「ローマの休日」 Roman Holiday
製作:1953年アメリカ (118分) 監督:ウィリアム・ワイラー
キャスト:オードリー・ヘプバーン(アン王女)、グレゴリー・ペック(ジョー・ブラッドレー)
<あらすじ>
アメリカ映画初出演となるオードリー・ヘプバーンと名優グレゴリー・ペック共演のロマンティック・コメディ。ヨーロッパを周遊中の某小国の王女アン(ヘプバーン)は、常に侍従がつきまとう生活に嫌気が差し、滞在中のローマで大使館を脱出。偶然出会ったアメリカ人新聞記者ジョー(ペック)とたった1日のラブストーリーを繰り広げる。1954年のアカデミー賞では主演女優賞、脚本賞、衣装デザイン賞を受賞した。
(映画.comより)
と、もう解説もいらないほどの超有名映画ですが、おそらく若い人はあまり観たことがないだろうと思い、授業で取り上げてみました。
ローマでの公式行事の夜、アン王女がストレスのためにヒステリーを起こし、医者に鎮静剤の注射を打たれるのですが、こっそり大使館を抜け出し、その後薬が効いて路上のベンチで寝てしまい、通りがかった新聞記者のジョーと出会う、というシーンです。
ANN: So happy. How are you this evening? (光栄です ご機嫌いかが?)
JOE: Hey, hey, hey, hey. Hey, wake up. (おいおい ちょっと起きろよ)
ANN: Thank you very much. Delighted. (礼を言います)
JOE: Wake up. (起きろって)
ANN: No, thank you. Charmed. (いいえ結構よ 光栄です)
JOE: Charmed, too. (こちらこそ)
ANN: You may sit down. (座ってよろしい)
最初の “So happy.” は大使館の外に出られたところなので、「とてもうれしいわ」とか「幸せよ」と訳しても自然ではあります。が、観ている側はすでに彼女が王女とわかっています。
次の “Delighted.” や “Charmed.” なども含めて、普段言い慣れている公的な挨拶としての「光栄です」がしっくりきます。
また、最後の “You may sit down.” も「座ってよろしい」「おかけなさい」くらいの上から目線の言い方です。普通、若い娘が年上の男性に使う言い方ではないのでジョーは彼女を酔っ払いだと勘違いします。
JOE: I think you’d better sit up. Much too young to get picked up by the police.
(起きないと警察につかまるぞ)
ANN: Police? (警察?)
JOE: Yep, police. (そう 警察)
ANN: Two fifteen and back here to change. Two forty-five…
(2時15分 戻って着替える 2時45分…)
JOE: You know, people who can’t handle liquor shouldn’t drink it.
(酒に弱いなら飲むな)
ANN: “If I were dead and buried and I heard your voice, beneath the sod my heart of dust would still rejoice”. Do you know that poem?
(「われ死して埋められるとも 君が声を聞かば 葬られし塵なるわが心も歓喜にむせぶ」この詩 ご存知?)
sit up は寝ている状態から上半身を起こすことを言います。get up だと完全に立ち上がってベッドから出る感じなので、同じ「起きる」でもちょっと違います。ちなみに腹筋運動などの上体起こしも sit up といいます。
次の文は too~to 構文なので、文字通り取ると「警察に連れて行かれるにはまだ若すぎるだろ」ということです。酔っ払いのおっちゃんならまだしも、ってことですかね?笑
“Two fifteen and back here to change.” は、毎晩侍女から聞かされている予定です。この場合の change は着替える。
そういえば、前のシーンでその侍女が予定を言うとき「シェジュールもしくはスケジュール」と言っていますが、英語の字幕で見るとどちらも “schedule” です。シェジュールはイギリス英語の読み方ですが、イギリス英語をしゃべる王女に説明するのは不自然なので、アメリカ英語をしゃべる観客向けへのサービスなのかなあと思いました。
“people [who can’t handle liquor] shouldn’t drink it” は who からliquor までが people にかかる形容詞節なので「お酒をhandle(扱う → ここではお酒に強い)できない人」となります。
次の詩の部分は仮定法です。“If I were dead and buried and I heard your voice,“ つまり、「まだ死んでいないけど、もし自分が死んで埋められたとしても、君の声を聞けば」ってことです。しかし、この詩の訳、文語調で素晴らしいですね。私にはとてもこんな訳は書けませぬ 。
なお、この詩は、ネットの情報によると脚本家のオリジナルのようです。またこの後、アンとジョーがある詩をめぐって「シェリーかキーツか」言い合うのですが、軍配はジョーの「シェリー」だそうです。Cf) It appears to have been made up by the author, Dalton Trumble. The other poem Audrey Hepburn's character quotes is Arethusa, by Shelly.
