「……」
大きな洞穴の奥から、獣特有のグルルルという寝息が漏れる。
内部の温度は高いと思いきやかなり低く、夏場であればほんの少しお邪魔したいと思わせる程である。
【…朝か】
奥からノシノシと這い出して来る巨大な影。その影は陽光に当たると、空のような紺碧を見せる。
背中から出る大きな翼には氷を思わせる透き通った結晶があり、腕も足もある。いわゆるドラゴンである。
「やっぽー。絶対零度の龍神さん」
【その名前で呼ぶでない。我は闘争に敗れた者だ】
「相変わらず堅苦しいなぁ」
【貴様の与えた力によって生き存えている身にもなれ。我は誇り高き龍なのだ。貴様のような態度は些か癪に障る】
少女のような外見と口調をしている者がドラゴンに近付く。
ドラゴンは嫌がる素振りこそ見せるが、本気で追い払おうとはしない。
「まぁまぁ。そこは私の力に免じてさ」
【…それで、何用だ】
「用事が無きゃ来ちゃいけない?」
【人里の雌を頻繁に襲う趣味はあれど、我に意味もなく話しかける趣味は無いであろう】
「襲うなんて失敬な。あれは誘い出して美味しくいただいてるだけだよ」
【美味しくいただいている以上、襲っているようなものだろう。…それで、何かあったのか?】
少女の顔を覗き込むドラゴン。体躯だけで見れば、今すぐにでも食ってしまうか押し潰しそうである。
しかし少女は不敵な笑みを浮かべ、その顔を見たドラゴンは面倒そうに顔を逸らした。
少女の顔に浮かぶのは、悪巧みを考えている者特有の笑みだったからだ。
「この国の王様とかいう者の住まう城を破壊してきてくれない?」
【…それこそ、貴様の持つ力を使えば良いではないか】
「冗談だよ。それに、私の力を使っちゃうと、その付近がちょっとの間だけど氷で閉ざされちゃうよ」
【氷で閉ざされてしまえば人里もなくなり、大好きな人間の雌の賞味もできなくなるわけか】
「そういうこと」
【…行為の際に出る、動物特有の発熱で溶けはせんのか】
「私がそれくらいで溶けると思う?」
【野暮な質問であった。…それで、何用なのだ。我も暇ではない】
「暇でしょ。貴方と子作りできるような雌の龍もいないし、これだけ晴れてると巡回もする気にならないでしょ?」
【子作りを先に持ってくるその精神はやはり邪神であるな。確かに暇ではある】
「それで、相談なんだけど」
【面倒事を引き受けはせんぞ】
少女は急に真面目な顔を作り、ドラゴンに問いかける。
「勇者って、嫌い?」
【…どう嫌いか、の内容による】
ドラゴンは苦虫を噛んだような顔をする。
「じゃあ、魔王を打倒した勇者は?」
【どうでも良い】
「魔王を倒せたのに、魔王城で力尽きた勇者は?」
【仲間を最後の力でワープさせ、自らはそこで果てる潔さに好感を持てる。しかし仲間へのアフターケアの面では好感を持てぬ】
「んじゃ、貴方を間違えて討伐しようとした勇者には?」
【殺す】
「……」
【……】
沈黙が辺りを包み込む。洞穴の前にある鬱蒼とした林にまで冷気が行き渡りそうな沈黙だ。
「…あのさぁ」
【何だ】
「最近、氷の龍がここに住み着いてるって話が人里にあってね」
【事実であるな。我ここに有り】
「それで、何人か冒険者が来てるんだよね」
【人間の気配は確かに感じた】
「殺したの?」
【我の討伐を目論む者は殺す、当然のことだ。人間であれば正当防衛であろう】
「まぁそうなんだけどさ… その問題で、ちょっと厄介なことになってね」
【何があったのだ。大規模な狩猟団でもやってくるのか?】
「国の軍が動くことになっちゃってね」
【…何故そうなった?】
この国の軍は付近の国家のモンスター討伐も手掛ける、モンスター相手にも強い軍隊である。
遺跡のゴーレム5体程度であれば小隊を差し向けるだけで、火山にいたワイバーンも中隊程度の戦力で討伐したという。
更に最近では、タンクという、箱に長い砲身をくっつけたような見た目で動けるという、魔法使い涙目の突破用兵器も保有していると聞く。
