本屋さんの平積みで気になって買った『キリン解剖記』。
いやはや、とんでもなく面白い本でした。
まず、普通の生活では「解剖」することはありません。
まぁ、うちは、理科実験教室なので、魚やカエル、ネズミの解剖については、出来る体制はありますが、
それでも、キリンの解剖なんて、想像したこともありません。
しかし、作者は言うのです。
「もしかしたら私は、世界で一番キリンを解剖している人間なのかもしれない」と。
19歳の冬から、10年で30頭近くの解剖をしてきた、という作者は、この本を書いた時に、まだ30歳。
「15年もあれば、キリン好きの子どもはキリンの研究者になれる」と書かれていますが、それにしても、
どんな人生の選択を行えば、「自分の好きなこと」を「研究」に昇華出来るのか。
この本は、キリンについての作者の思い出と発見の詰まった記録でありながら、
「研究」のみならず「夢」を追いかけるすべての若者に対するエールでもあるのです。
どこをとっても面白い本ですが、ハイライトは「8番目の“首の骨”の発見」。
どのようにこの事実を発見し、確定していったか、そのプロセス、タイミング、出会い、
本書の白眉であり、一気に読まされてしまいます。
ここを読んで素晴らしいと思うのは、内容もさることながら、文章と構成の上手さ。
何より、こういった専門的で難しい内容を、素人にも分かりやすく読ませることが出来るのは、
文章が上手く、構成が練られているからに他なりません。
「頭が良い」という評価の軸はいくつかありますが、
「他の人のレベルに合わせてちゃんと説明が出来る」というのも大事な要素です。
しかも、自然な語り口でそれを感じさせないあたり、作者の文才の素晴らしさを感じます。
登場するキリンたちが、私たちにとってなじみ深いキリンたちだ、というのも、この本の魅力に一役買っています。
最初に登場するのが神戸市立王子動物園の「夏子」。兵庫県民としては、感慨深いものがあります。
そう。
解剖される一頭一頭に名前があり、それぞれの動物園で愛されてきた、そして惜しまれた「生」がある。
だからこそ、その死後、丁寧に弔われ、研究者の役に立っている姿に、有難さを感じますし、
そうやって最期の最後まで寄り添ってくださっている方々の姿に尊敬と感謝の気持ちを深く感じます。
今、読んでいる『アルケミスト』という本の中に
「おまえが何か望む時には、宇宙全体が協力して、それを実現するように助けてくれるのだよ」というセリフが出てきます。
「おまえが誰であろうと、何をしていようと、おまえが何かを本当にやりたいと思う時は、その望みは宇宙の魂から生まれたからなのだ。」と。
「好きなキリンの研究者になりたい」という夢を叶えた作者の道のりは、このセリフを体現しているかのごとく、
素晴らしい出会いと学びに導かれていて、読んでいてワクワクします。
「天は自ら助くる者を助く」は、英語の慣用表現として学びましたが、本当にその通りだな、と思います。
どんな夢であれ、あきらめずに努力するものの先に、扉は開かれるのだ、と感じさせてくれる、その意味でも素晴らしい本。
本当に面白い一冊でした。
郡司先生は、こちらの本の監修もされているそうで、
この本も近々、キッズアース播磨町校の本棚に並べたいと思いますのでお楽しみに。
さて、キッズアースの実験教室では、教科書を読むだけでは得られない「何か」を感じてもらうことで、
生徒の皆さんの可能性を拡げたいと思っています。
キリンの解剖をすることは、ないと思いますが(本校では過去に羊の心臓の解剖など行っていますが)、
本を読むことも、「何か」の追体験。
経験・体験を通じて、未来の「科学者」の卵への一助となれることを願っています。