JOE: Huh. Whadda ya know? You’re well-read, well-dressed, snoozing away in a public street. Would you care to make a statement?
(こりゃ驚いた 博識で身なりもいいのに公道でうたた寝とは 声明でも発表を?)
ANN: What the world needs is a return to sweetness and decency in the sounds of its young men and… (世界に必要なのは若者の魂に優しさと上品さを取り戻すこと そして…)
JOE: Yeah, I, uh couldn’t agree with you more, but… Get yourself some coffee, you’ll be all right. (それには賛成するがね… コーヒーでも飲めばよくなる)
“Whadda ya know?” だいぶ崩れてますね…正確には “What do you know?” 文字通り取れば「君は何を知ってるの?」ですが、前後の文脈を考えると不自然です。口語で「それは知らなかった」「驚いた」の意味があります。
well-read は「博識の」発音は過去分詞の /red/ です。
“Would you care to ~?” は “Would you like to ~?” と同じです。
最後の “I couldn’t agree with you more.” は、ほとんどの学生が勘違いをした箇所です can’t agree with ~ は「~に賛成できない」ですが、ここでは more があるので「これ以上賛成することができないくらい完全に賛成だ」という意味になります。
JOE: Look, you take the cab. Come on, climb in the cab and go home.
(タクシーは譲るよ さあ乗って帰りなさい)
Ann: So happy. (光栄です)
JOE: Got any money? (金はあるか?)
ANN: Never carry money. (持ち歩かない)
JOE: That’s a bad habit. All right. I’ll drop you off, come on.
(悪い習慣だな じゃあ送るよ さあ)
ANN: It’s a taxi ! (タクシーじゃない!)
JOE: It’s not the Super Chief. (高級車じゃない)
ジョーは自分が帰ろうとタクシーを拾うのですが、若い女性を置いて帰るのも忍びなく、タクシーを譲ります。
映画では、”Look, you take the cab.” で you を強調して言っています。「君が乗れよ」ということです。ところが、お金がないというので、仕方なく便乗して送っていこうというのです。
ジョーがいい人でよかったですね~そうでなければこの話はその後とんでもない展開になっていたかもしれません
Super Chief は、1936年から1971年までシカゴーロサンゼルス間を結んでいた豪華寝台列車のことだそうです。車じゃなかったのね?しかもそんなこと、アメリカ人以外に言っても分からんだろうに…
などということを、授業では解説していきます。
が、手順としては、まず始めは字幕なしでシーンを見せてから、ディクテーション、英語字幕を見て確認、セリフを訳させ、グループで比べっこ、字数制限をかけて字幕にする、という作業をしていきます。最後は、日本語字幕を見て確認しながら解説をする、という課程です。
この映画は、アン王女がイギリス英語、ジョーがアメリカ英語を話すのですが、比較的聞き取りやすいので英語の勉強にはとてもいいと思います。私が持っているのは「字幕翻訳入門」という選択科目ですが、別に字幕翻訳までしなくても、上の手順のように
①字幕なしで聞き取る
②英語の字幕を見て意味を考える
③日本語字幕を見て意味を確認する
という順番でもいいし、
①先に日本語字幕を見て意味を確認しておく
②字幕なしで英語を聞き取る
③英語の字幕を見て確認する
という順番でもいいと思います。
同じ映画の同じシーンを繰り返して観ることで、かなりセリフが聞き取れるようになります。
また、お気に入りのセリフをいっしょに言ってみるのもオススメです。ある英語科の学生が「あるアニメ映画が好き過ぎて、何度も見ていたらセリフを覚えてしまいました」というので「おーすごい!英語で?(もちろんそうだよね?のニュアンスで)」と聞いたら「日本語です」と言われてがっくりきましたが・・・
まあ何度も見ていれば覚えられるということではあるので、次回は英語で聞いてくれることを期待します
ところで、この映画、いろいろと名セリフがありますが、最後に王女が大使館に戻って記者会見をするシーンで「どの都市が1番よかったか」と聞かれ、
”Rome, by all means, Rome.” と答える有名なセリフがあります。
”by all means” は大学受験の文法・語法問題集に必ず出ているので、教えるときによくこのセリフを引用するのですが、mean という語はs がつくと「手段」を表すので、「すべての手段を使っても、絶対」という意味になります。これもすぐ覚えられるいいセリフですね~。いつか使ってみたいものです♡