昨日、熊本日日新聞に掲載された拙文の全長版(規定の文字数に収める前のもの)を基にしたレビューを掲載させて頂きます。
ハリウッドのトップ・スター、ブラッド・ピットが、レオナルド・ディカプリオと争って映画化権を獲得し、自ら製作を務めたこの映画。何と、人間とゾンビの“全面戦争”を描いた作品です。
謎のウイルスが全世界で爆発的に拡大し、主要都市は次々に壊滅。感染者は凶暴化して他の人間に噛みつくゾンビ状態に。しかし、その襲撃を受けない人々がいることが判明、その原因、つまりウイルスの弱点が分かれば、ワクチンを作ることができる。
かつて紛争中の国々に派遣された元国連職員のジェリー(ブラッド・ピット)は、家族の保護を条件にこの謎を解明する任務を受け、世界のあちこちを転々としますが…。
感染者たちは厳密にはゾンビではないので、本作は一般的なゾンビ映画とは違うかも(グロ描写も割りと控えめ)。
全力疾走したり、離陸しているヘリコプターに飛び乗ろうとするなど、本作の“ゾンビ”はやたらと元気。そのあたりも、ゾンビ映画ファンには賛否分かれるところだろう。
(でも、ゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』を連想させるシーンもあり、リスペクトはしてるみたいです)
しかし、巨大な黒い塊になって押し寄せてくるビジュアルや、逃げ場のない飛行中の旅客機内でゾンビが増大していくシーンなどのインパクトはかなり強いです。
むしろ本作は、宇宙から来た未知のウイルスと人間との戦いを描いた、マイケル・クライトン原作の「アンドロメダ…」を思わせます。
原作は、各国でのウイルスの蔓延の様子を、それぞれの国の人々の証言という形で描いた、一種のフェイク・ドキュメンタリーでした。映画化にあたって、特定の主人公を設定して一つの話にするという大幅な脚色が行なわれました。映画として観やすいような形にするという処理ですが、その辺の処理の仕方も、ちょっと『アンドロメダ…』に似てます。
ところが、ジェリーがウイルスの謎を追って世界各地を飛び回り、行く先々で様々な危機に陥るという展開は、何だか「007」的です(監督が「007/慰めの報酬」のマーク・フォースターなのは、そのため?)。
でも、ジェリーはジェームズ・ボンドのようなスーパーヒーローではなく、あくまでも一人の夫・父親として描かれています。彼にとっては、世界を救うことが家族を救うこと。決死の任務の合間に家庭人としての人間味を時折見せるジェリーの姿は、実生活でも家族を持ったブラピ自身を反映しているのかも知れません。
ホラー,SF、家族愛の物語を絶妙のバランスで配合し、007風の派手な見せ場がアクセントに。様々な要素を破綻なくほぼ二時間にまとめた手腕はさすが。幅広い層が楽しめる、上質の娯楽作品に仕上がっています。