ちょっと時間が開きましたが、レビュー再開です。


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『暗殺者のメロディ』


72年、ジョゼフ・ロージー監督作品。


彼は48年にアメリカで長編映画デビュー。

『緑色の髪の少年』という作品なのですが、

戦争孤児をテーマにした、もろに反戦映画でした。


当時既にあったマッカーシズム、レッドパージの流れのせいで、

結局53年にはイギリスへ亡命することになります。

(赤狩り。

今考えると本当に恐ろしい話ですが、

ある意味、公にそうした議論を正面切って出来たということは、

いや、議論はさせてもらえなくとも、

政治の場とコミュニケーションが取れていた、という点で

今の状況よりは正常だったのかもしれない、

なんて最近思います。)


今回のレビューのために調べるまで知らなかったんですが、

なんと彼は当初演劇を志しており、ロシアでブレヒトとも交流があったそうです。

根っからの左翼だったんですね。



という前置きで、

今回のレビューに入ると分かりやすいです。



この映画の原題は

"The Assassination of Trotsky"

「トロツキーの暗殺」

です。



わかりやすいですよね。笑


アラン・ドロンが主役の暗殺者として登場する、

タイトルそのままの物語です。



正直作品として観る所はほとんどないのですが、

映画史的に観ると2つポイントがあります。



①邦題について



まず、

『トロツキーの暗殺』

が何故

『暗殺者のメロディ』

という邦題になったのかということに関して推測をしてみます。



『死刑台のメロディ』(’70、イタリア)

『小さな恋のメロディ』(’71、イギリス)

『恐怖のメロディ』(’71、アメリカ)

『地下室のメロディ』(’63、フランス)



とりあえず「メロディ」という名前のついた映画を並べて見ます。

この頃『○○のメロディ』ってつけるのが流行ったみたいですね。

そして意外と全部製作国が違います。


でも厳密に言うと、原題は

『Sacco e Venzetti』

『Melody』

『Play "Misty" for Me』

『Melodie en sous-sol』

です。


2つめの『Melody』も主人公の女の子の名前ですから、

『地下室のメロディ』

以外は全て日本人が勝手に「メロディ」とつけたタイトルということになります。


しかも

アラン・ドロンが主演しているという共通点からも

『地下室のメロディ』からこのタイトルが導き出されたことが推測されます。


ちなみに1番目の『死刑台のメロディ』はアメリカでの赤狩りの話が出てきて、

ロージーとの関係をそのつながりで思い出すこともできますね。



また撮影監督にパスクァリーノ・デ・サンティスと共に

ヴィットリオ・ストラーロの名前が連なってますので、

ベルトルッチの『暗殺の森』(’70)と「暗殺」つながりでつなげることも出来ます。




②映像に見る映画史的記憶


・屠殺

この映画の中で闘牛のシーンが出てきます。



トロツキーに対してシンパシーを感じているアラン・ドロン扮する暗殺者ジャクソンは、

暗殺の命令に対して、葛藤を抱きます。

戦争続行によって死んでいく人々と、断固革命支持によって苦しむ人々の間で。

その中でこの闘牛を彼は見るわけですが、

その苦しむ表情と共に、

牛がどんどん剣や槍によって刺され、弱っていく姿が交互にカッティングされ、

最後に屠殺のショットに切り替わります。



映画史について少し詳しい人なら、このシーンを聞いただけで、

「ああ、エイゼンシュテインの『ストライキ』の引用だな。」とわかるはずです。



モンタージュ理論で有名なエイゼンシュテインは、

『ストライキ』のなかで権力者側によって労働者達が暴力を受けるシーンの後に

屠殺のショットを持ってくる、ということを行いました。


左翼映画作家のロージーとしては、何ともわかりやすい引用です。




・川、船、レーニン



この映画のなかで、唯一私の好きなシーンがあります。



それはアラン・ドロンが恋人のロミー・シュナイダーと船でデートをしているとき、

二人で川面を見ていると、そこに突然レーニンの姿が映し出される、

というシーンです。


こう、なんとも「ぬめーっ」とゆっくり

船の移動に合わせて水面に映り出すわけです、

レーニンが。

(たぶんレーニンな気が。スターリンだったらごめんなさい。)



これは私の勝手な推測ですが、

これはアンゲロプロスの『ユリシーズの瞳』に出てくる、

巨大なレーニン像が川を運ばれていくのにつながっているんじゃないかと。



とにかくどちらのシーンも

「一体こんなショット、どこから出てきたんだ??」

と思わずにいられません。




といったところです。



そんなに観る価値はないのではないかと。



同じ「メロディ」なら『恐怖のメロディ』の断然勝ちですね。


イーストウッドの天才ぶりを鮮やかに見せ付けてくた、

彼の監督デビュー作。

「ヒッチコックくらいだったら簡単に出来るよ」とでも言いたげな作品。

夜、突然ナイフで襲われるシーンは、本当に本当に本当に逸品です。

そしてブルース・サーティースのカメラは、やっぱり大好きですね。



結論、『恐怖のメロディ』を観てください。