17冊目:ばくうどの悪夢 | 【読書感想文Blog】ネタバレ注意⚠

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ばくうどの悪夢

澤村伊智

2023/11/30

 
 

 

 

★ひとことまとめ★

幸せな夢を見ながら死にたい

 

 

 

 

 

 

↓以下ネタバレ含みます↓

作品読みたい方は見ないほうがいいかも

 

 

 

【Amazon内容紹介】

比嘉姉妹シリーズ、待望の最新長編。澤村伊智が放つノンストップホラー。


「眠れば、死ぬ」
東京から父の地元に引っ越してきて以来、悪夢に悩まされていた「僕」は、現実でもお腹に痣ができていることに気づく。
僕だけでなく、父親の友人の子供たちもみな現実に干渉する悪夢に苦しめられていた。
やがて、そのうちひとりが謎の死を遂げる。
夢に殺されたのか。次に死ぬのは誰か。なぜ、悪夢を見るのか。
理由を探る中でオカルトライターの野崎と真琴からお守りをもらい、僕らの苦悩はいったん静まったかのように思われた。

しかし、今度は不気味な黒ずくめの女に襲われる悪夢を見るようになる。 「比嘉琴子」と名乗るその女は、夢の中で僕を殺そうとしてきて──。

 

 

【感想】

久しぶりの澤村さん、比嘉姉妹シリーズ飛び出すハート

続きが気になって気になって仕方なくて、睡眠時間を削って読みました赤ちゃんぴえん

これはもう冒頭からラストまで流石としか言えないほど読み応えがあり素晴らしかったです。

あとになって、あれは伏線だったのか…と気付く部分も多くて伏線回収も流石拍手

書いといてなんですが、どれが伏線とかあまり深く考えずに素直に読んだほうが楽しめます!

 

 

 

物語は大きく分けると2部ですかね。

"僕"が主人公のパートと、"劉"が主人公のパート。

舞台は兵庫県東川西市T台。店らしい店もなく、バスも1時間に2本しかない田舎。

どちらのパートにも大きく関わってくるのが、T台にある東川西総合病院産科病棟での殺傷事件。突如押し入った男により、多くの妊産婦、胎児らが殺された事件。

 

 

僕は東京から父の故郷、T台に引っ越してきたばかりの中学1年生。

売れっ子小説家であり評論家でもある父・片桐孝朔は子供の頃から人気者で、小中学校の同級生たちで組んだグループ「片桐軍団」のリーダーだ。

片桐軍団のメンバーである樋口光太郎は、妻と胎児を東川西市産科病棟殺傷事件で亡くしていた。犯人は未だ逃走中だ。

憔悴する光太郎とその娘で僕の同級生の由愛を励ます名目で、片桐軍団はその子供も含め毎週末食事会を開いている。

しかし僕はいまだにT台に馴染めずにいた。メンバーの子どもたち…無愛想な由愛、粗暴な劉、劉の腰巾着の彬良…とは馬が合わず、田舎の文化や生き方にも嫌気がさしていた。

"ばくうどさん"もそうだ。東川西市に伝わる民間信仰だが、詳しいことを知る人はいない。

そんなわけのわからない神様を崇める人々に違和感しか感じられなかった。

 

僕はこのところ悪夢にうなされていた。

何かに追いかけられる夢。

そいつは夢の中で「ゴランナサイ。コレガ、ヒ…」と言っている。

内臓がねじ切られるような痛みで目が覚める。

何度もその悪夢を見るうちに、夢で傷つけられた部分に現実でも痣ができていることに気がつく。

食事会で夢の話をしたところ、実は由愛もこのところ悪夢を見ているという。

 

ある日の授業中、彬良が体調不良になり僕が彬良を保健室に連れて行くことになった。

保健室に彬良を運ぶとあの夢と同じ、「ゴラン」「コレガ」という声が聞こえてきた。

そいつに追いつかれ、腹が締め上げられる感触で目が覚めた。

彬良を保健室に連れて行ったのは現実ではなく、僕は授業中に寝てしまい夢を見ていたのだった。

 

