スタンダップコメディ 『ロニー・チェンのココだけの話』 は昨日、Netflixで配信されました。

 

 

原題は "Ronny Chieng: Speakeasy."  IMDb(Internet Movie Database) では、6.2 という高いレートがついてます。

 

 

私は前半の字幕翻訳を担当しましたビックリマーク

画像はIMDbより

 

 

前作の大きなステージと違って、今回はNYのチャイニーズレストランらしき小さな会場で、その中心にお立ち台があるという、観客との距離がとても近い設定でした。お客さんの表情や反応もよく見えます。

 

 

まずは分かりやすいパンデミックやワクチンの話。アメリカは、すごい速さでワクチンを開発した国なのに、国民が打ちたがらないというネタ ゲラゲラ

 

 

専門家の言うことより、ネットの怖いウワサを信じて、エビデンス(証拠)を出せというアホなヤツらに、こんな証拠を出したらどうだろう?とゲノム解析の話を出して笑わせます。

 

 

コメディは基本、言葉遣いは本当に平易です。ただ、簡単な単語やフレーズなのに、辞書を引いても分かりにくいものが多い表現があります。

 

 

たとえば"I feel like 2021 was the year / that people who peaked in high school really found their voice.../ on the Internet."

 

 

直訳すると、「2021年は、高校でピークを迎えたやつらがマジで自分たちの声をインターネット上に見つけていた年だったように感じる」

 

 

分かるような、分からないような…。「高校でピークを迎える」は英語のHP上でいくつか説明されていますが、高校を楽しく過ごしすぎて、きちんとした知識を身につけていないというニュアンスがあるようです。

 

 

「思い返すと2021年は」

「高校で遊びまくってたヤツらが吠えてた」

「インターネットで」

 

 

このショーは2022年、今年のものなので「思い返すと」としました。

 

 

それから、"All these fucking D-average students/ who lack basic reading comprehension skills / demanding PhD-level evidence / on virology." というフレーズ(ピリオドがついてるが動詞がないので文ではない)。

 

 

「ヤツらの成績は ”要努力” 

「基本的な読解力もないくせに」

”要博士号” レベルの証拠を要求してる」

「ウイルス学のだ」

 

 

Dレベルだと分かりにくいので、日本語の成績に合わせて “要努力”、PhD は“要博士号”。また、どちらも「D」にかけてるので、ルビで出しました。

 

 

それからこの方の特徴なんでしょうか。同じフレーズを結構、何度も繰り返して使うのですが、字幕では繰り返すと同じ文字がずっと出ていることになるので、言い換えて変化をつけることになります。

 

 

たとえば、"These fucking morons." の後に、少し間が空いて再度、"They're fucking morons. They are." と続いたセリフ。

 

 

間が空いてなければ1枚にするところですが、空いてるので2枚にしないといけません。

 

 

なので、1枚目はそのまま 「アホなヤツらだ」、2枚目を「気の毒なくらいだ」となっています。意訳でセリフを作るのも翻訳者のお仕事。

 

 

あと、たくさん繰り返されているのは、"Cancel me." と "Use your platform." というフレーズです。

 

 

"cancel" は「中止する」という意味ですが、アメリカを中心に 「キャンセルカルチャー」 なるものがあるそうです。Wikipediaによると…

 

 

主にソーシャルメディア上で人物が言動などを理由に追放される、現代における排斥の形態。多くの場合、芸能人や政治家といった著名人を対象に、過去の犯罪や不祥事、不適切な言動(未成年だった頃の喫煙・飲酒など)とその記録(写真、動画、雑誌の記事、SNSの投稿とスクリーンショットなど)を掘り起こし、大衆に拡散、炎上を誘って社会的地位を失わせる運動や、それを良しとする風潮を指す

 

 

とあります。要するに、このキャンセルカルチャーを風刺しているのですね。そこで、8回も繰り返された "Cancel me." については…

 

 

「批判していい」「炎上させろ」「叩いてくれ」「非難しろ」「やってみろ」 などとしています。

 

 

それから、"platform" については、日本語の辞書だと「演台」とか「駅のプラットホーム」とか、高い場所を指す意味しか出ていませんが、Cambridge Dictionary によると、"an opportunity to make your ideas or beliefs known publicly" とあります。

 

 

つまり、「自分の考えなり信念を公に表明する機会」ということです。なので、"Use your platform." については…

 

 

「立場を利用しろ」「チャンスを使え」「表現する場がある」「ステージで広めてくれ」 などと言い換えました。

 

 

さて、このあとはワクチンのネタから、鉄板の人種ネタへ。前作でも、「アジア人は中立だ」って話をしてましたが、今回は「最低の人種をみんなで言ってみよう。色だけでいいから叫べ」とそそのかします ← さて、この結果はいかに???滝汗

 

 

まあ、それにしても1時間ずっとしゃべってますが、セリフ自体は大変練られていると思いました。最初の方に出てきたセリフが後半でまた生きてきたり、オチになったり。よく忘れず淀みなく出てくるものだと思います。

 

 

他のスタンダップコメディもたくさんアップされたようなので、皆さんも、ぜひこの機会にいろいろ観てお楽しみくださいませ音譜