今年は、日本を代表する作曲家・伊福部昭大先生が誕生してちょうど100年。
それを記念して、今年は各地でいろいろな形のコンサートが企画されています。

その中の一つが、『伊福部昭生誕百年紀コンサートシリーズ』です。今年のうちに3回行なわれることになっているようですが、その1回目が、昨日(2月1日)、東京のすみだトリフォニーホールで開催されました。


今回は、大先生が担当した映画音楽の中から数本を選び、それぞれの作品に使われた曲の代表的なものを、元の楽譜をほぼそのままの形で組曲に構成したものが演奏されました。


で、はるばる行ってまいりました!


司会は、80年代に伊福部作品をはじめSF特撮映画の音楽をシンセサイザーで演奏した『ゴジラ伝説』で知られる井上誠さん。


1曲目は、大先生が手がけた最初の映画音楽『銀嶺の果て』。当時、大先生のカバン持ちとして録音に立ち会った芥川也寸志がピアノの演奏を担当した、というのは有名な話で、本編中には何箇所もピアノのソロが出てきます。
今回の組曲の中にも登場する、メイン・タイトルや雪山の中での強盗追跡のシーンの曲は、最初がピアノ・ソロで始まります。
また、やはり本作で監督デビューを飾った谷口千吉と大論争になったというこれまた有名な話のきっかけとなった、スキー・シーンに付けられた寂しげな曲も、この組曲に登場します。


2曲目は、伊福部大先生が結構たくさん担当した記録映画の中で、国鉄(現・JR)を題材にした『つばめを動かす人たち』、『雪にいどむ』、『国鉄~21世紀をめざして~』の3作品の楽曲から構成された『国鉄組曲』。
機関車の律動を表現した曲など、SF特撮作品に通じるタッチの曲がたくさん出てくるので、なかなか聴き応えがありました。


3曲目にいよいよ登場、第1作『ゴジラ』からの楽曲です。60年前の録音技術では伝わりにくかった曲の細かいニュアンスがあっきり伝わりました。
また、最後の『平和への祈り』のために女声コーラスが登場。気のせいか、原曲の合唱の声質にかなり似ていたような感じでした。そこまで考えた人選だったとしたら、すごい!


休憩を挟んで、後半はいわゆる「伊福部マーチ」が堪能できる2作品で、かなりテンションが上がりました。


まずは『海底軍艦』。東宝SFを代表するスーパーメカ・轟天号が初登場した作品です。
轟天号絡みの楽曲はとにかく重厚で大迫力。『挺身隊出動』の部分では、原曲ではピアノ・ソロが印象的だった間奏部分が、ここでは打楽器が鳴り響いて迫力が倍増していました。


そして、プログラムの最後を飾ったのが『地球防衛軍』。
これのマーチもエキサイティングでした。83年の『SF交響ファンタジー』の時にも思ったのですが、サビの部分でのバイオリンが激しくて、女性奏者が大変そうだなあ、というのが、実際に演奏されるところを見ることで実感できました(『SF交響ファンタジー』の場合は、クライマックスに行くに従ってどんどんテンポがアップするので、さらに大変そうでした)。


『地球防衛軍』の演奏の前に、70年代に発売された『ゴジラ』などのオムニバス・レコードの構成で有名な西脇博光氏と、平成ゴジラ・シリーズの特撮を担当した川北紘一監督が登壇してスピーチしました。
西脇氏があのレコードを出してくれなかったら私が伊福部音楽の素晴しさを知ることもなかったでしょうから、私にとってはまさに恩人。
川北監督が『地球防衛軍』を観て感動し特撮の道に進んだという有名なエピソードも披露されました。


演奏が終わり、拍手と歓声がいつまでも鳴り止みません。当然、アンコール曲の演奏となります。
曲は『交響ファンタジー「ゴジラVSキングギドラ』の後半からの抜粋。
キングギドラもテーマは、オケの人数のせいか、今までになくものすごい音になっていたような気がします。
個人的に大好きな闘争のモチーフの部分は拍子が目まぐるしく変わるので、ついつい指揮棒の動きに注目してしまいます。
本編には登場しない、『ロンド・イン・ブーレスク』からの引用、というより『怪獣大戦争』のメロディを挟んで、ゴジラのテーマでこのコンサートは締めくくられました。


やはり総勢100名近いオーケストラという物量の迫力は、ナマで体感して正解でした。
イケメン指揮者の斎藤一郎氏の指揮もよかったですね。アンコールでは、大先生に敬意を表して「伊福部モデル」の長い指揮棒を振ったのは嬉しかったですね。

事前に謳われていた通り原曲のイメージはほとんど損なわれていませんでした。譜面通りだった上に、テンポも現在聴くことができるオリジナルの曲のものを忠実に再現していたのかも知れません。
また、普通のコンサートではソロはやらないような楽器をフューチャーしたものや特殊奏法を使用した曲も結構登場しましたね。

ところで、大先生が担当した映画では、大半がエンドマークのところで「ジャーン、ジャーン」という独特のコーダが鳴り響きますが、これは純音楽作品ではほとんど使われなかった手法です。つまり、ほとんどが純音楽作品を演奏するコンサートにおいては、この「ジャーン×2」の響きは、まず聴かれません。
それが、今回はきっちり出て来ました。つまり、ようやく生「ジャーン×2」を聴くことができたわけです。


そのせいか、曲の雰囲気自体はオリジナルとあまり変わらなかったような気がしました。これは、今回の演奏をけなしているわけではありません。
つまり、原曲がすでに交響曲として完成されていたからじゃないかと思うのです。
世間一般の「映画音楽をフル・オーケストラで聴く」系のコンサートでは、原曲を分厚いオケで演奏することで迫力を増しているものがほとんどですが、今回の伊福部音楽や、やはり私がたびたび聴きに行ったジェリー・ゴールドスミスのコンサートでかかる曲は、原曲の段階ですでに緻密なオーケストレーションが行なわれているので、それを忠実に演奏するだけで、立派な交響曲になってしまうのではないか?と思ったわけです。


コンサートの後で、井上氏や西脇氏、そして数々の伊福部本を執筆されている小林淳氏、特撮関係のサントラで解説を執筆された早川優氏や大塩一志氏、特撮映画音楽のサントラを多数発売してくれている東宝ミュージックの岩瀬社長など、錚々たる顔ぶれの皆さんとお話させて頂くという、夢のような体験もさせて頂きました。


いろいろな意味で、本当に素晴しいコンサートでした!




開場直後の、すみだトリフォニーホールの前。ブレてしまったので分かりにくいですが、すごい長蛇の列でした。