ミスターYKの秘密基地(アジト)

先日も触れたアメリカのINTRADAから発売されたサントラですが、いろいろな意味でレアなアイテムです。


アメリカが建国200周年を迎えた1976年に製作された西部劇。
監督はアンドリュー・V・マクラグレン。「西部劇の神様」ジョン・フォード作品の常連俳優だったヴィクター・マクラグレンの息子で、その縁からフォードの助監督を長く務め、「フォードの愛弟子」と呼ばれた人です。
師匠の作品に漂っていた詩情には欠ける(爆)ものの、60年代後半から西部劇や戦争アクションなどで男気あふれる作品を連発していました。


引退を決意していた老保安官(チャールトン・ヘストン)のもとに、かつて彼が逮捕した無法者(ジェームズ・コバーン)が脱獄したとの知らせが。
逮捕の際に保安官が無法者の妻を誤って死なせてしまったことから、無法者が保安官に復讐しに来ることは明白。
保安官はそのことを利用して罠を仕掛けますが、無法者はさらにその裏をかき、保安官の娘を誘拐してしまいます…。


物語の基本はまさに『真昼の決闘』路線で、その点では王道の西部劇ですが、一方で保安官の娘のレイプ・シーンを入れるなど、時代の流れを汲んだ部分も見られます。
ただ、いかんせん、西部劇のジャンルそのものが、当時すでにかなり下火になっていたため、興行的には奮いませんでした。


どうでもいいですが、昔この作品がテレビ放映された時は、主演二人の吹き替えはフィックス(定番)の声優、すなわちヘストン=納谷悟朗&コバーン=小林清志。銭形警部と次元大介ですな。


で、この作品の音楽がちとややこしいことになってます。

もともと、音楽を担当したのは、先日も触れた『エデンの東』やテレビの『コンバット』のレナード・ローゼンマン。
マクラグレンとは、ジョン・ウェイン率いる油田火災専門の火消しチームの活躍を描いた『ヘルファイター』(68年)で一度組んでいます。
この作品では、彼の本領である現代音楽的な音楽を付けています。それはどうやらマクラグレンの希望でもあったようなのですが、やはり王道の西部劇には合わなかったようで、「現代的過ぎる」という理由で、ローゼンマンのスコアはボツに。その音源が、このCDの前半に収録されています。


さて、音楽どうしようか?と悩んだスタッフが考え付いたのが、参考用に既製音源を仮付けする、いわゆるテンプ・トラックみたいなこと。
ジェリー・ゴールドスミスが、この作品の製作会社である20世紀フォックスの過去の西部劇作品のために作曲・録音した音楽を流用する、というものです。
具体的には、『100挺のライフル』を中心に、『リオ・コンチョス』、『駅馬車』、そして戦争映画ですが『モリツリ 南太平洋爆破作戦』からのものです。
で、これらの楽曲を、当時フォックスの音楽部長だったライオネル・ニューマンの指揮で再録音しました。わざわざ録り直したのは、この作品の画面に合うようにタイミングやテンポなどを微調整する意味もあったのでしょう。
この音源が、このアルバムの後半に収められた楽曲です。

しかし、この録音も実際には使用されず、結局、過去の音源がそのまま使用されました。


2回も別の音楽を録音しておきながら、どちらも使わなかったという、ある意味かなり贅沢なマネをしております。


最近は、この手のボツスコア(未使用音源)のリリースが増えていますが、」いますが、たいていはボツスコアだけ、もしくは実際に使用された音源と併せて収録というものです。
これは、2種類の異なるスコアで、しかも両方とも未使用という、極めて稀なケースです。

ミスターYKの秘密基地(アジト)

で、この写真ですが、CDの解説書に載っていたものです。
1977年のアカデミー賞授賞式の時のもので、左がゴールドスミス、右がローゼンマンです。


二人は仲が良かったようで、たまに似たような曲を書くこともありました。
しかも、『猿の惑星』や『スター・トレック』など、ゴールドスミスが第1作を、後続作品をローゼンマンが担当したシリーズがあったりします。


この年(77年だから、対象となるのは76年公開作品)は、ゴールドスミスが『オーメン』で作曲賞を、ローゼンマンが『ウディ・ガスリー/わが心のふるさと』で編曲賞をそれぞれ獲得しました。それゆえの2ショットが、この写真というわけみたいです。


おまけに、最初に書いたように、『大いなる決闘』も76年。そう考えると、面白いというか皮肉というか、不思議な因縁に満ちた写真ですね。