おばちゃんたちのいるところ - Where the Wild Ladies Are
松田 青子
2021/04/28
★ひとことまとめ★
幽霊も働いているのかもしれない
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
わたしたち、もののけになりましょう!
あるときは訪問販売レディ、あるときはお寺の御朱印書きのアルバイト、そしてあるときは謎の線香工場で働く〝わたし〟たち。
さて、その正体は――?!
八百屋お七や座敷童子、播州皿屋敷お菊たちがパワフルに現代を謳歌する痛快連作短篇集。
嫉妬、憎しみ、孤独に苛まれ、お化けとなった女たちの並々ならぬパワーが昇華され、現代女性の生きにくさをも吹き飛ばす!
ここにしかない松田青子のユニークかつ爽快な17つの物語。
【感想】
いや~面白い
17つもお話があるんですが、それぞれ歌舞伎、落語、民話などがモチーフになっています。手っ取り早い言い方をすると”幽霊”や”おばけ”と呼ばれるような存在のお話です。
不思議な線香工場では、類まれなる才能をもった”幽霊”や”人間”が働いている。線香を作るだけではなく、それぞれが得意な能力を活かし働いており、あるものは訪問販売、あるものはストーカー退治、あるものは幽霊のヘッドハンティングなど…。
お話に出てくる人の多くは”幽霊”なんですが、みんなまるで生きているかのようにパワフルなんですよね
生きている人間よりも生命力であふれているのではないかというくらい、生き生きと働いています
あとは、転生して現代に生まれ変わった幽霊も。転生しても、過去と縁がある名前や職業についていてなんだかおもしろいです。
カバーに書いてある絵ですが、それぞれのお話に出てくる人物を表しています。ひとつのお話を読むごとに、この人がこの絵の人かな?と照らし合わせる作業が楽しかったです。
モチーフとなっている、元の作品も調べてみたいなと思いました。
たくさんある中でも特に好きなお話のあらすじと感想を書いていきます。
・ひなちゃん(モチーフ:落語「骨つり」)
主人公の繁美が、人生で初めて釣りをしたときに釣れたのは骸骨だった。かなり古い時代の骨とのことで、骸骨は警察に回収されたのち、よくわからない機関の保管室に保管された。
釣りから帰り、疲れから眠ってしまった繁美のもとに、「ひな」という名の幽霊が現れる。
彼女は江戸時代に縁談を断った相手の手の者により闇討ちに遭い、川に捨てられてしまった。長い間川に沈み、他の骨はどこかに流れてしまったが、かろうじて残っていた骨を釣り上げてくれたお礼をしたいと繁美のもとに現れたのだという。
繁美の、ひなちゃんとの生活のお話なのですが、毎夜切り捨てられた時の姿にリセットされてしまうひなちゃんをお風呂に入れたり、マッサージをしたり他愛ないおしゃべりをしたり、とても羨ましいです…
この本の幽霊のいいところは、触れる(実体がある)ってところです。ひなちゃんにマッサージしてもらいたい。。
姿はリセットしても、記憶はリセットされないからどんどん現代に馴染んでいくひなちゃん…可愛い。。。
恋人が幽霊且つ女性でも、「それはオカシイ」などと言わない隣人も良い。この世界観がとても良い。。
・おばちゃんたちのいるところ(モチーフ:落語「反魂香」)
この本に収録されている「みがきをかける」に出てくるおばちゃん幽霊の息子・茂のお話です。
典型的なうるさいおばちゃんだった母親が首つり自殺をしてしまい、就職活動目前だった茂からはやる気が一切消え去ってしまった。就職活動を行わずフリーターになった茂は、タウンワークで見かけた会社名・業務内容もよくわからないが時給は高い会社に入社する。
おばちゃんたちが異様に多い工場で、茂は線香の検品作業を任される。
反魂香という、焚くと生前愛していた人が浮かび上がる不思議なお香。匂いもその人好みに変化するというのだからすごいです。きっと製造の段階で、不思議な能力を持ったおばちゃんがおまじないでもかけているんでしょうね
お墓参りに来ていた茂が母の歌声を耳にするというシーンで、おばちゃん(母親)着々と技を身に着けているなとニヤニヤしちゃいました
・クズハの一生(モチーフ:落語「天神山」)
