マチネの終わりに
平野啓一郎
2019/03/21
★ひとことまとめ★
読んでいてもどかしい気持ちになりました
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
天才ギタリストの蒔野(38)と通信社記者の洋子(40)。
深く愛し合いながら一緒になることが許されない二人が、再び巡り逢う日はやってくるのか――。
出会った瞬間から強く惹かれ合った蒔野と洋子。
しかし、洋子には婚約者がいた。
スランプに陥りもがく蒔野。人知れず体の不調に苦しむ洋子。
やがて、蒔野と洋子の間にすれ違いが生じ、ついに二人の関係は途絶えてしまうが……。
芥川賞作家が贈る、至高の恋愛小説。
【感想】
本屋さんで並んでいるのを見て、読んでみたいと思って電子書籍で購入
ちなみにマチネとは”午後の演奏会”という意味でした
いつも読むジャンルとは違うということと、大人な恋愛のお話だったこと、いろいろな本と同時進行で読んでいたので読了までかなり時間がかかってしまった…!
内容はAmazonの内容紹介そのままなんだけれど、天才クラシックギタリスト・蒔野と、聡明なジャーナリスト・洋子の出会い、そして互いに惹かれるもすれ違い、離別、そして再会するまでのお話。
学生の恋愛と違って、ふたりともアラフォーの大人。
いろいろな恋愛経験・人生経験も積んできて、お互い自分の人生をかけた仕事もある。
自分たちを取り巻く環境もあり、ただ自分の「好き」という感情だけでは動くことのできない冷静さも持ち合わせている2人。
そんな二人だから、お互い躊躇し合いながら、少しずつ少しずつ距離を縮めていくのが、私からするともどかしかったなあ。
お互いを敬うあまり、言いたいことが言えなかったり、そのせいで誤解を生んだり、すれ違ったり…。
それに「え?ええ??!」と思うような展開があって、もどかしいを通り越して虚無感…。え、その人と結婚してしまうの…?と。
洋子の結婚については想像はついたけれど、蒔野の結婚は正直驚いたし、二人がすれ違う原因を作った蒔野のマネージャーである三谷には幻滅もしたけれど、彼女も彼女で必死だったんだろうなと…。思う、思うけど…。
私だったら三谷絶許
でも後悔しても、責めても、過ぎてしまった時間は戻らないしねえ。。
ストーリー自体はもどかしく思いながらも、なるほど、自分の生き方が定まった年齢になるとその時の一時的な感情だけでは動けず、冷静にならないといけないんだな…と自分のいまの状況との違いを認識したりすることができた
ラストは読者におまかせな感じだったけれど、おそらくいつも私が考えるような安直なハッピーエンドではなく、今の二人の環境を考えてラストのその先を想像してみると、今の仕事や家庭、幸せを捨てて恋愛をとるという道ではなく、良き理解者として今後も交友を続けていく道を選ぶのではないかなあと。。
もどかしく遠回りした二人だから全てを捨てて二人で幸せになってほしいとも思うけれど、冷静で大人な二人はきっとその選択はしない気がする。
はっきり言って、まだこの本は私には早かったかな?と思ったけれど、先日読んだ茂木さんの本で書かれていたようにトレーニングと同じで、少しむずかしいかな?と思う本を読んでいったほうが良いとのことだったので、わからないなりに読み進めました
私がいつも読んでいるような小説と違って、語り手はいるものの、第三者目線でもなく、洋子パート・蒔野パートと完全にわかれているわけでもなく入れ替わり立ち替わり話が進んでいく感じだったから理解しながら読むのが難しかったなあ
芸術系や音楽の小説を読んでいて思うのは、もっと色々その方面に詳しければ読んでいてさらに楽しめるのかな~と。
「シューマンの指」を読んだときに全くわからなくて、もっと音楽に詳しくなってからじゃないと、こりゃ全然わからんな…と思って読むのをあきらめたことがあって。
今回も読み始めたときに「あ~難しいかな…」と思ったけれど、とりあえずそのまま読み進めた。
音楽だけではなく社会問題についても書かれているから、もっと理解したければきちんとお勉強をして読んだほうがよかったのかもしれないけれど、私はそのままわからなくても良いや精神で読み切っちゃいました
本を読みながら、興味を持った所は勉強していくスタンスでいいかな~?と。
それと、読んでいてジーンときたセリフたちを…
「展開を通じて、そうか、あの主題にはこんなポテンシャルがあったのかと気がつく。
そうすると、もうそのテーマは、最初と同じようには聞こえない。花の姿を知らないまま眺めた蕾は、知ってからは、振り返った記憶の中で、もう同じ蕾じゃない。
音楽は、未来に向かって一直線に前進するだけじゃなくて、絶えずこんなふうに、過去に向かっても広がっていく。」
→クラシックの音楽とかって、耳にはしたことはあるけれど、その曲がどういう経緯で作られたのかってことって知らないよね。
クラシックだけではなく、「いいな~このメロディー」って思った曲とかも、調べてみたら実はこんな秘話があったってこともあるよね。
そうなると、ただ「いいな~」って思っていた気持ちだけではもうその曲は聞くことはできなくて、その曲はただの「いいメロディーの曲」ってだけではなく、意味を持った曲になるんだよね。
「生活の至るところに愛の光が差し込み、その反射が、折々彼を驚かせ、その目を細めさせた。
幸福とは、日々経験されるこの世界の表面に、それについて語るべき相手の顔が、くっきりと示されることだった」
→この文だけで、蒔野がいかに幸せに包まれているかがわかるよね。好きな人がいるときってこういう気持ちになるよね〜
日々の出来事について、今日こんなことがあってね、って好きな人につい話したくなる気持ち。
その気持ちを簡潔にまとめるとこういう表現になるんだな~と感じた一文だった。
「洋子はそういう、彼と一緒にいるときの自分に、人生でこれまでに知らなかった類の愛着を感じていた。
自分は、こんなふうに生きられるのだと教えられた気がした。
(中略)彼を失うということは、つまりは、そういう自分を、これからはもう生きることができないということだった。ただ思い出の中でだけしか。」
「自分自身を顧みても、まるで別人の人生を生きているかのように、笑顔の乏しい日々だった。
相手のことを心から愛せないという以上に、相手と一緒にいる時の自分を愛せないというのは、互いにとっての大きな不幸だった。」
→過去の付き合った相手との恋愛を思い出して、いまと比べて辛い思いになるのって、結局はその彼自身を失ったってことより、その時の幸せな自分と今の自分を比べて今のほうがだめだと思ってるってことだと思うんだよね。
付き合う人が変われば、自分も少なからず変わる。
結局は、どの人といるときの自分が一番好きか、なんだと思うんだよね。
いままでずっと強がりだった自分が、この人の前では弱みを見せられる、とか。
そういう、心地良い自分でいられる相手って、そうそういないよね。
だからこそ洋子も蒔野も、長年離れていてもお互いのことを忘れずに大切に思いあっていたんだろうね。
久しぶりにガッツリ読書をしたという感じだった!
たまにはトレーニングのようにガッツリ読書をしていこうかなと思います