「氷の龍は珍しいから冒険者とかが討伐を目論む→返り討ちにあって殺される→近隣の住民が恐怖する→討伐のために軍隊が動きそう←今ココ」
【…我の何が悪い?】
「どこも悪く無いんだけどね、強いて言えば人間が悪いんだけどね」
【人間の法は人間にしか適用されず、亜人族は動物や魔物として扱われる、か】
「何年前の話してるのよ。それもう改正されて100年くらいになるよ?」
【そうなのか。しかし、我には適用されそうにも無いであろう】
「適用されるなら軍隊が動くって噂も無いしね、仕方ないね」
【申レN。しかし、ふむ。相手するのも悪くは無い】
「えっ」
【人間にとっての害獣となり、その強さを後世に語り継がせる。ある意味では誇り高く死ねる】
「バカジャネーノ」
【貴様とでは考え方の根本どころか、種族から違うのだ。我は邪神に力を与えられた龍の死に損ないであり、貴様は氷の邪神だ】
「誰が邪神よ。ホント、お堅い考えってやーね」
反論しようとした時、ドラゴンはその動きを止めた。少女も一瞬遅れて周囲を警戒するべく耳を働かせる。
「……」
【…この臭い、人間か】
「そうみたいだね。それも重火器を持ってる」
【火薬の臭いがすると思ったらやはりそうか。さて、どう動くか】
やや遅れて、耳障りな音が響き渡る。音響弾の類だろう。
距離で言えばかなり離れており、聞こえたのもドラゴン特有の敏感であり丈夫な聴覚のお陰である。
ドラゴンに対する宣戦布告か、或いは付近にいた生物に対する警告か。前者の可能性は低そうであるが。
「…調査、かな?」
【我に聞くな】
「思ったよりも早かったなぁ。割とのんびりとした行軍だったし、明日から森に入ると思ったんだけど」
【…貴様はどうする?】
「私は人間の攻撃じゃ死なないから。魔法の類じゃないと全部無効化できるのよ」
【物理無効は相変わらず卑怯であるな】
「貴方はどうするの?」
【我は動かぬ。我の打倒を掲げるのなら命の限り相手をし、何もせぬなら相手にもせぬ】
「ホント、受身な対応よね。だから勇者にやられたのよ?」
【我が飛び出して行って、兵士とやらを殺したとする。奴らの本隊が来るだろう?】
「まぁそうよね。逃げるとかの手段もあるのよ?」
【何故逃げる必要がある?】
「…ま、分かってたよ。じゃ、元気でね。また後で会えるといいけど」
そう言うと、少女の姿は霧散した。ドラゴンは何の感慨を抱くこともなく、目を細める。
【仕掛けて来るのなら仕掛けるが良い。我が遅れを取った人類はあの時の勇者だけだ】
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陽光が森を照らし、葉につく露に反射する。
鬱蒼としているわけではないが、早朝独特のひんやりとした空気の森を進む3人の兵士。
重武装ではなく動きやすさを重視していることから、斥候や突撃を目的とした者達なのだろう。
「隊長」
「何だ」
「こんな装備だけで大丈夫なんですか?」
「今回はただの調査だ。討伐目標となるドラゴンは、凶暴なのかどうかさえ不明なのだ」
「ですから、こんな装備では襲って来た時に…」
「討伐する必要は無い。目標を発見次第、襲って来たのなら発信機の弾丸を撃ち込む」
「それはさっきも聞きましたよ。じゃ、俺らは発信機を撃ち込むだけの捨て駒なんですか?」
「そうは言っておらん」
「なら、何故発信機用のライフルと通常のライフル、それと火炎放射器なのですか? 発信機を付けたドラゴンとキャンプファイヤーでも?」
「ネガネガするな、全く。最近の若い奴と来たら…先任軍曹殿の教育が行き渡っておらんのか」
隊長と呼ばれた男は、歩きながら周囲を警戒している。
「この森は既にドラゴンの領域だ。我々はそこを侵犯している」
「ドラゴンなんて嘘っぱちですって…大体、10年前に大往生した豪炎の龍で最後だったんでしょう?」
「そういう噂だ。だが、自称冒険者の者達がこの森に入り、森の出口で遺体が見つかっているのだ。噂ではドラゴンがいる、ともな」
