アニメ版ベン・トー 総括感想 | ライトノベル名言図書館・別館2(更新休止中)

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お久しぶりです、みなさんベン・トーのアニメ化、ご覧になりましたでしょうか。
全話見た印象としては、気合いの入ったアニメ化だったと思います。 良い所もあり、至らなかった点もある、けれど決して見る価値がないとは思えない。そんなアニメ化でした。
以下が感想です。

※アニメ化された部分、原作3巻までのネタバレを多少含みますので、読む前に予めご了承下さい。

○よかった点

まず見応えのあるバトルシーン。原作ではただの殴り合いということもあり、どうしても地味になりがちなバトルも、映像化するとこんなに映えるんだな、と驚かされました。
あと、OPですね。曲が作風に合っていることもさることながら映像的に非常に良く動いていて作りこみに力が入ってました。さらに4話で著莪専用OPが用意されていたり、終盤でオルトロスが追加されたりと、元々動きが激しい、作り込みが凄まじいにも関わらず、要所要所でこういった追加があるアニメは特に低予算アニメにおいて多くないですから、嬉しい追加要素でした。
さらにBGMが格好良く、独創的で、それでありながら作風に見事にマッチしていたと思います。特に白梅様が登場するシーンで流れるBGM、バトルBGM、あせびちゃんのテーマなどが秀逸でした。
大幅なエロ要素追加に関してはグッジョブです!ただ、それのせいで本編が疎かになってしまっている印象も大きく、あまり素直に喜べなくもあるのですが・・・。

○不満点

これは原作ファンからすると明白で、改変が非常に多かった脚本と、そしてやや不安定だった作画ですね。
作画については特に第5話が一見してわかるレベルで不安定で、見所が少なく残念でした。ただ、動きの激しいバトルアニメということで仕方ないのかな、と理解しています。

脚本に関しては、2巻部分が不完全だったこと。それにも関わらずオリジナルエピソードが追加されていたこと。3巻のクライマックスシーンのカタルシスが原作と比較して一段落ちていたこと。大きく絞ってこの3点です。
特に2巻に相当する5話と6話は、物語の核となる二階堂に関するエピソードが削られてしまったことで、物語の魅力を大きく損ねてしまっていて残念でした。二階堂はベン・トー2&3巻において、佐藤に続く第二の主人公といえるほど魅力的な狼として描かれていた人物だっただけに・・・。さらにモナークの標的をウィザードから槍水仙に代えていたり、モナークの野蛮なやり口に対する狼としての決意を語る姿が描かれなかった点でしょうか。
どれもベン・トー屈指の燃えエピソードだっただけに残念です。

おそらく、3話連続で男性中心の燃えシリアスエピソードに費やすことによる視聴者離れを危惧したか、女性陣のメイン回を増やすための配慮だったのではないかと予想しています。が、私としては原作の面白さを信じて、原作通りに制作して欲しかったというのが正直な感想です。
あと9話の白梅と白粉の百合シーンは不要でした。

○エピソード毎の一言感想

1~4話
カットされたシーンこそ多かったものの、概ね原作通りといえる程度の改変で済ませており、満足な内容でした。

1話→原作で冗長だった日常シーンを大幅に省き、モノマネやチクワなどアニメならではのネタを追加した、秀逸な改変だったと思います。

2話→大猪のタンク(買い物カート)が火花を吹く演出、ウィザードの見応えあるバトルが見事でした。

3話→佐藤のメロスダッシュが3Dで描かれたり、猟犬群の組織だった動きを見事に映像化してくれました。

4話→著莪回は、心理描写が完全に省かれてしまったことこそ残念でしたが、戦闘は相変わらず格好良く、佐藤の豆腐ハンバーグへの思いが綴られるシーン、佐藤がわざと著莪にジャンケンで負けてあげるシーンなど、原作の見所を圧縮して表現できていたかと思います。

5話→一見してわかるレベルで映像的な質が落ちたのが残念でした。

6話→ウィザードの倒れ食いを映像化したのは素晴らしかったです。バトルでは、原作と同じく尺を長くして、苦戦の末倒すイメージを大切にして欲しかったです。

7話(オリジナル)→槍水先輩の水着姿が非常に描き込まれていたり、プールでの弁当争奪戦が演出的に優れていました。が、その努力と話数を帝王編の盛り上がりに費やしてほしかった。大人の事情で入れざるを得なかったとか・・・?

