前回『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』でNYでの性犯罪について書きましたが、この映画は、多くの女性たちを長年食い物にしてきたハリウッドの大物映画プロデューサーを告発した勇気ある女性たちの物語です。
この卑劣なプロデューサーは『恋におちたシェイクスピア』や『ロード・オブ・ザ・リング』『英国王のスピーチ』などの名作を世に送り出してきた、ハーヴェイ・ワインスタイン(発音とNHKの字幕はワインスティーン)。
今から5年前の2017年、NYタイムズ紙に被害女性の名前と共に実名による告発記事が出たことによって、ワインスタインは逮捕され、世界中に #MeToo 運動が広がったことは、日本でも大きく報道されました。
でも、この記事を書いたのが、ジョディ・カンターとミーガン・トゥイーという2人の女性記者だったということは多くの人が知らなかったのではないでしょうか。
私も今回、この映画を観て初めて2人が子育て中の忙しいママであり、大変な苦労をしてこの告発記事を書いたのだと知りました。
まず、ワインスタインのよからぬ噂を耳にしたジョディが調査に乗り出し、その過程で以前トランプの性犯罪を暴いたミーガンに協力を求めます。
ミーガンは告発記事を書いてもトランプが大統領に当選したことで、世の中が変わらなかったことに少なからず失望していたし、自身も産後うつを発症して辛い思いをしていました。(ミーガン役のキャリー・マリガンの抑えた演技がとてもよかった!)
それでも2人は協力して被害者を見つけ出し、彼女たちの重い口から当時のことを聞きだしていきます。多くの女性が当時を思い出すと涙を流しながら話してくれるのですが、あくまで「オフレコ」でと言われてしまいます。
相手は大物だし、実名を出されるのが嫌だと思うのは当然です。しかも、公にしないことを条件に示談が成立した女性もたくさんいました。でも、被害者が匿名では記事に信ぴょう性がないので出せません。彼女たちは、忙しく西海岸やロンドンに飛んで協力者を探すのです。
やがて、彼を告発できるなら実名を出してもいいという、勇気ある女性たちが現れます。また、ワインスタインの関係者の中にも正義感の強い人がいて、ひそかに情報を流してくれるようになります。
ひそかに、というところがミソですね。それほど、当時のワインスタインには人を葬る絶大な力があったので、事は慎重に進められていったのです。が、向こうも探偵を雇って後をつけさせたり、脅しをかけてきたりして何とか握りつぶそうとします。
まるで手に汗握るサスペンス。でもきちんと事実に基づいたドキュメンタリーのようでもあり、記事が出るまでの緊張感がすごく伝わってきました。
記事に取り組む2人のひたむきさと、地道で諦めない調査力が実を結んだ結果、世論を動かす大スキャンダルとなりました。
さながら『大統領の陰謀』の女性版!ですが、大統領の陰謀を暴いたあの映画でワシントン・ポストの記者を演じたダスティン・ホフマンが、この #MeToo 運動でやり玉にあがったのは皮肉なことでした。好きな俳優さんだったのにそんな人だったとは
どこの社会にもセクハラをするような不届き者はいると思いますが、立場や権力をかさに強要してくる輩は最低ですね。特に芸能界なんて女優やモデル、歌手などデビューまでが至難のわざ。チャンスをちらつかせて体を求めてくる監督やプロデューサーはたくさんいそう。
日本にも昔から「枕営業」なんて言葉があったくらいだから、売れるためには暗黙の了解みたいなことがまかり通っていたのかもしれませんが、これだけ #MeToo 運動が広まったから、そういう人たちもヘタなことはできないと肝に銘じたことでしょう。
性被害もいじめも、いろんなハラスメントも、受けた側は深く傷つくけど、勇気を出して告発することで世の中は変えられると思えた作品でした。
原作:『その名を暴け #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い』
(ジョディ・カンター、ミーガン・トゥイー著、古屋美登里 訳、新潮文庫)
映画:字幕翻訳 松浦美奈