1.病気としての問題点

 

①学校生活/就職

 

移植せずに成人に達した方々の約9割は高校を卒業し就職や大学・専門学校などに進学するなど、健康な人と変わらない学校生活を送っている

肝臓は人それぞれ傷んだところを抱えているので、青年期以降も定期的な外来通院や検査入院(内視鏡検査・画像検査など)を行って自己肝の状態を把握するとともに、学校生活や職務にどの程度の制限を加えるべきかを主治医と考えていくことが必要

ただこの年齢ともなると受験や就職活動など社会生活にもまれ、なかなか思い通りに身体を休めることができないかもしれない。

また、主治医や保護者の心配や注意を受け入れられずにクラブ活動やアルバイト、肉体労働など無理をしてしまうこともあるかもしれない

しかし、肝臓の傷みが進んでいる場合は、負担をかけると病状を悪化させる可能性があるので、ご自分の病状やリスクをよく把握した上で慎重に判断することが望まれる

一方、就職に関しての経験では約7割の方が常勤職、約1割がパートタイマーで勤務されていた。様々な職種に渡っており、勤務時間が長かったり夜勤があるなど就労環境は必ずしも望ましいばかりでは無い。例えば免許を取得して就職したけれども病状が思わしくなくハードな勤務をこなせず断念したり、資格をとり起業家として活動されている方でも突然に門脈圧亢進症による消化管出血のため緊急入院・治療を余儀なくされた事もある。

肝硬変や門脈圧亢進症を明らかに抱えている方には、激しい運動や長時間労働は避けて努めて休業を取るように勧めているが、残念ながら現実的には好ましい就労状況を獲得できる人は多くない

日常生活あるいは社会生活が困難になった場合は、内科的な治療では有効なサポートが出来ず、肝移植を考慮せざる得なくなる。

経済的な問題として小児慢性特定疾患の医療補助は18歳、遅くとも20歳までに打ち切られるため、その後は医療負担が本人・家族に加わってくる。最近、肝機能障害は身体障害に認定されるようになった

これまで肝臓病は障害者認定としては蚊帳の外に置かれていただけに画期的な事

しかし、認定基準は大変厳しいもので、肝硬変・門脈圧亢進症があり消化管出血の危険性を抱えていたり、しばしば胆管炎で入院を繰り返していても、普段は目立った黄疸が無く、何とか日常生活可能な人だと4級に認定されるのでさえ困難

肝移植を受けて免疫抑制療法を受けている場合は、肝機能正常で健常人と変わらぬ日常生活ができていても、1級と認定され、それと比較すると大きな格差を感じる。肝硬変・門脈圧亢進症をかかえ移植準備状態にある成人に関しては障害認定のありかたについて改善が望まれる

 

②自己管理

 

成人ともなると大学や専門学校などに進学したり、就職したりして、両親の鹿護のもとを離れる

結婚して家庭を持って一家を支える立場にもなる

胆道閉鎖症であってもこのように健常人と変わりない社会生活が可能となったが、逆にこれからは自分で自分の健康管理をしなければならないという事を意味する

健康管理には遠洋バランスの良い食事内容、規則正しい日常生活、お酒やタバコの禁止、定期的な通院と検査、服薬が大事ですが、何より胆道閉鎖症という病気の事をよく理解するのが大事

生まれて間もない時期からの病気、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ自覚症状に乏しいこと、ご両親の手厚い鹿護のもとにあったことながら案外と病気の事を知らずにいることがある。

一人暮らしをする前までには主治医やその他の医療スタッフ、患者会などから改めて病気に関する情報を得る機会を持ってもらいたいし、医療者の努力も必要なこと

葛西手術後間もない頃と異なり、年長児や成人では外来や入院検査の内容や頻度、お薬の内容などは個人個人の病状によりかなり異なるので、一律には述べられない。一人一人に応じた診療が行われており、詳しくは主治医の先生に尋ねることが大事

一方、これまで十数年間にわたり小児科や小児病院で診療を受けていた方が、今後は成人としての診療を希望され内科や大人の病院へ移る場合もある

大人の病院では肝硬変や門脈圧亢進症、消化管出血の治療は消化器内科や消化器外科が担当しており、日常的に様々な方法を駆使して治療が行われているので、そういう面では安心される

