今回で最後になります。

3回目の『ユージュアル・サスペクツ』解説&レビューです。





③「停滞」の映画



最後に、

この映画を特徴づける、ある「記号」の謎解きを通して、

この作品のレビューをまとめたいと思います。



その記号とは、

「停滞」

です。



それではまず、

この映画に散りばめられた、非常に多くの「停滞」の記号の連なりを

以下に見ていきましょう。




1、留置所で出会う5人が逮捕されるシーンにおいて、

なぜか誰もが逃げようとしない。

普通の映画なら、何とか逃げようと試みるシーンです。

(例外はヴァーバルとフェンスター。

フェンスターは後にソゼの命令に背き、

宿から逃げ出そうとしたところを殺されます。)



2、主人公ヴァーバル・キントは左半身不随。

歩くのも不自由な人間として登場します。



3、面通しで出会った5人で行った最初の犯行は、

移動中の車を4台の車で囲み停車させて襲う。



4、続いての犯行もまた駐車場で停車している車を襲う。



5、そして最後は停泊してる船を襲う。

船を爆破炎上させるシーンは、

最初の車での犯行での炎上シーンとダブることでしょう。



6、船室に居たアルトゥーロは自分の窮状を知りながら、全く動こうとしない。



7、ソゼに撃たれたキートンが「脚の感覚がないよ」という。



8、船上で油が燃え広がる際に、

線状となった炎が死体の脚を切るかのように進んでいく。



9、ヴァーバルが隠れていた(はずの)、ロープの山は船を停泊させるためのもの。



10、何よりも、この話を語るヴァーバル・キントは警察署の一室で語り続けていた。




おそらくまだまだあるんだろうと思いますが、

ひとまず思い当たった主要なシーンは挙げれたと思います。


「停滞」を何かの記号として利用しているのは明らかでしょう。




では、その記号たちは、私たちに何を伝えるためのものだったんでしょうか。





①と②のレビューで、

「この映画が(意外と?)映画に関して自己言及的だ」

ということが理解できてきたのではないかと思います。




この「停滞」の記号たちも、そんな「メタ映画」的言及なのです。




映画の重要な特徴の一つは、


「観客がその上映時間のあいだ座り続けながらも、

映像を通してあらゆる場所に移動することが出来る。」


というものです。




もうおわかりでしょう。




つまり登場人物たちは全て、

ソゼによって作られた「映画」を観る観客として用意させられていたのです。


強制的に観客席に座らされ、「映画」を観させられていた、

かわいそうな登場人物たち。


私たちの代わりに死んでくれた、彼らに感謝しないといけませんね。







さあ、

以上で①②③と、この作品の特徴に対する解説が揃いました。



どれもがこの作品の「メタ映画」的側面、「映画とは何か」を語ってくれるものです。



この映画を観た人、

このレビューを読んでくれた人が少しでも、

こういった映画の構造的な思考を通して、

映画の鑑賞に意識的に参加してくれるようになってくれると嬉しいですね。