その夜、彬良が亡くなった。

亡くなった彬良には、僕と同じ痣があった。

そして、由愛だけでなく劉も同じ悪夢を見ており、同じく体に痣ができていた。

 

このままでは自分たちは彬良のように悪夢に殺される。

どうにかして悪夢、そして死から逃げることはできないのか。

僕たちは片桐軍団を巻き込み解決方法を探すこととなった…。

 

 

片桐軍団のメンバーには過去作にも出てくる主要キャラ・野崎もいます。

野崎や真琴の力を借りて、ばくうどの真相に迫る僕たち。博識な孝朔の活躍によりばくうどの正体、そして産科病棟殺傷事件の犯人が明らかとなる。

 

 

以下がっつりネタバレなので本読みたい人は読まないほうがいいです注意

 

 

 

 

犯人はばくうどの呪術を利用し積年の恨みを晴らそうとしていた。

ばくうどの呪術には「殺された妊婦の皮」が必要だった。

そのため犯人は産科病棟殺傷という凶行に走ったのであった。

 

東京に出たはいいもののろくな仕事にありつけない自分。方や低レベルな田舎で暮らしているやつらは幸せそうにしている。

自分より劣っているはずの連中が、自分より恵まれているのが許せなかった。

犯人である野崎はそう供述していた。

 

 

 

 

 

後半はそんな前半とは一変し、片桐軍団の一員伊庭雪雄の息子・劉が主人公のお話です。

 

片桐軍団は久しぶりにT台にある伊庭家に集結していた。

上京組の野崎、片桐とはしばらく没交渉であったが、野崎がT台に戻り、片桐とも連絡がとれたことで軍団は久しぶりに再会することとなった。

 

その場で野崎が話したのは、昔この地に伝わっていた子守唄についての話だった。

その歌の内容は、辛い現実に直面していた少女たちが、ばくうどにより導かれたことで苦しまずに死ねた、というものだった。

野崎は"ばくうど"は夢の怪と呼んでいた。

ばくうどに導かれることで極楽の夢を見て幸福に死ぬための、自分用の子守唄。

少女たちの、現実逃避の祈りの唄。

 

では、ばくうどとは何か?

野崎は中国に伝わる物語を挙げ説明し始める。

ある男が槐(えんじゅ)の木に開いた大穴に入ると、そこには城が建っていた。その国の王に気に入られ、男は大国で何十年と活躍する。

しかし、ふと気がつくと男は自分の家で目が覚める。すべては夢だったのだ。

この話での大穴や城は蟻の国…蟻の巣を意味しており、王もただの蟻だった。

夢というのは作り話くらいがちょうどいい特にという教えの話だったのだ。

 

この話の内容が間違って世に広まったことで、この地に届き、祈りの唄となり、その結果祈りの対象としてばくうどが生まれた。

とはいえ、ばくうどもただの言い伝えであり存在などしない。

 

はずだった。

 

 

後半は片桐が引き起こした産科病棟殺傷事件によりばくうどが復活してしまい、子どもたちが巻き込まれていくお話です。

そう、前半部分はばくうどにより見せられていた片桐の夢の話だったんです。

 

田舎に嫌気が差し、東京に出たものの馴染めず仕事も続かず、ネットでも荒らし扱いされどこにも居場所がなかった片桐。

優れているはずの自分より、田舎暮らしの他のメンバーが幸せそうに暮らしていることが許せない。

現実では社長、警察官、医者などの立派な職に就くメンバーですが、片桐の夢の中ではガラの悪いヤンキー、娘に強姦、風俗通い、など片桐が蔑む存在に変えられています。

よっぽど自分が他のメンバーより劣っていることが許せず、現実から目を背けたかったんですね…。

自分を尊敬し頼る息子"僕"を作り出し、皆から賞賛される人生を送る。

それが片桐の幸せだったんですね。

 

