この作品も1月に観せて頂いていたのですが、忙しくてなかなか感想をアップできませんでした。公開が近くなったので、もういい加減感想を書かなきゃいかんと思い、何とかアップしました。


生まれつき両手足がないというハンデがありながら、スポーツライターはじめ様々な分野で活躍している乙武洋匡さん。彼が小学校の教師になっていた時の体験を、本人の主演で映画化したものです(名前などは変えてあります)。


主人公と、補助教員として彼を支え続ける幼なじみ(国分太一)、そして、彼らが受け持ったクラスの子供たち。お互いが成長していく様子が、きめ細かく描かれています。


その合間に、どのようにして食事をするかなど、乙武さんがどんな日常生活を送っているかの断片も描かれています。そういった意味でも、セミ・ドキュメンタリーと言える作品に仕上がっています。


このような題材の作品は、ともすれば無闇に泣かせようとベタベタジクジクした湿気が多いものになりがちですが、廣木隆一監督の演出は、主人公に対してワンクッション置いて、少し引いた感じで物語を綴っていきます。
しかし、それは冷たく突き放した感じのものではなく、まさに「温かく見守る」といった雰囲気であり、その点でもかなり好感が持てる作りになっています。


その一方で、登校拒否になった一人の児童の家を訪れた主人公が、彼女を説得しようとするシーンで、自室がある2階に駆け上がる乙武さんを真正面からワンカットで捉えるという、息を呑むカットが登場します。全体が比較的穏やかな作りになっているので、このシーンの迫力と熱さが一段と印象に残ります。この緩急のつけ方も素晴らしい。


授業のシーンは、乙武さんが過去にやっていたことの再現みたいなものだから当たり前なのかも知れませんが、上手いというか自然です。
かと思えば、国分さんたちとの絡みではセリフ回しなども自然で、やはり演技が上手いんでしょうね。


演出に合わせて、音楽も割りと控えめな付け方をしてあります。最近は、ガンガンダラダラとBGMを付ける映画が少なくないですが、これは要所要所に絞って、しかも画面の雰囲気にきちんとマッチした音楽が付いています。
手法で言えば、かつての伊福部先生や佐藤勝さんなど、本格派の作曲家がやっていたような、その作品の本質を理解して行なわれた音付けに近いものがあります。ここも凄い。


恐らく、私と同じ40代の前半から中盤の世代の熊本県民の大半が、学校で観せられた映画があります。サリドマイドで両腕がないまま生まれながらしっかりと生き続け、熊本市の職員になった白井(旧姓:辻)典子さんの人生を、やはり本人の主演で描いた『典子は、今』(1981)です。

この作品は、かなりその『典子は、今』に雰囲気が似た作品になっています。
本人の周りをプロの有名俳優が固め、実力のある有名監督が演出する、という作りもそっくりです(こちらの監督は、巨匠・松山善三)。
足だけで食事したり、市役所の仕事をする様子をきっちり見せるシーンもかなりたくさんあったと記憶しています。
しかもこれが、学校での上映を主な目的としてかつて数多く作られた「教育映画」ではなく、大手の映画会社が全国規模で一般公開した映画だという点も同じです。
(ついでに書くと、両作とも同じ東宝配給)


いずれにしても、観やすくて心温まる、好感度の高い作品になっています。



ミスターYKの秘密基地(アジト)

地味な画ヅラですが、プレスシートの表紙です。