実はこの作品、1月のうちに観せて頂いていたのですが、前の記事にも書いたように多忙だったことと、この映画のレビューを熊本日日新聞に書かせて頂くことになっていたので、こちらに書くのを何となく差し控えておりました。
新聞の掲載も終わり、映画自体も公開されたので、ようやくこちらにアップする気になりました。
熊日新聞はよその皆様には読んで頂くのが難しいので、そのレビューをベースに、字数の都合で割愛した要素を加えたものをアップ致します。
以前、『GIジョー』のジャパン・プレミアが行なわれた時、地元のテレビ局のお仕事で、イ・ビョンホンにレッド・カーペットでインタビューしました(自称・日韓イケメン対決)。
夏の夜、しかも直前まで夕立が降っていたせいか、ビョンさんはお付きの人(?)にずっと顔の汗を拭いてもらっていました。
テレビだからあちらなりの気遣いだったのかも知れませんが、その光景は大スターというより、どこかの国の王族のような恭しさを感じました。
まさか、その時のイメージががこんな形で具現化するとは…。
ビョンさん初の時代劇、しかも一人二役に挑戦した話題作です。
彼が扮するのは、朝鮮王朝の十五代目の王・光海君と、その影武者になった道化師。
日夜、反対勢力による暗殺の恐怖におびえる光海は、自分の身代わりを立てるように、信頼できる忠臣に命じます。
そこで選ばれたのが、光海と瓜二つで、その物真似を得意ネタとする道化師のハソン。
立ち居振る舞いから王としての考え方まで教育された彼は、毒を盛られ昏睡状態に陥った光海の影武者を続けるうちに、困窮する国民を救うため、自分の意志で国政を動かそうとしますが…。
光海の生涯には謎が多いと言われていますが、暴君と呼ばれる一方で政治的手腕が高く評価されるなど、その歴史的評価も真っ二つ。
そんな“二面性”から、本物と影武者の「二人の王」という着想を得たのでしょう。
まさに「人が変わった」王=ハソンによって、王妃や臣下たちの心も変化していく様子が丹念に描かれます。
そして、そんなエピソードの積み重ねが、クライマックスで劇的な盛り上がりと感動を生みます。実に巧みな構成。
もちろん、ビョンさんの熱演も素晴らしい。疑心暗鬼の果てに暴君と化した光海と、笑いの中に優しさと熱い心を持つハソンを見事に演じ分けています。
特に、ハソンが操り人形から“本物”の王になっていく様子は感動的。
監督は、韓国の若手注目株チュ・チャンミン。彼も時代劇初挑戦ですが、ドタバタ風味のコミカルな場面も織り交ぜた前半から、ハソンの運命が劇的に変化していく緊張感に満ちた後半へと、緩急自在な演出を披露。
入念な時代考証による緻密な宮廷描写も、画面に説得力を与えています。
韓流時代劇の質をさらに高めた注目作と言えそうです。