公立の障害者支援施設に入ったのは、

妻が脳卒中で倒れて7カ月が経過した頃でした。


それまで入院していた病院とは違い、建物はかなり老朽化しており、また周辺には民家や建物もなく、人里から離れた場所にポツンとそれはありました。


看護師やスタッフ、入居している障害者の数も少なく。敷地面積もどこからどこまでが施設のものか分からないほど広大。


また建物も巨大な刑務所のようなコンクリートで出来た冷たい作りで、かつてホラー映画で見たような寒々しくも閑散とした雰囲気でした。


環境変化を嫌う妻は案の定、

ベッドが硬い、洗面台が汚い、風呂が気持ち悪い、トイレが古い、、

等々、あらゆるものに文句を付けていました。


誰もいない8人部屋に、妻一人だけの入居。


入居する前は、知らない人がいないから良い。

と喜んでいた妻も、その部屋を見た途端


怖すぎる、一人じゃ夜寝れない、事故物件すぎ、、


等々と、かなりびびっていました。


たしかに部屋はどこか薄暗く。

妻の入居に合わせて用意されたステンレス製の、これまた学校にあるような縦長のものと、横長の灰色の古びた冷たいロッカーが2個だけ置かれ。

使われていないベッドが、広々とした部屋に整然と並べられていました。


妻のベッドには、上から取り囲むようにはカーテンレールからカーテンが掛けられ、間仕切りはできるようでしたが。


妻には申し訳ないですが、私から見ても確かにそこは、怖すぎる部屋でした。


持ってきた荷物を片付け、私が施設を出る頃には辺りは真っ暗でした。

あらゆる文句と恐怖を語っていた妻も、疲れからかすっかり寝落ちていました。


静まり返る真っ暗な駐車場に向かう途中。

建物を振り返ると、窓から知らない女性が私に向かって手を振っていました。


恥ずかしながら、恐怖で震え上がりました。

実はホラーやお化けがかなり苦手で。。


ここでの生活は一年。


一番不安だったのは妻より、ここに見舞いに通う私だったのかも知れません。