英語なら人と会った時のあいさつは、 "Hello." "Hi." くらいですが、日本語だと相手との距離感やシチュエーションによって、いろいろな訳し方になります。
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しかも、すべて音を拾って声優さんにしゃべってもらう吹き替えと違って、字幕は字数制限があるので、"Hi"などの短いあいさつの場合は、尺が短すぎて「アウト」(字幕を出さない)にすることもあります。
例えば、Netflixの「崖っぷち!レストラン」("Restaurants on the Edge")で見てみましょう。
これはリアリティー番組で、毎回レストラン経営者のニック、シェフのデニス、デザイナーのカリンの3人が、世界中のつぶれそうなレストランを回って経営を立て直す、という話なので、人と人との出会いが多く、それだけよくあいさつが出てきます。
エピソード1:マルタの回では "Hi" を「はじめまして」と訳しています。途中、地元で案内してくれる若い女性に向けての "Hey" は「やあ」となっています。
エピソード2:香港の回では、"Hi" で「どうも」、"Hello" は「こんにちは」
エピソード3:トバモーリの回では、"Hi, guys," で「どうも」 "Hi, how are you?" で「やあ 調子は?」 2回目の "Hi, how are you?"では「こんにちは」「どうも」
エピソード4:コスタリカの回は "Hi" にすぐ "Nice to meet you." がくっついているので「はじめまして」「会えてうれしいわ」になっています。
エピソード5:オーストリアの回では、最初の "Hi" も "Hello" もアウト。途中 "Hey" が出てきて「よろしく」 "Hi, how are you?" で「ようこそ 元気?」
エピソード6:セントルシアの回では、最初の "Hi" が子供に向けてのあいさつだったので「やあ」として、次の "Hello, Karin." は「ようこそ」。
このように、各エピソードでも違うし、翻訳者によっても尺の長さによっても違ってきます。
"Hi," "Hello." だけとっても、「こんにちは」「やあ」「どうも」「ようこそ」「よろしく」などいろいろな訳し方があります。
また、今回は出てきませんでしたが、電話のシーンなら「もしもし」とか「あの」「すみませんが」など、また別の言葉になるでしょう。
最後に、私がよく訳していたホラーやサスペンスでは、見えない人に向かって言う "Hello" の独特な訳し方があります。
以前ブログで紹介した "Nightmare Shark" の出だしがそうでした。霧がかかった夜の町で、主人公の女性エヴァがボートから降りて叫びます。
"Hello?"
相手が見えないので、明らかに「こんにちは」や「どうも」はおかしい。こんな時は「誰か」 となります。
見えない相手に向かって言う 「誰かいませんか」 という場合の"Hello"は、少し語尾を上げたり、間延びした感じで発音されます。(「ハロー?」「ハロゥオー?」みたいな感じ)
これを書いたあとに別のドラマを観ていたら、まだまだありました。
森の中で友達に置いて行かれて彼らを探すときの「ハロー」です。見えない相手ではあるけど、友達や知ってる人の場合。「ねえ、ちょっと」「どこなの?」 "Where?" と言っていなくても、状況に合わせて気持ちを訳していました。
こういった具合に、短いあいさつ "Hello" ひとつ取ってもいろいろな訳し方があり、話し手と相手との関係や、シチュエーションを考えて訳していかないといけないので、翻訳をしていて一番難しいと思うのが、こういう1つ1つの日本語を選ぶ作業です。
ふだんから、たくさん本を読んだりドラマや映画を観たりして、たくさん言葉を仕入れて自分の中に引き出しを増やしていくことが大切です。かくして修行の日々は続く…(そしてまた "ネ~バ~・エンディング・スト~リ~ ♪" のサウンドが…エンドレス)