目を惹くタイトルってありますよね。私はこの『ザリガニの鳴くところ』(Where The Grawdads Sing) というタイトルがずっと気になってました。

 

 

鳴き声がよく分からないものということで「鵺(ぬえ)の鳴く夜は恐ろしい」(映画『悪霊島』のキャッチコピー)のフレーズが思い出されてちょっと不気味でした。

 

 

実際「死体が出てくる」とか「ミステリー」と聞いていたので怖い映画かと思い、昨夜、意を決してNetflixで観たのですが・・・怖い映像は全くなく。

 

 

むしろ雄大なノースカロライナの美しい湿地帯を舞台に、映像的にはとてもきれいなシーンが多い作品でした(撮影地はニューオーリンズのようですが)。

 

 

ノースカロライナ州の湿地帯で、将来有望な金持ちの青年が変死体となって発見された。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で育った無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に捨てられて以来、学校へも通わずに湿地の自然から生きる術を学び、たった1人で生き抜いてきた。そんなカイアの世界に迷い込んだ心優しい青年との出会いが、彼女の運命を大きく変えることになる。カイアは法廷で、自身の半生について語り始める。(映画.com)

 

 

実際の映画では、カイアは法廷で語ることは一切なく、回想シーンとして彼女の過去がだんだん明らかになっていきます(上の紹介記事は観ないで書いてるよね汗)。

 

 

カイアの生い立ちは本当にかわいそう。父親の暴力に耐えかねた母親が家を出て、姉や兄たちもやがて家を離れ、幼い彼女は一人、父親の元に残されます。父親は彼女にボートの乗り方や湿地での生き方を教えてくれますが、まもなく死んでしまい、彼女は6歳で本当に一人ぼっちになってしまいます。

 

 

幼いながら、ムール貝を袋いっぱい取って村の雑貨屋に持っていき、細々と食いつなぐカイア。雑貨屋の黒人夫婦はそんなカイアを優しく見守っていきました。

 

 

やがて、彼女に近づいては去っていく男たち。

 

 

兄の幼馴染だったテイトは心優しく、学校に行けなかったカイアに読み書きを教えます。お互いに惹かれ合いますが、テイトは大学進学のため村を離れ、約束した日にカイアの元に戻ってきませんでした。

 

 

婚約者がいながらカイアを執拗に追いかけ、暴力をふるう金持ちの青年チェイス。そのチェイスが、ある日やぐらから落ちて死んだ。彼は事故死だったのか、それともカイアが殺したのか。

 

 

物語は、法廷でのやり取りを中心に、彼女の生い立ちや男たちとの関係を徐々に明らかにしながら進んでいきます。

 

 

彼女は結局、物証がほとんどないこともあり、彼女に寄り添った弁護をして陪審員たちの同情を誘った弁護士のおかげで無罪を勝ち取り、彼女の元に戻ったテイトと暮らしていきます。

 

 

映画の最後に真実が明かされますが、いろいろと考えさせられるラストで、終わってからも何だか後を引く映画でした。

 

 

作者はディーリア・オーウェンズという動物学者なので、原作の描写はとても細かいのではないかと思われます。映画でも、カイアの描く動物たちの絵はとても繊細で美しく、自然への愛にあふれていました。

 

 

「ザリガニの鳴くところ」というのは、実際に作者が幼い頃、母親が森の自然のことをそのように形容していたようです。ザリガニの鳴き声が聞こえるかのような、しんと静まり返った神秘的な自然を指すのかもしれません。

 

 

この話は、ミステリーでもありながら、自然と人々の偏見の中でたくましく生き抜いた一人の女性の物語でありました。

 

 

 

字幕は杉山緑さん