きつねに似ていると言われ続けてきたクズハ。物事の近道が見えてしまうため勉強が良くでき、仕事も良くでき、結婚も出産も近道から外れなかった。
クズハには、標準的な人間の女のふりをして生きている気持ちが常にあり、もしかしたら自分は人間に変身したことを忘れてしまった狐なのかもしれないと冗談半分に考える。
息子が大学に進学し、さらに暇になったクズハは登山を始める。山には近道がなく、コースを外れてはいけないとわかっているものの、少しずつ道を外れるようになっていく。
そんなある日いつも通り道から外れたクズハは、崖から足を踏み外してしまい…
きつねに戻れるうえに人間の姿にも自在に戻れるなんて
こんな逸材、汀さんが放っておくわけないですね。そりゃヘッドハンティングされるわけです。
動物の姿で山を駆け上がれたらとっても気持ちいいだろうな~
・彼女ができること(モチーフ:民話「子育て幽霊」)
生活費のために、子どもを置いて夜の仕事を向かう彼女。彼女がいなくなった部屋には、もう一人の彼女が姿を現す。彼女はかつては子育て幽霊の異名をとっており、彼女に心を許さない子どもはほとんどいない。
生きているときは仕事に就いたことがなかったが、ヘッドハンティングされベビーシッターの仕事をするようになった彼女は、これは天職であると確信する。
子どもとかペットには幽霊の姿が見えるって話ありますよね、なにもいない方向を向いておしゃべりしているとか。
もしかしてそこには彼女がいるのかも、って考えるとほっこりします
少子高齢化で、保育士介護士など人手が足りなくなっていく世の中ですが、幽霊の手が借りられるのなら非常に助かりますよね~。
・「チーム・更科」(モチーフ:歌舞伎「紅葉狩」)
更科さんが率いる、チーム・更科はすごい。会社の中でも華々しい業績を挙げている。彼らの仕事はいわばお助け係で、人手が必要な仕事が入るとピンチヒッターとして登場する。
彼女たちは抜群のチームワークを誇り、仕事が非常に的確で早いのだ。派遣先のどの現場でも喜ばれるし、会社対抗の大会などがある場合も華々しい成績を残す。
なにかオチがあるお話ではないのですが、モチーフとなった歌舞伎「紅葉狩」を調べてみると、紅葉狩りに出かけた維茂が山で更科姫という姫に出会い、姫とその侍女一行にもてなされるが、実は更科姫は「鬼女」だったというお話で、汀さんとんでもない人たちをヘッドハンティングしたな…と思いました。
また、お話の最後に「チーム・更科」の皆さんの写真って書いてあるんですが、真っ白なんですよ…。やはり彼女たちは幽霊なんだ…ということが分かる部分でした。
・エノキの一生(モチーフ:落語「乳房榎」)
キノコのエノキではなく、木の榎です。
このエノキにはこぶが2つあり、こぶから出る脂の「甘い露」を塗ることで母乳が出るようになるなど、人々から子育てにご利益のあるエノキとしてもてはやされるようになるのですが、人々に対し、そんなわけがないし馬鹿じゃないのかとエノキ目線で人間の思う”ご利益”を否定するお話です。
たしかに、エノキからすると驚きますよね、急に誰からともなくご利益があるという噂が広まり、人々がご利益にあやかりに訪れる。
ただのこぶを乳房に見立てる人間の想像力に対し、「気持ち悪い」と感じるエノキ。
ただ、エノキはそういった人間の行動を馬鹿にしているわけではなく、ただのべたべたした脂にすがりつく世の母親たちの懸命さを理解していて、粉ミルクのない時代の女性には特に同情をしています。
モチーフとなった落語の乳房榎も調べてみましたが壮絶な話ですね…。
どのお話も長くないので、テンポよく読めました
落語や歌舞伎がモチーフになっているので、元のお話を調べるのも楽しかったです。
↑には書きませんでしたが、牡丹柄の灯篭(モチーフ:落語「牡丹灯篭」)も面白かったです。日本三大幽霊ともいわれるお露とお米を灯篭の訪問販売員にさせるとは…
能力のある幽霊を社員としてヘッドハンティングする汀さんもすごいし、茂も母の死後ぼんやりとしていたけれど、幽霊になった母やその友達(幽霊)を何度も見たりしたことで能力が開花して立派に地区担当にまでなって…!
かつて怨霊として恐れられた幽霊たちも、転生してのんびり暮らしていたりするのかな~そう考えると面白いです