しかし、大人の病院では主にウイルス性肝炎や脂肪肝炎、肝がんなどの病気を診療しており、胆道閉鎖症という病気は大人の内科・外科では非常にまれである

したがって容易には受け入れてもらえなかったり、受け入れてもらえてもその対応に馴れない点や物足りない点があるかもしれない

成人以降も外来診療はこれまで通り継続的に行っているが、入院が必要な場合やご希望がある場合には胆道閉鎖症に理解がある小児科・小児外科のある総合病院や大学病院が良い

少しでも多くの大人の病院で胆道閉鎖症に対する理解が深まるように、施設を増やしていく必要がある

 

③精神的問題

 

成人期は、社会的・経済的のみならず精神的にも親離れし自立しなければならない時期でもある

もし一人暮らしになると衣食住から健康管理まで自分でこなさなければならないし、その前提として自分の“健康(あるいは病気)”を自分で受け止めて対応しなければならない

それには普段の“健康”意識が重要になる

しかし生後早期から胆道閉鎖症の診療を受けて来た方々にとって“健康”あるいは“病気”の感覚をもつことはなかなか容易ではない

胆管炎を起こしたり消化管出血をきたし入院した場合は別として、黄疸も無く普通の日常生活を過ごしている方々にとっては尚更、難しいこと

外科通院も意義も見えにくいかもしれない。一見“健康”そうに見えても実際には自分の肝臓が肝硬変となっている成人も少なくないが、それを実感することは困難

とはいっても成人期以降になると肝機能に深刻なトラブルをきたす人もでてくる

自分自身がそうである場合はもとより、同世代の友人・知人の病状経過を見聞きすることは、辛いけれども病気の現実に目を向ける契機になる場合もある

自立する事、すなわち孤立では無い。一人で抱え込まずに家族や医療スタッフ、胆道閉鎖症の家族会や守る会などの様々な人々の繋がりを保ちながらお互いにサポートしあってゆく環境作りが必要と思われる

病状以外で特に精神的負担として一つは経済的な問題

18歳(あるいは20歳)以降に小児慢性特定疾患の公費負担が途切れる為、自己負担が急にのしかかってくる

この時期に経済的に自立するのは困難な為、肩身の狭い思いをする事もあるかもしれない

二つ目は肝移植時代の家族関係

日本では臓器提供はほとんどが生体ドナーからになる

そして生体ドナーは親族に限定されている

したがって両親や兄弟姉妹がドナー候補となる

臓器移植を受けるレシピエントが幼少児の場合には両親も若く臓器提供できやすい環境だが、レシピエントが成人となった場合には両親も高齢であったり経済的な問題を抱えていたり、兄弟姉妹もそれぞれ経済的社会的な役割をもって独自の生活を送っているので、気持ちはあっても簡単に臓器提供できる環境ではない

そのため難しい家族関係に至る場合もある

これは簡単には解決することのできない問題だが、生体ドナー依存体質の現状から脳死移植主体へと移植医療へ移行することが出来れば、解決の糸口となるのではないかと期待される

 

④肝臓移植の問題点

 

成人まで自分の肝臓で生活できていても、肝臓は無傷ではなく将来肝移植を行わなければならない状況になりうること

年齢が高くなってもその可能性は続く

したがって、肝移植の事は成人となられたご自身でも知識として持ってもらいたい

日本で最も行われているのは生体肝移植

提供者(ドナー)が成人で受給者(レシピエント)も成人である成人間移植では、レシピエントが小児であるのと比べて、移植成績が劣っていると言われていた

しかし、最近では様々な工夫によって成績は明らかに向上してきており差が小さくなっている

さらにドナーについても、より負担の少ない手術方法が選択されるようになっている

これは成人患者にとっては福音

但し成人には問題点もある。

高齢者(65歳以上)の方は肝臓の状態の面や手術の安全性の点から臓器提供者としては望ましくないとされている

ドナーは親族に限定され、特に両親からの提供が多い生体肝移植の現状では、この点が問題になる事があある。

一方、両親以外に提供者を見つけることは容易な事ではない

兄弟姉妹にしてもそれぞれの社会生活・家庭生活を過ごしているので、提供する気持ちがあってもそれを実行できるとは限らない

死体肝移植は脳死された方が肝臓のドナーとなった移植方法で、先に述べたような生体肝移植の欠点がない

平成21年にかけて臓器移植法やその施行規則が改正され、脳死ドナーは飛躍的に増加し、多くの方が脳死肝移植を受けることができるうようになった

肝移植を待機して登録されている方は平成24年1月現在400名に達している

したがって移植を希望した時に丁度良いタイミングで移植を受けられるとは限らないという問題点がある