8話(オリジナル)→バトルがなかったのは残念ですが、内容は楽しかったですね。オルトロスは原作で最近活躍が少なかったこともあり、アニメでは感情移入させることが難しい故のオリジナルエピソード追加でしょうか。

9話(オリジナル)→これは果たして9話は帝王編を削ってまで挿入すべきエピソードでしたでしょうか。あせびちゃん、白梅、白粉、この3人に関しては、物語本編に絡んでこないこともあり、僅かなシーンで存在感を発揮させるだけで充分だったのではないかと思います。 彼女たちは物語に刺激を与える上で非常に有効なスパイスですが、あくまでも引き立て役であり、メインディッシュにするにはあまりにも辛すぎるのと思います。原作でもメインになるエピソードは短編程度ですし、立場こそサブヒロイン的な位置づけではありますが、それでも充分に存在感を発揮しており、メインエピソードを用意するまでもなかったかと思います。 仮に用意するにしても、白梅に関しては自宅を訪問するエピソードがあるので、時期的にはかなり早いですが採用してもよかったかと思います。

10話→本編を描くことに戻った10話は、前半は若干絵が崩れていたことこそ気になりましたが、非常に派手なオルトロスのバトルシーンは見事でした。彼女達があまりにも“強すぎる”ことが映像的に強調されて、良い内容だったかと思います。

11話に関しても、終盤に向けて丁寧に伏線を貼りつつ、退屈しないようオリジナルのネタを挟んでおり、バトルがないとはいえ面白さとしては申し分なかったかと思います。



○12話、最終回について
12話は、原作屈指の名エピソード。 新規視聴者に好評だったのが何よりでした。
が、原作エピソードはさらに上を行っていた・・・私はそう思います。

アニメと原作の共通している部分は“オルトロス”と“ヘラクレスの棍棒”にまつわる過去周辺、原作との差異はその後の佐藤や狼達の対応にあります。
アニメでは、ヘラクレスの棍棒の案に狼達は一度乗りかけて、腹の虫により狼としての誇りを思い出してヘラクレスの棍棒の提案を反故にするという流れでした。
対して原作では、ヘラクレスの棍棒の案に対して狼達は相手にせず無言で笑いをこらえて俯き、ヘラクレスの棍棒はそれを一方的に頷いたものと勘違い。ハーフプライスラベリングタイムの時間になった時点で全ての狼が飛び出し、誰一人狼としての誇りを見失っていなかったことが明かされる――という流れでした。ここで坊主がヘラクレスの棍棒の「何故だ!?」という質問に対し、「敗北主義者の民主的提案なんざ、ここの連中は受け入れんさ。全員、最高の弁当を食うために集まってるんだ。姑息という毒が入った弁当なんざ狙い下げだ」と返したシーンがあったのです。

最終回において原作ファンが納得できない部分があるとすれば、間違いなくここででしょう。アニメでは、一瞬とはいえ狼達が策に便乗しようとしてしまっていたことに納得できない、ということです。実際に私も原作を知っている身として、「お前たちの言う狼の誇りは、その程度で揺らぐものだったのか」と、落胆してしまいました。
ただ、原作の展開を知らなかった新規視聴者にとっては全く気にならない部分ですし、きっと素直に楽しめたことでしょう。

どうしてこういった改変がなされたかと考えると、狼全員がヘラクレスの棍棒の提案に対して否定的に判断したのであれば、その場で怒り始める狼がいないのは不自然ですし、ヘラクレスの棍棒に対する仕打ちが映像ではどうしても陰湿に見えてしまう、そういう理由ではないかと、私は解釈しています。
原作では充分な説明により充分な説得力を持った展開も、説明に多くを費やすことができないアニメにおいてはそのまま表現するわけにはいかず、こういった形になったと・・・。そう考えると、新規視聴者にとって違和感を感じさせなかったこの改変は上手かったといえるのではないかと思います。

ただ、そう理解しているだけで、納得できるかは別の話であり、私としては、どうにか原作と同じく、誇りを持った狼を描いてほしかったというのが、正直な気持ちですが・・・。


総評

70点、といったところでしょうか。

良いアニメ化だったと断じるには原作と比較して穴があまりに大きく、悪いアニメ化だったと断じるにはバトル、OP映像、1~4話までの安定したクオリティを無視するには惜しい、そんな印象です。

今回のアニメ化では原作で1巻から3巻に相当するエピソードを映像化したわけですが、2巻に相当するモナーク編で物語の軸がブレて、オリジナルエピソード3連話で完全に外れてしまったのが残念でした。原作からは短篇集が2冊出ており、オリジナルエピソードに頼らずとも、魅力的なエピソードを用意することは充分に可能でしたし、元々2巻、3巻にあったエピソードも主軸をギリギリまで削いでしまっていたので、もっと残しても良かったのではないかと思います。個人的には、やはり不必要な改変が余りにも多すぎたように感じ、容易に90点にできた内容を自ら70点まで貶めてしまっていたように感じました。

もちろん、原作を映像化するに当たって不自然でない、面白い改変を行うのは歓迎ですが、果たしてこれほど大幅な刷新が必要だったかについては疑問に思います。

もし2期があるようであればまた同じ制作会社、スタッフにお願いしたいですが、ただ、重要な原作エピソードをあまり削りすぎないことを、制作前に誓ってほしいですね。そうすればより完成度の高いアニメになるのではないかと信じています。

総括として、シリーズ構成、脚本部分に関しては大満足とまではいえないものの、映像的な作り込み、追加OPなど、原作にない魅力を見出してくれたことは大きく評価したいと思います。
この3ヶ月間、1週間のサイクルが非常に待ち遠しい、楽しみな時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
制作に関わった皆様方、お疲れ様でした。