紙の月
角田光代
2018/08/29
★ひとことまとめ★
お金の怖さ、足るを知る大切さを改めて感じる本
↓以下ネタバレ含みます↓
作品読みたい方は見ないほうがいいかも
【Amazon内容紹介】
わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が約1億円を横領した。梨花は発覚する前に、海外へ逃亡する。梨花は果たして逃げ切れるのか?―--自分にあまり興味を抱かない会社員の夫と安定した生活を送っていた、正義感の強い平凡な主婦。年下の大学生・光太と出会ったことから、金銭感覚と日常が少しずつ少しずつ歪んでいき、「私には、ほしいものは、みな手に入る」と思いはじめる。夫とつましい生活をしながら、一方光太とはホテルのスイートに連泊し、高級寿司店で食事をし、高価な買い物をし・・・・・・。そしてついには顧客のお金に手をつけてゆく。
【感想】
海外逃亡後・事件に手を染める最中の梨花のパートと、事件発覚後、梨花の過去を知る同級生や元カレが梨花について考えるパートでストーリーが構成されている。
私はお話を読んで、Amazonの内容紹介に書いてある「欲しいものは、みな手に入る」というような傲慢さは梨花からは感じなくて、ただただ年下の光太を手元に置いておきたいがためにお金を使ったように感じた。夫の言葉に違和感を感じて、夫との関係では愛を感じられなくて、そのさみしさを埋めてくれた光太を手放したくなくてひたすらお金をつぎ込むように思えて、不憫だった。
お金を使っても、ブランドの物を持っていても、その心のさみしさは全然うまらなくてむしろ底なしのように広がっていくばかりで、初めはただの貧乏大学生の光太も、贅沢を知り、それが当たり前になり、とうとうここから出してくれというようになってしまう。
梨花はどこをどうしていたら幸せな生活が送れていたんだろう。夫と結婚したところからがそもそも間違っていたのか?それとも光太と出会わなければ梨花は真面目なままだったのか?
梨花の友人の亜紀のパートでも特に感じたが、お金や贅沢はうらやましいけれど怖いなと思う。自分にもその気があると思う。お店で勧められたら断れない性格だし、ふらっとお店を見に行ったら気づいたら買ってしまうし、買ったときの一瞬満たされた感じもすごくよくわかる。あとからものすごい後悔が押し寄せることもわかる。でも、ブランド物とか持っていることで、自分自身がグレードアップしたように感じるんだよね。それだけで人からの見る目が変わるというか。本当はそんなものは張りぼてで、虚像でしかないんだけれど。
だからこそ自分は、カードとかも解約したし、お店も見ないようにしてる。自分も梨花とか亜紀側の人間なのがわかるから。さすがに横領なんてことはしないけれど。でも、クレジットが自分のお財布のように錯覚してきてしまったら終わりだよね。梨花はそれがクレジットではなく、会社のお金であったけれど。
梨花の話を読んでいると、梨花に関してはお金が彼女を狂わせたというよりは、もともと彼女は弱い部分があって、それを何とかしてお金で埋めようとしたように思えるから、お金の怖さよりもお金ですら埋められないさみしさに悲しくなった。
結局、さみしさとか不安は、お金とかモノでは絶対に埋められなくて、むしろ埋めようとすればするほどより一層際立っちゃうんじゃないのかなと感じた。お金やモノで埋めようとすればするほど、本当の自分と乖離が生じて、それをまた埋めるために嘘をついたりして、追い込まれていっちゃう。光太とは年齢差があって、自分は若くないっていう自信のなさから自ら財布のような存在に成り下がってしまったけれど、最初の最初の方は、光太だって梨花に別にお金なんて望んでいなかったよね。むしろ、若さだって望んでいなかった。光太とうまくやっていきたかったのなら、自分から自分のことをおばさんと卑下したり、彼をヒモにするようなことは絶対にしちゃいけなかったんだよね。梨花は、自信のなさからそうせざるを得なかったんだろうけれど。
自分も、その時々で付き合った彼氏と、釣り合わなくて自信がないときがあって。彼はお金も持っていて、頭もよくって、見た目もよくって…。彼に釣り合うような人間にならなくちゃとか、中身はそんなにすぐには変われないから、それなら見た目からまずは…ってことで、おしゃれな服を買ったり、バッグとか靴とかアクセサリーとか買ったことあった。
でも、そういう気持ちで買ったものってすぐに捨てた。梨花も言っていたように、自分に似合うか、自分が欲しいかどうかじゃなくて、人からどう見られるかっていう他人視点でしか見ていないから。そのモノに思い入れがないんだよね。で、結局無駄遣いしたことにさらに落ち込んでた。何度かそんなことを繰り返して(今思えば本当にバカだし、貯金すればいくら貯まってたか)いまはモノがあるからって幸せにはなれないことも分かったけれど、だからこそこの本は読んでいて昔の自分を振り返っているようで苦しかったなあ。
だいたい、その時の彼氏たちだって、出会ったときの私を好きになったんだから、見た目が豪華絢爛だから付き合ったわけでもないんだよね。むしろ、私が釣り合わないとと思えば思うほど距離が空いていたように感じる。たぶん、彼が好きになった私から、どんどんかけ離れていったからだろうね。
梨花も、そのままの、ありのままの自分で、お金なんてなくても、若さがなくなっても、それでもいいんだって自信を持てていたら、こんなことにはならなかったのかなと感じた。