チェンジリング』 Changeling

 

<あらすじ>

1928年のロサンゼルスを舞台に、誘拐された息子の生還を祈る母親(アンジェリーナ・ジョリー)の闘いを描くクリント・イーストウッド監督によるサスペンスドラマ。息子は無事に警察に保護されるが、実の子でないと疑念を抱いた母親が、腐敗した警察に頼らずに自ら息子の行方を捜して行動を起こし、同時に市長や警察機構を告発する。 (映画.com

 

 

 

 

以前『トゥームレイダー』『ソルト』でアクションバリバリのアンジーを堪能しましたが、今日の映画『チェンジリング』は全く180度違うキャラクター、静かに闘う母親の姿を描いた映画です。

 

 

 

 

実は、この映画を観るのは3回目。1回目は映画館でした。子供がいなくなって、警察が見つけたと思ったら実は別の子供だったというサスペンス仕立てのストーリーにドキドキしながら観ました。2回目はTVで日本語の吹替だったと思うのですが、内容が分かっていただけに、腐敗した警察権力の無能さと横暴さに怒りながら観ました。3回目の今回は、切ない母親の気持ちになり切ってもう途中からボロ泣きでした。

 

 

確かにどの回も怒りや悲しみはありましたが、今回は特に1928年当時、アメリカでも女性の地位がまだまだ低く、腐敗した権力に立ち向かうすべもない中で、子供を取り違えられて言い分も聞いてもらえない母親が、それでも子供を取り戻したい一心で諦めずに闘う一途な姿に心を打たれました。

 

 

そもそも自分がその行方不明の子供、ウォルターだと名乗り出てウソをつき通す子供とその親がいるから悪いのだけど、いくら今のようにDNA 鑑定ができない時代だと言っても、行きつけの歯科医も学校の先生も、その子がウォルターじゃないと言ってくれているのに、それでも信じない警察ってホントにありえない!

 

 

事件を解決した警察の威信に関わるし、子供が嘘をつくはずがないと言って、子供を見つけてあげたのにちっとも愛情を示さない母親の精神状態に問題があると、突然精神病院に入院させてしまうのですから、もうやりたい放題です!プンプン

 

 

病院の中には、確かにメンタルに問題のある患者もいますが、警察に楯突いたという理由で連れて来られた女性もたくさんいました。そして、日常的に投薬をしておとなしくさせ、自分が悪かった、もう警察には逆らいません、という書類にサインをすると出してもらえるという理不尽な「治療」が閉ざされた空間の中で行われます。

 

 

その中に、夜の商売をしていて暴力を振るわれたので訴えたらその相手が警察だった、それでここに入れられた、という女性がいました。その人はこういいます。

 

 

“Every one knows women are fragile.” 「みんなが女は弱いと知っている」

 

 

字幕では字数制限があるので、「女は弱い生き物よ」となっていましたが。fragile というのは「脆い、壊れやすい、か弱い」という意味で、よくガラスの形容に使われる単語です。今の強くたくましいアメリカ人女性とはだいぶかけ離れたイメージですが、90年前はそうだったんですね。

 

 

そんな力のない女性の1人、しかもシングルマザーのクリスティンが、唯一信じてくれた教会の牧師 (pastor) に救われて支えられ、強くなっていきます。

 

 

また、腐敗した警察の中にも正義感の強い人はいるもので、子供たちを拉致して殺したと告白した少年の証言に基づいて、レスターという捜査官が上の命令を無視して捜査。子供たちの白骨死体を見つけ、彼女の主張が真実であったと裏付けられました。

 

 

もっと早く彼女の言い分を聞いて捜査を続けてくれていれば、ウォルターも他の少年も助けられたかもしれなかったのに。クリスティンは、牧師の計らいにより、プロボノ(無償)で弁護してくれる弁護士をやとい、病院に隔離されていた被害者を救出し、市警を訴えます。

 

 

ここからはネタバレになります。

 

 

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裁判に勝っても、犯人が死刑になっても、息子ウォルターが本当に殺されたかどうかは分かりませんでした。7年後に、その現場から逃げて助かった少年が現れ、ウォルターが助けてくれて逃げられた、という事実を知ります。その後、ウォルターがどうなったかは分からないまま。でも、母親としてはどこかで無事に生き延びてくれている、と信じてずっと探し続けるのです。

 

 

これが実話なんですから本当に切ないです。とはいえ、アメリカは実は「誘拐大国」とも言われており、よくポストに投函されるハガキや、牛乳パックの裏の広告に

“Have you seen us?”  と、いなくなった子供 (missing children) の顔写真と名前や年齢などの情報が載っているので驚きます。

 

 

いったんいなくなると、ほとんどは二度と生きて会えないと聞きました。本当に恐ろしいです。なので、学校の送り迎えはスクールバスか親がするし、日本のように子供だけの通学なんて危険すぎてさせられないほどです。前に書いたように、たとえ短時間でも子供を1人で留守番させることはできません。

 

 

日本でも、北朝鮮による拉致問題がまだ解決しておらず、家族がある日突然いなくなって生死のほども分からないなんて、本当に辛く恐ろしいことが起きました。自分が生きている間にせめて一目会いたいと思いますよね。犯人が分かっているのにどうしようもないもどかしさ。

 

 

アメリカでは、それが年間100万人にも及ぶというのですから大変なことです。しかも今みたいに警察や国際警察が、頑張って探してくれてもなかなか見つけることができない・・・。今から100年近く前の警察の力では、特に難しかったことでしょう。

 

 

このお母さん、クリスティンは結局一生ウォルターに会うことはできませんでしたが、ずっと待ち続けたんですね・・・ショボーン  クリント・イーストウッドの映画は実話も多くて、静かに人生をかけて闘う人々の姿に胸が打たれます。何度も繰り返し観て、忘れたくないと思うのです。