ボツネタ


ルンバの進行方向をブラシでこすりまくって

1人カーリングごっこを楽しんでいた日曜の昼

炊飯器のスイッチが入っていないことに気がついた


私は庭で昼寝している象を呼びつけて言い聞かせた

「なぜ君はいつもこんなに詰めが甘いのですか

炊飯器に米と水をセットするところまでやったって

肝心の炊飯スイッチを押さなければホカホカご飯は食べられないでしょう?

これでは仕事をまっとうしたとは言えません

雨が降っているから分からないかもしれませんが

私は今泣いているのです

わかりますか

心に傘はさせないのですよ」


しかし象はバカなので

「口に大量の乾燥ワカメを含んで水を飲んだら

ワカメが一気に増えて窒息して死ぬかもしれない」ということばかり気にしていて

私の言葉など聞こえていない様子である

しかたなく私は象の教育をいったん諦め

目先の問題に対処することにした

今から炊飯スイッチを押したとしても

早炊きでも27分の待ち時間だ

せめて水の沸騰を早めることができれば

もう少し早くご飯が炊けるかもしれない


私は炊飯器を小脇に抱え

象にまたがると尻をひっぱたきながら叫んだ

「象、ゴー!」

その瞬間

象の後ろ足がロケットに変形し

私を乗せたまま遥か上空に向けて飛び出した

街がどんどん小さくなり

やがて私たちは雲を越え

「空と宇宙の出会う場所」へとたどり着いた


急激に下がった気圧のため

炊飯器の中の水がボコボコと沸騰し始めた

成功だ!

しかし象はバカなので

ちょうどいいところで止まるという発想がなく

やがて私たちは成層圏を抜け

大気を飛び出し

ついでに太陽系ともお別れし

銀河の外

誰も到達したことのない領域へと旅を続けた

さすがに家のコンセントから延ばしていた延長コードもこの辺りで限界を迎え

炊飯器は沈黙し

私たちは真空と無重力の中

ペコペコの腹が鳴る音だけを道連れに

永遠とも思える世界を漂った


もう

炊きたてご飯は諦めよう


自暴自棄になった私は炊飯器を開け

米粒と水を放出した

ご飯のおともに持参していた炙り焼き明太子も投げ捨てた

するとどうだろう

米と米が

さらに明太子のつぶつぶがぶつかり合い

互いにくっつき合いながら大きな球体へと成長していくではないか


星の誕生である


米と一緒に放った水や

バカな象が垂れ流し続けている糞も吸収し

その星は

豊かな水と有機物に恵まれた環境を手に入れた

やがて生命が生まれ

あまたの淘汰を繰り返しながら進化し

明太子の遺伝子を持つ知的生命体「知的生明太子」が繁栄し

文明が築かれ

街ができ

私たちは天地創造の神としてあがめられることとなった


私はその新しい星に降り立ち

炊飯器のスイッチを入れ

27分後

早炊きのためちょっと固めに炊き上がったご飯に知的生明太子をのせ

大きな口で頬張った

美味い、美味すぎる


しかし象はバカなので

地球に残してきたレンタルビデオの延滞料金を気にして

泣いてばかりいる

象の心にも傘はさせないようである