「どうせしつこく残ってるゴブリンとかオークがやったんでしょうよ」
「ゴブリンやオークなら食っちまってるだろう。それに、女冒険者も殺されてるだけだった。そして人間以外の体液が無い」
「むしろこの森に住み込んでる人間にやられたのでは?」
「戦車くらいの重さで体当たりされたと思われるような内蔵破裂もあった。そんなの人間じゃできん。しかも、殺された冒険者は皆中の上くらいの実力だ」
「余程目が眩んでいなければ、勝てないと誘って逃げ出しているだろう、と?」
「ああ。それに、噂じゃ曇天の日に青い光が森の上空を旋回……!?」
「…隊長殿」
「ああ…待て、まだ撃つんじゃない。機嫌を損ねたら最悪挽肉になる」
彼らの見つめる先には、突如として空から降ってきた青い巨体がいた。
周りには木もなく、原っぱが広がっている。隊長はここで休憩しようと思っていたのだろう。
太陽の光が巨体を照らし、結晶に乱反射して光を周囲に散らす。
「…隊長殿、綺麗ですね」
「た、隊長! これが目標のドラゴンですか!?」
「……」
「隊長!?何近づいてるんですか!危ないですよ!!」
ネガネガしていた兵士がライフルを構え、多少もたつきながらもセーフティを外した。
「待て!俺が合図するか、俺が攻撃されるまで待つんだ!」
「し、しかし隊長!」
「これは命令だ!お前の勝手な判断でドラゴンを敵に回すのか!!」
「…伍長殿、ここは隊長に従って下さい」
「お前まで!あいつは冒険者を何人も殺してるんだぞ!?」
「私は国に残している妻や友人にまで被害を与えたくはない。大人しくしていて下さい」
狼狽える兵士に、冷静な兵士がロープを巻きつけて拘束する。
しかし切れ味の良いナイフをロープに突きつけており、いつでも切れる状態だ。
隊長はそれを確認すると、ドラゴンに向き直りゆっくりと進む。
「私の部下が騒いでしまって申し訳ない。ドラゴンよ、話を聞いて貰えるか?」
「は、話なんてできるわけないだろ。おい、このロープをさっさと切れよ」
ドラゴンは一度兵士2人を一瞥し、隊長と呼ばれる男に話しかける。
【我、氷の邪神より二度目の命を授かり、この森で暮らす者なり】
「二度目?という事は一度?」
【人間の尺度で言えば500年前だろうか。その時の勇者に勘違いで襲撃され、息絶えたのだ】
「そうか。しかし、勇者の伝説において、勘違いで倒された龍は蒼き炎の龍であり、近づけば焼かれんばかりの高温と聞いていたのだが」
【その伝説とやらに間違いはない。我々の種族は本来、炎に属する者だ】
「炎に属する?その話を詳しく…」
「隊長!こいつに発信機付けて帰るんじゃないですか!?」
「うるさい若造だ。折角面白い話だったのに」
隊長と呼ばれる男はチラリと後ろを見、ドラゴンに言う。
「すまんが、こいつを付けてくれんか?」
【…それが、ハッシンキというものなのか】
「ああ。貴君のいる場所を記録し、我々に伝えるものだ。そちらに分かりやすく言えば、使い魔のようなものだろう」
【キーキー言って諜報にも使えんあやつらのようなものか】
「私はその時代を知らんから何とも言えんが、少なくともこいつはあの部下よりは静かだ」
【…ふむ。微弱な雷の波動を感じる。電気、という類のものか】
「我々は本隊に戻り、貴君は人間に自己防衛以上の害を与える存在ではない、と報告を行う。後日、私が本隊の検討結果を伝達に来る」
【我を討伐せよ、という派閥はおらぬのか】
「…当然、いる。しかし、20年程前の話だったか、狂ったドラゴン1匹を仕留めるのにかなりの犠牲を払った。それを覚えている者が今回の司令官だ。余程の利益が見込めると判断されない限り、まず討伐は無いと言っても良いだろう」
【それなら、ある程度は安心できるな。ああ、ハッシンキは付けておくとしよう。無駄に警戒されても困るのだ】
ドラゴンが小さな前足で発信機を頭頂部に器用に付け、満足げな雰囲気を醸し出す。
「オプーナ…」
【どうされた、隊長殿?】
「いや、何でもない。では、我々は本隊に報告に戻る。吉報を待っていてくれ」
