三成くんに代わり、舞がウリを捕まえる。
三成:助かりました、舞様……。キュウリはどうも私の言うことを聞かなくて…
秀吉:三成、面倒だけど一応言っておくと、ニガウリでもキュウリでもなくウリだからな
(違う名前が、同じ種類の植物になっただけマシになったな)
秀吉:にしてもウリは、三成になかなか懐かないな。女の子なのに。お前ほどの色気でも、猿には効かないか
三成:え?何のことでしょう……?
首をかしげつつ、三成は舞からウリを抱き取る。
舞:三成くん、自覚ないの?針子仲間の子達の間でもすごい人気だよ。町の友達と話しても、みんな口をそろえて色っぽいって言ってるし……
三成:ふふ、それは何かの勘違いですよ、舞様
(うーん、三成に春がくるのは、もうちょいかかりそうだな)
武士としての三成は、能力が図抜けて高く、信頼しているけれど…それ以外の部分に関しては、心配しかない。
(とはいえ、舞はすっかり安土の暮らしに馴染んでるんだな)
(俺の知らないところで友人も増えてるみたいだし、何よりだ)
三成:そうだ、きっとその女性達は秀吉様のお話をしていたのだと思いますよ、舞様
秀吉:ん?
三成:安土で一番の男前は、秀吉様ですから
(何トンチンカンな事言い出すんだ、こいつは……)
舞:そうだね、三成くんも素敵だけど、私も秀吉さんが一番かっこいいと思う
(な……)
舞:あ、でも、安土で一番じゃなくて、この世で一番じゃないかな?
三成:確かに、そうですね!
(おいおいおいおい)
秀吉:何馬鹿ばっかり言ってるんだ、いい加減にしろ
三成:え……?
舞:えー?
三成は不思議そうな顔で、舞は不満そうな顔で、揃って秀吉を見つめ返す。
この二人は、世話の焼き甲斐がある、二代巨頭としてとりわけ目をかけているけれど…
(そんなに褒められると、どう返していいかわからなくて、困るだろ)
照れくさくて居心地が悪く、強引に話題をすり替える。
秀吉:そんなことより三成、眼鏡が曇ってるぞ。また、掛けてること忘れて上から手でこすっただろ
三成:あ、すみません、そのようです
秀吉:ほら、磨いてやるから貸してみろ
三成:いえ、読書は少し休憩するので、外しますから
根本解決にはならないことを述べ、三成は眼鏡を外し懐にしまった。
三成:あ、そういえば…秀吉様にこれを渡そうと思ってわすれていました
三成が眼鏡と入れ違いに懐から出した一枚の文を見て、秀吉はぎょっとした。
秀吉:どうしてお前がこれを……っ?
三成:ヘチマがどこからか持ち出したようです。秀吉様にお返ししようと……
秀吉:わかった、助かった、ありがとな!
この際、ウリの名の件は置いておき、サッと文を掠め取って懐にしまう。
(よかった、見つかって……。本っ当によかった)
舞:秀吉さん、今の何……?慌てて隠したように見えたけど……
秀吉:なんでもない。気にするな。それより舞、仕事は一段落ついたのか?
舞:え?うん……
秀吉:茶を淹れてやるから休憩しよう。三成も、な?よーし、そうしよう、待ってろ、二人とも
茶の支度をするという名目で、そそくさと廊下へ出て、隠した文を取り出す。
ウリの爪痕が残っていたが、破れてる様子はない。
(無事に戻ってきてよかった。今度からしまう場所に鍵でもつけとくか)
胸を撫で下ろし、秀吉は再び丁寧に文を懐にしまった。
秀吉が晴れやかな気分で茶の支度をしている頃……
舞:………怪しい。非常に怪しい
三成:え?何がですか?
三成はウリが嫌がるのも気づかず膝の上で適当に抱きながら、舞へ振り向いた。
舞:秀吉さんの態度だよ。一瞬見えたけど、三成くんが渡してたの、文だよね?
三成:はい、そうです。勝手に見てはいけないと思い、中は開きませんでしたが…表に美しい字で、秀吉様へと宛名が書かれてましたので
舞:そう……。見つかって、あんなに動揺するほど、大事な文なのかな
三成:ああ、それは間違いありません
悪気なく微笑む三成とは裏腹に、舞がしゅんと肩を落とした。
舞:見た所ちょっと端がよれてたし最近届いた文じゃなさそうだけど、なくして慌ててたってことは……よっぽど、特別な人から送られたものなんだろうな……
三成:はい!それも私が保証します
舞:そっか……。どんな人が書いた文なのかな。きっと、昔付き合ってた人だよね
三成:それなら、宛名の文字を見てわかりましたよ。あの文の差出人は……
舞:っ……いいの。知りたいわけじゃないから。今は、私を大事にしてくれてるってわかってるし
三成:舞様………?
話をさえぎり、ゆらりと立ち上がると、舞は襖に手をかけた。
舞:三成くん、ごめん。お茶は秀吉さんとウリと三人で飲んで
三成:なぜです?
舞:ちょっと一人になって、私の心の中と般若と戦ってくる…
舞が出ていき、三成が首を傾げながら、膝の上のウリに視線を落とす。
三成:舞様はどうなさったのでしょうね、ウリ
ウリ:………キキ
三成:っ…!?
今さら遅いと言いたげに、ウリは三成の膝を手厳しく引っ掻いた。
その日の夜、すでに寝る支度を済ませた秀吉は、襖の向こうに声をかけた。
秀吉:舞ー、まだ寝ないのか?
舞:うん、あとちょっと………!
隣の間から、襖越しに返ってくる声は、少し強張っている。
(昼間から様子が変だな。ずっと隣の間に閉じこもって出てこないし…)
(まかさコレに気づいたのか……?いや、そんなことないよな)
(すぐに懐に入れたし、何かはわからなかったはずだ)
手元に戻ってた文を広げ、蝋燭の明かりを頼りに文字を目でなぞる。
それは、秀吉に宛てられた、ある別れの文だった。
(読むたびに胸が痛くなる。だけど、これが唯一もらった文だから、手離せない)
別れの理由が切々とつづられていて、最後の数行は涙の跡でにじんでいる。
(何回も読み返したから、もう文面を覚えちまったな)
『この先、二度と逢うことはないと思います。だけど私は、あなたに逢えて幸せでした。本当に、夢みたいに、幸せでした。勝手にいなくなることをこの文で謝ろうと思っていたけど、あなたは「あ」で始まる言葉が好きだと、いつだか教えてくれたから…「ありがとう」とだけ書きます。何回書いても書き足りません。心の底から、ありがとう。私は一生、あなたがくれた幸せを、忘れません。さようなら。』
(勝手かもしれないけど、これを恋文だと思っても罰は当たらないよな)
(…….舞には悪いけど、どうしても捨てられない)
そっと文を閉じ、唇を押し当てたその時ー







