岩手の雄 メイセイオペラからのメッセージ | 内田利雄「ピンクなBlog」

岩手の雄 メイセイオペラからのメッセージ

ちょっとピンクな話 第129回

岩手の雄 メイセイオペラからのメッセージ


1月のことです。ソスルッテムンという3歳馬と、コンビを組むことになりました。彼の父は、岩手競馬が生んだ名馬・メイセイオペラ。菅原勲さんを背に、数々の大レースを制したメイセイオペラの子供に乗れるなんて、光栄なことですよね。


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写真提供:赤見千尋さん


ソスルッテムンと僕は2回の2着を経て、KRAカップマイルという韓国クラシックの一冠目に挑むことになりました。


レースの前日、厩舎スタッフのみなさんが言いました。

「明日、ネクタイしてったほうがいいですか?」

僕はきっぱり答えました。

「して来なきゃダメだよ。僕もそのまま表彰台に行けるように、ネクタイ締めて馬に乗るから」


そんな軽口を叩けるくらい、プレッシャーがなかったわけです(笑)。たしかに前走は、いい脚を使ってくれました。ハードな調教に、黙々と励んでくれました。でも、釜山・ソウルの強豪がしのぎを削る重賞です。ソスルッテムンを信用してないわけじゃないけど、勝つまでは……。

(ただ、1枠を引いたのはラッキーだな)

ソスルッテムンは内に馬がいると、外にモタれちゃうところがあるんです。

(内枠を利して、ぴったり内ラチ沿いを走ることができれば……)


そしてゲートが開きました。一番心配だったスタートは、毎日練習した甲斐あって、事なきを得たんです。

ところが。
スムーズなスタートを切って中団につけたはいいけど、前を行く馬のペースが、まったく上がらないんです。

(先行馬が多いから、ペースが速くなると思ってたのに~)


内でジッとしていたいのに、あまりにペースが遅いものだから、引っ掛かっちゃって引っ掛かっちゃって、何度も外にはみ出ちゃうんです。

(いや~、参ったな~)


それでもなんとか、なだめてなだめて直線へ。と、そのとき。1番人気の本命馬が、ビュンと外に出して、先頭に立ったんです。

(よし、行くぞ!)


僕は本命馬の後ろをついていくようにして、外に出しました。すると……。

先頭に躍り出た本命馬がそのまま抜け出すかと思いきや、内側に大きく斜行してしまい、2番人気の馬をやっつけちゃったんです。内にいた宮下瞳ちゃんの馬にも、影響がありました。


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写真提供:KRA韓国馬事会


気がついたときには、ビクトリーロードが用意されていました。

(カムサハムニダ~)


といっても、後ろにいるソウルの馬がどれくらいの脚を持っているのかわからないので、とにかく一生懸命追いました。勝利を確信したのは、ゴールの瞬間です。


思わず、ソスルッテムンに声をかけちゃいました。


「やったなあ、おい!」
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写真提供:KRA韓国馬事会


メイセイオペラの子供で勝てたことを、なにより嬉しく思います。


ソスルッテムンは、済州島で種牡馬生活を送っているメイセイオペラの、韓国における初年度産駒なんだそうですね。そしてメイセイオペラの子供が韓国の重賞を勝つのは、初めてだったのだとか。


僕も初めて、韓国の重賞を勝つことができました。マカオG1のマカオホンコントロフィーを勝って以来、3年ぶりの重賞勝ちでもあります。もう重賞は勝てないと思ってました(笑)。


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写真提供:KRA韓国馬事会


ソスルッテムンは調教時に、背中に13kgほどの重りを乗せられています。鞍と僕を合わせたら、80kgくらい背負ってるんじゃないのかな? それで普通の馬の2倍の調教を、気真面目に黙々とこなすんです。この過酷な調教に耐え抜けるのだから、それだけ丈夫で体力があるんですよね。


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写真提供:赤見千尋さん


人間のことを信頼しきっていて、「行けー」って言ったらバーッと行くし、「止まれー」って言ったらピタッと止まる。絶対暴れないし、すごく乗りやすい馬です。筋肉も柔らかくて、乗り心地もいいんですよ。


ただ、「こうやるんだよ」と教えてもなかなか覚えられないから、毎日毎日1から10まで教えてあげなきゃいけないんですよね(笑)。


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当歳時のソスルッテムン 韓国・済州島のプルン牧場にて 写真提供:ふじポン


この馬、面白いんです。ボーッとしたところが、すごくいいんです。彼のボーッとしたところが、僕は好きです。僕もボーッとしてるから、気が合うのかもしれません。僕も韓国語を覚えようとしても、すぐに忘れちゃうから(笑)。


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なんだかとぼけた顔をしていて、それがすごく可愛いんですよ。でも、ゴール直後の写真を見たら、別の馬みたいにキリッとしているものだから、びっくりしました。レースとなると、お父さんの血が騒ぐのかな?


枠順もよかったし、超スローペースになったのも、結果的にはよかったんだと思います。無理をして馬群についていくよりは、引っ掛かるくらいのほうが、馬にとっては楽ですからね。



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写真提供:KRA韓国馬事会


直線で早めに外に出したのも、勝因のひとつだと思います。いつもはあそこで出すと、駄目なんですよ。だけど今回ばかりは、「ああ、ここで出さなきゃ」と思ったんです。あの一瞬の判断を下したのは、僕ではありませんでした。競馬の神様が、もうひとりの頼れる自分=Mr.PINKを、久々に引っ張り出してくれたのかもしれません。


大変な状況にある方々から届く祝福の言葉を、本当にありがたく思います。岩手の雄・メイセイオペラからのメッセージが、みなさんのお心を少しでも元気づけることを、お祈りしています。


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岩手の雄 メイセイオペラ  プルン牧場にて 写真提供:赤見千尋さん


※内田騎手が<競馬総合チャンネル >の<地方競馬コース>に隔週連載中の「ちょっとピンクな話」を、(株)ネットドリーマーズさんのご厚意により、転載させていただきました。

KRAカップマイルのレース映像