【討伐作戦になれば、それはそれで暴れられて楽しみではあるがな】
「た、隊長!」
「なんだ、一体何が…ッ!」
周囲に大量の人間がいた。いや、囲まれた。
着衣や武装を見るに、正規の軍隊ではない。狩猟団、それも低級のものか、賊の類だろう。
部下2人は銃を構えつつ後退し、隊長とドラゴンの間近にまで来ていた。
「軍人さんよ、そのドラゴンを置いて失せな」
「貴様ら、何が目的だ?」
「少なくとも、あんたら3人じゃねーよ、人殺しの趣味はないんでね」
隊長は周りを素早く確認する。ざっと30人程だろうか。
着衣は本当に軽装であり、拳銃程度なら防げるような防具も身につけてはいない。
はっきり言って、モンスターの討伐、それも最上位モンスターのドラゴンを舐めきっているとしか思えない。
「…そんな短剣や弓などで、このドラゴンを仕留めようと言うのか」
「冒険者が何人も返り討ちにあってるんだぞ!?お前ら正気かよ!?」
「あれは単騎や精々4人程度で討伐に来た結果だ。それに、俺らには頼もしい兵器もある」
木々を倒しながら、原っぱに巨大な影が到着した。
キャタピラと通称される無限軌道、その上に大口径の砲塔を搭載した代物である。
「…タンクだと?貴様ら、どこでそれを手に入れた?」
「出処なんて俺らは知らん。雇い主様がドラゴン討伐に役立てると良い、って支給してくれたんだよ」
「…何にせよ、黙って見過ごすわけにはいかんな」
「いいからどけってんだよ。俺らがお前らに危害を加えない限り、お前らが反撃できないのは知ってるんだよ!」
リーダー格の男が拳銃を隊長の頭に突きつける。
ヘルメットを被っているとはいえ、額に直接突きつけられれば何の意味もない。
「大人しく去れ。このドラゴンは俺たちが討伐する」
【大人しく去るが良い。お前たちまで巻き込みたくはない】
ここまで無言だったドラゴンがようやく喋った。
リーダー格の男は一瞬面食らうも、すぐに笑い飛ばした。
「人の言葉を理解して喋るドラゴンか。こいつは面白い。お前ら、可能なら生け捕りにしろ! 商業的なもので儲けられるかも知れん!」
「…分かった。我々は撤収する」
「た、隊長…」
「発信機を付ける任務は達成した。我々はそれ以上の任務を与えられたわけではない」
軍人3人は急いでその場を離れた。きちんと距離が離れたことを確認し、リーダー格の男が吠える。
「お前ら!やっちまえ!」
30人程の男がいきなり襲いかかる…わけはなく、タンクの放った砲弾がドラゴンを強襲する。
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「隊長、本当に良かったんですか?」
「何も問題はない」
「で、ですが、あのままでは…」
「ゴミが消えるだけだ。人間社会にとって、ひいては自然界にも良いことだろう」
そう言って隊長は歩を進める。冷静な方の部下は念のために周囲を警戒している。
後方からは時折号砲が響き、空気がビリビリと振動する。
「た、隊長、先ほどまで言葉を交わしていたのに、その言い方はあんまりでは…」
「ゴミは価値を見いだせない限りはゴミでしかない。それが、元はいかに高貴な身分の者であってもな」
「しかし…」
「我々の任務は既に達成している。ゴミが30個程生ゴミに変化しても、森の自浄作用で土に還るだけだ。もしもドラゴンの討伐に成功したのなら、我が国の心配事が減るだけだ。あのゴミどもに少々の謝礼金を払うだけなのだから、軍隊で討伐するよりも安くつく」
「…ゴミとは賊の方でしたか」
「なんだ、勘違いしてたのか?あの綺麗なドラゴンをゴミとは言えんな」
「しかし隊長、あいつらはタンクまで所有していたのですよ?ドラゴンとはいえ、流石にタンクを相手にするのは…」
「しかし号砲は止んだ。どちらかがやられたのは確かだ」
「あ、本当だ」
「…隊長、今日は冷えますね」
周囲を警戒していた兵士がそう声をかけてくる。
確かに日はかなり昇っており、普通ならば森へ入って来た時よりも気温は高くなる筈だ。