片桐が夢から覚める瞬間は悲しかったですね。

ガラガラと世界が崩壊していくような感じ。

片桐が夢を見ていたのは事故後〜手術台の上の間だと思いますが、夢の中では長い時間経ったようでも現実では2-3分だったりするので、まああり得るよなと。

現実は肉塊の状態だけれど、夢の中ではとても幸せな人生を歩んでいる…現実とのギャップに虚しさを感じました赤ちゃんぴえん

 

なんの関係もないと思われる"僕"の夢に琴子が出てきたのはそのためだったんですね。

片桐ごとばくうどを倒すため、琴子は片桐の夢に入り込んだ。

 

今いる世界がが夢なのか現実なのかわからない時って怖いですよね。

私も妊娠中に昼寝しているとき、よく明晰夢を見ていました。

とは言っても自由にコントロールできるわけではなく、かなり現実に近い内容の夢というだけでしたが。

脳は起きているのに体が寝ている状態だからか、これは夢だ、起きよう、と思っても目がどうしても開けられなくて、起きろ!起きろ!と何度も試みるのに延々と起きられない、という夢でした。

たまに、あ〜起きられた!と思ったのにそれも夢だった、ということもあって怖かったです驚き

 

 

終盤に出てくる琴子の夢も悲しかったです。

いまでは一匹狼で強気な琴子ですが、本来は物静かでおとなしく頼りなさげで、死んでしまった姉弟たちと本当は幸せに暮らしていきたかったんだなと。

こんなに幸せな夢から覚めたくない、という気持ちもよくわかります。

幸せな夢を見れば見るほど、起きたあとの現実との乖離に打ちのめされてしまいそうです。

自分も亡くなった祖父母との夢を見たりしますが、起きたときに、そうだ…もういないんだった…と悲しい気持ちになります赤ちゃん泣き

 

 

幸せな夢を見させて、その魂を食らうばくうど。

けれど、片桐の最期のシーンや彬良の死に顔、由愛が夢の中で母に言われた言葉などから察するに、ばくうどは幸せな夢は見させてくれるけれど、最後には辛い逃げたい現実を本人に突きつけ、絶望したところを食ってますよね。

鬼滅の魘夢を彷彿とさせます汗うさぎ

決して幸せな気持ちのまま死なせてはくれない…嫌なやつです。。

 

 

夢の話だけではなく、事件による風評被害やネットでの誹謗中傷や手のひら返しなども書かれていて、現実でもあり得るよなと思いました。

 

ちょっと話は逸れますが、作中で被害者に追い打ちをかけるようなSNSの発言が書かれていましたが、現実でもそういう投稿する人いますけどあれってなんなんですかね?

最近は遺族に対して誹謗中傷をしたり、お墓にまでいたずらする人もいると聞いて驚きましたもやもや

交通事故遺族の方に「いつまでもしつこい」とか、子供を亡くした方に「一瞬でも目を離したのが悪い」とか。

逆張りしてる自分に酔っているのか、それともその人自身もなんらか闇を抱えているのか。

自分の大切な人が被害に遭っても同じように言うんですかね。

自分も加害者になっている自覚がないのかなあ。

いくら言論の自由とはいえ、許されないこともあるよなと思います。

100歩譲ってそういうことを思ったり家族などに言うのは良いとして、わざわざ被害者の方や遺族の方が見えるようなところに書く神経が理解不能です真顔

匿名だから身元が割れないだろうという余裕があるんだろうなあ。

 

 

自分がどうやって死ぬのかなんてわからないけれど、死ぬ間際は幸せな夢を見せてほしいなあ。

家族や大切な友人たちと楽しく過ごす夢。幸せな気持ちのまま逝きたい泣くうさぎ

 

しかし真琴が目を覚さないのは大きな痛手ですね…。

ばくうどの悪夢の後に出た「さえづちの眼」はどんな内容なんだろう?

読んでみたいな〜本