2018年版のBBCドラマ 『ABC殺人事件』を観ましたが、今までのポワロ像とは全く違った面白い演出でした。
ポワロにはアメリカの名優、ジョン・マルコヴィッチ。なぜアメリカ人を使ったのか? その点も斬新ですが、フランス語まじりのイギリス英語は味があって上手でした。
面長でやせ型、白いあごひげの外観は違和感ありありです(小説ではふっくらしていて顔は卵型で口ひげ)。しかもロンドン警視庁に行っても、活躍してきた過去の栄光まで否定され一般人のような扱いをされる、悲壮感たっぷりで無口なポワロの描き方です。
そのロンドン警視庁の若きクローム警部に『ハリー・ポッター』シリーズのロン・ウィーズリー役で有名なルパート・グリント。
結構、貫禄が出ていい役者になってきました。が、低い声で不遜な態度を作っているところがまだ少しわざとらしい感じですが、いろいろなドラマに出ていてハーマイオニー役だったエマ・ワトソンと共に 『ハリー・ポッター』のイメージ払拭に成功しています。
現在はprime videoでは視聴できません。
事件のカギを握るセールスマン、アレキサンダー・ボナパルト・カスト(Alexander Bonaparte Cust)、すなわちABCのイニシャルを持った青年にエイモン・ファレンという役者さん。この人が実にいい味を出しています。
他にも役者さんたちがなかなかよかった。全体的に、時代を反映していてまたイギリスらしく暗ーい演出になっています。
ただ、原作やこれまでの映画やドラマを観てきた人には、あまりにも原作から離れた演出に違和感がありすぎて不評のようです。特に、この作品ではポワロの過去がベルギーの警官ではなく司祭であり、教会の人々を助けられなかった暗い過去を持つ移民、という原作とは違うポワロ像にしてしまったために「これはポワロではない」とまで言われています。
確かに、演出が凝りすぎましたかね。3部作になっています。ストーリーはこちら。
でも、クリスティーの作品はこれまでにさまざまな役者がさまざまな演出で映像化されているので、もう普通の演出だと面白みがないのかもしれません。
原作を読んでいなかった私としては、これはこれで結構楽しめました。今ではよくあるトリックが使われていますが、原作が1936年だったことを考えると、本当によくできたプロットとしかけだと思います。
シャーロック・ホームズもシリーズがいろいろ出ていますが、映画 『シャーロック・ホームズ』 でロバート・ダウニー・Jr が演じたマッチョなホームズもいれば、BBC制作のドラマシリーズ 『シャーロック』 で、ベネディクト・カンバーバッチが演じたスマホを使いこなす現代的なホームズもいて、それぞれにとても面白い。
原作は原作で大切にしつつ、いろいろな演出のものがあっても、エンターテイメントとして、また別のメッセージがあったとしてもそれはそれで受け取って、何か感じるところがあればいいのではないかと思います。
しょせん、小説のイメージは人によって違うものなので、映像になったとたんに「イメージと違う」と言われることはよくあることです。
この作品、今は放送していないようですが、最近のBBCは意欲的で斬新な作品を作っているので、また新しいドラマができたら楽しみたいと思います。
今度4月になると、正調派ポワロ、最もポワロのイメージに近いと言われるデビッド・スーシエの『ABC殺人事件』 がAXNミステリーで放送されます。かなり原作にも近いと思われるので、2か国語放送ではありますが、こちらも楽しみです。
また、他のスーシエ版ポワロシリーズは、NHK-BSプレミアムで来週土曜日から始まるそうです。