いくら森とはいえ、気温が低いまま、ともすれば森へ入った時より気温が下がっているというのは妙である。
「…あのドラゴン、本来は炎に属する者って言ってたな」
「そうですね。1回死ぬ前は、蒼き炎の龍だった事を認める発言もしていました」
「あの言い方だと今は炎には属さないということになる。つまり別の属性になった、或いはされたのだろう」
「まさか、この冷気は?」
「ああ。タンクによる砲撃で生まれるのは、物理運動による熱と焦土くらいのものだ。冷気が出るとは思えん」
「しかし、今日はただ気温が低いだけの可能性も」
「有り得ないとは言い切れん。だが、我々はまず本隊へ報告に戻らねばならん。無駄口を叩いているとすぐ疲れるぞ」
「はいはい。黙って歩きますよっと」
「まったく、生意気な部下を持ったものだな」
気温が低い以外は特に問題無く森を抜け、隊長はすぐに本隊の司令官に報告を行いに行く。
生意気と評された部下はヘトヘトであり、隊長が「戻って来るまで休憩とする。寝るなよ」と釘を刺されていたので、その辺りにあった切り株に腰を下ろしていた。
「つっかれたー。2回くらい死ぬと思ったぜ」
「はは。お疲れ様でした。アイスティーしかありませんでしたが、いいですね?」
冷静な方の兵士が、アイスティーをグラスに入れて2つ持って来た。
片方をもう生意気な方に渡し、自分は木にもたれてチビチビと飲み始める。
「お前も隊長も、ケロッとして対応してるもんだから怖いぜ。どうしてあんなに冷静だったんだ?」
「自分は前線を経験してますから。その場凌ぎでしかありませんが、正解に近い対応はできると自負していますよ」
「前線か…俺一回も前線に行った事ないな。やっぱり大変なんだろ?」
「ええ、それはもう。優秀な敵より無能な上官の方が脅威だと痛感しました」
「うへぇ」
「ですが、今の隊長は信用できると思います。ドラゴンに遭遇してもいきなり発砲はしませんでしたしね」
「…異形なだけで普通に会話できたしな。姿形が違うだけで警戒しすぎるのもいかんのな」
「警戒するに越したことはありませんよ。いきなり発砲するのは話が違いますけどね」
「なんか情けなくなっちまった。ま、ひとまず生きて帰れたことを喜ぶか」
「それが良いと思います。最上級の魔物であるドラゴンと遭遇したわけですからね」
「あ、思い出した。質問があるんだが」
「何です?暇ですし、お答えしますよ」
「ありがとな。えと、魔物と魔族の定義の違いh」
刹那、5m程離れた場所に巨体が降り立った。
透き通った翼、氷を思わせる結晶、森で遭遇したドラゴンである。
「お、おい!なんだってんだ!追ってきやがったのか!?」
「落ち着いて下さい。…何用ですか?ここは我々の本隊が駐留しています。危害を加えれば、すぐに討伐作戦が発動されますが?」
ドラゴンは顔をこちらに向け、手(前足)に持っていたものを放った。
グチャッと嫌な音を立てて地面に落ちたソレらは、赤黒い液体にまみれていた。
【ゴミを返しに来た】
「あ、これはどうも。身元が確認できそうな程度の損傷ですね」
「おい、何冷静に対応してんだ!殺人だろ!?」
「殺人にしても正当防衛でしょう。死体をよく見たくはないでしょうが、この顔を見て下さい」
「…この顔、偉そうに退去しろって言ってきた奴じゃねーか」
「ええ。ゴミを正当防衛で排除しただけですから、何も問題無いのです。…タンクはどうしました?」
【アレは中々手強く、ズタボロにしてしまった。同族の尻拭いとして撤去して貰うのを期待していたのだが】
「コレのことかなー?」
少女の声が聞こえたかと思うと、あらゆる箇所がひしゃげて破損しているタンクが落下してきた。
タンクは着地したかと思うと少々浮いており、思案するような間の後に地面に落下した。
脇には少女のような何かが仁王立ちしていた。
「まったく、悪さしてない奴に向かってタンクを持ち出すとか素晴らしい精神ね」
「お、お前は一体…」
「…タンクを持ち上げ、更に飛行もできる少女のような外見の者、ですか。ドラゴン遭遇といい、今日は色々起きますね」
「冷静になってる場合じゃないだろ!」
「おう、報告が終わったぞ…っておいおい、何だあのスクラップは?それになんだその生ゴミ?」
「あ、隊長。お疲れ様です」
「ああ、ご苦労。…そこの少女、もしやと思うが」
隊長は部下に返事を返した瞬間、その後ろに見えた少女に目を見開く。
隊長が黙ったままなのを部下が怪訝な顔で、
「隊長?」
「……」
「…ふふ。ほら、邪神って言われる私でも、まだ信仰してくれる人はいるみたいよ?」
【解せぬ。少々氷の力を扱えるだけの変態ではないか】
「やはり、貴様…いや、貴方様は」
「そう。勇者の伝説に出て来る、氷の女神、だったかな。ちゃんと名前はあるのよ?」
「やはり…」
隊長はその場に膝を折る。
「な、隊長!?」
「氷の女神よ。我が祖先が大変世話になったようで。近年は信仰も少なくなり、消滅したのだろうと勝手に宣う連中もおりますれば」
「あー、堅苦しいのやめて。そういうの、生まれた直後からずっとだったから嫌なのよ」
少女は心底嫌そうな顔をし、隊長に顔を挙げて立つように促す。
隊長はおずおずと言った感じで立ち上がる。
「…ん?あ、もしかしてあの時の子の子孫かな?」
「ええ。ロクな装備もせず、吹雪の山で彷徨っていた女の子孫です」
「あの子も可愛かったなぁ…じゃなくて、ちゃんと装備と用意をしてから、未開拓地に行くようにしてる?」
「勿論ですとも。女神に救っていただいた一族の命、そのようなことで途絶えさせてはなりますまい」
「だーかーら、普通に話してよ…あの子はずっと砕けた口調だったのに」
「も、申し訳……いや、すまない」
「それで良し」
「して、そんな女神様が、なんでこんな所に?信仰でも集めに来たのか?」
「無礼だぞ!」
「いいっていいって。私は信仰がなくても死なないから必要ないのよ」
「では何故?」
「このドラゴンよ」
ドラゴンは近くで伏せていた。
いや、呼吸のテンポからして眠っているのだろうか。女神が近くにいるとはいえ、安心しすぎではなかろうか。
「…この子、500年くらい前勇者に間違って殺されたのよ」
「本人…いや、本龍がそんな事言ってたな」
「生まれて間もないのに、命の灯が消えようとしていた。当時の私は、それだけは何故か見過ごせなかったの」
「それで助けた、と?」
「でもこの子は本来炎に属する者。相反する氷の私では、あるものを犠牲にしないとこの子を救えなかった」
「あるもの?」
女神の少女は振り返り、笑顔で続ける。
「それが、信仰心よ」
「信仰心を犠牲に、ドラゴンを蘇らせたと?」
「勘違いしないで欲しいのは、あくまで私が信仰を受けても無駄になるってことね。人は犠牲になってないよ。祈りは犠牲になったけど」
「なるほど、まさかドラゴンのために人間を犠牲にしたのかと」
「神は人からの信仰で力を伸ばすことができる。力そのものじゃなく、体力の方だけどね」
「その口ぶりからすると、神の力は生まれた時から決まっているようだが」
「そうだよ。ただ、信仰心がなくなると神は力を失って消滅する」
「…? つまり、貴方は消滅するんじゃ?」
「例外みたいなのよ。…私は氷の女神。その気になれば氷河期を今すぐ始められる。やらないけど」
「氷河期ってーと…この国まで北方みたいな気候になるってことか。スケールが違うわ」
砕けた笑顔を見せつける少女。女神と分かっていなかったら一目惚れしてしまうかも知れない。
わざとらしく話題の方向を変えたことには、隊長以外気付かなかった。
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作者のようなもののコメント
不定期で書き溜めたものをうpしていくスタイル。
ある程度設定は考えてるんで、気が向けば纏めて投下するかも知れないかも知れない。
セブンイレブンのコーヒーがうまくてアイスLにガムシロ2個投下するレベル。ミルクとか邪道。